高市政権の支持率はどうしてメディアでこんなに違うのかを精査する

読売新聞の6月の世論調査(6月19〜21日)の調査概要を眺めていて、ふと手が止まった。固定電話の回答率が55%、携帯電話が28%固定にかけた人の半分以上が答えているのに、携帯は7割が無視している。この「出る人」と「出ない人」の差から、ひとつの仮説が頭に浮かび、そこから各社の数字を全部並べて検証していったら、最後は「世論調査の正しい読み方」そのものにたどり着きました。長くなりますが、その思考の道のりを丸ごと書きます。

このエントリーを江川さんに捧げます。w

高市首相 首相官邸HPより

まず事実:6月、各社で支持率がここまで違う

高市内閣の支持率は6月にどこも下がりました。中傷動画問題が効いています。ただ、その「水準」が社によって10ポイント以上ばらつく。同じ国の、同じ月の世論のはずなのに、です。確認できた6月の数字を並べます。
ネット調査の毎日(5月50%)が一番下、対面の時事が54.3%、電話RDDが56〜65%。最高の産経FNNと最低の毎日では15ポイント開いています。これは「世論」の違いではなく、明らかに「測り方」の違いです。図にするとこうなります。
▲ ネット<対面<電話、という並びがきれいに出る

仮説①「固定電話が多い社ほど高齢者偏重で高支持」→ あっさり没

最初に疑ったのは固定電話比率です。固定電話に出るのは高齢者が多い。高齢者は与党に甘い。だから固定が多い社ほど高く出るんじゃないか、と。
ところが各社の固定:携帯比率を調べると、どこも概ね固定4:携帯6で横並びでした。産経FNNが公称「固定4:携帯6」、読売・朝日・NHKも似たような比率。比率がほぼ同じなら、これで各社の差は説明できません。この仮説はここで終了です。

仮説②「対面調査=在宅の高齢者ばかり」→ 逆に仮説を潰す

次に目をつけたのが時事通信です。時事は電話ですらなく、調査員が家を訪ねる個別面接。平日に在宅して応対できるのは高齢層が中心になりがち。これぞ「高齢偏重」の代表方式です。
でも、ここで論理が破綻します。「対面=高齢偏重」かつ「高齢=高市支持が厚い」が正しいなら、時事は各社で一番高くなるはず。実際は54.3%で各社最低クラス。因果が真逆なんですね。

仮説③「知らない電話に出る人=情報の更新が遅い人」→ ここが本命

私が本当に言いたかったのは、年齢の話ではありませんでした。「知らない番号にうっかり出てしまう人」という、行動と情報感度の話です。
オレオレ詐欺の報道をちゃんと見ている人は、不明番号を「出ない・ブロックする」。だから電話調査で最後まで答える人には、そういう警戒(=ニュースへの接触)が薄い層が相対的に多く残る。そして、ニュースへの接触が薄ければ、中傷動画問題のような新しい悪材料を支持に反映するのが遅れる。結果、電話調査の支持率は実態より「粘って」高く出る——これが私の仮説です。
これを裏づける、ほぼ理想的なデータがありました。選挙ドットコム×JX通信社の調査です。ここは同じ設問を、電話とネットで同時にかけている。設問も時期も揃っているので、純粋に「方式の差」だけを取り出せる。

ただし——分離できない交絡が一つある

ここは正直に書きます。「電話>ネット」には、私の仮説と観察上まったく区別できない対抗仮説があります。面接者効果です。生身の人間に電話口で「支持しますか」と聞かれると、人は「支持」と答えやすい(迎合・社会的望ましさ)。自分一人でポチポチ答えるネットだと、正直に批判的になる。内閣府の検討でも「面接法は本音を言いにくい」という指摘があり、逆にネットも利用者層が偏るので「真の値」ではない。
この2つは、どちらも「電話>ネット」を生むので、全体の数字だけでは切り分けられません。決着をつけるなら、同一調査内の「固定 vs 携帯」サブサンプルで支持率を比べるか、「動画問題を知っているか」で割ったクロス集計が要る。各社この内訳をほぼ公表しないので、現状は「どちらもあり得る」が誠実な結論です。

新聞社にいた友人の証言:「社名で協力者が偏る」

ここで、大手新聞社で世論調査をしていた友人がこんな話をしてくれました。「朝日だと名乗ると保守の人は協力しづらい。産経だと左派が協力しづらい。だから各社の数字はそのメディアの色に寄る。NHKが一番中立になる」と。鋭い指摘です。検証してみました。
まず前提。各社ともRDD(無作為に番号を生成して架電)なので、「朝日が朝日読者に聞いている」わけではありません。だから友人の話は「読者層の違い」ではなく、無作為にかけた相手が冒頭で『朝日です』と聞いた瞬間、保守層が切るという非回答の偏りの話。社名は名乗るので、機構としては作動し得ます。
ところが、当事者の見方は違いました。朝日と産経の現役記者が各社差を解説した回で、産経の記者は「他紙より今の政権に強めの数字が出る傾向はある」と自ら認めています。ここは友人の直感と一致。でも差の主因として挙がるのは社名ではなく設問の作りでした。たとえば日経は「どちらとも言えない」に「しいて言えば?」とさら問いするので、政権支持が上向きに出る。毎日と時事が低いのも方式の違い、という説明です。

「NHKが一番中立」は半分だけ正しい

NHKは毎回ほぼ中央に位置します(6月60%)。公共放送なので社名による拒否の偏りが小さい可能性もあり、「中央」という観察自体は妥当です。
ただ留保が2つ。①中央値は真値ではありません。偏った推定値の真ん中が、たまたま正しいとは限らない。②NHKの中立性自体が論争的です。受信料や経営委員の任命構造から「政権寄り」と見る人も、その逆を言う人もいる。だから「NHKを信じる」は最適解ではないんです。
この問いには、プロがすでに答えを出していました。埼玉大学社会調査研究センターの松本正生教授は、会社ごとの数字の違いはあまり気にせず変化の傾向(トレンド)を追うことに意味があるとして、2017年から主要社の単純平均を公表しています(方式の異なる産経は平均から除外)。内閣府の検討も「同じ主体・同じ方法なら短中期で同じバイアスがかかり続けるので、社間でトレンドは一致しやすい。時系列を捉えることが大事」と結論づけています。
つまり——水準(レベル)は各社の癖が乗るので横比較しても意味が薄い。でも方向(トレンド)は共通。これが世論調査の正しい読み方です。実際、今回の高市内閣の下落は、高く出る産経・読売・日経も含めて全社が同じ方向に動きました。
▲ 高く出る社・中央・低く出る社で水準は10ポイント以上違うが、6月はそろって下落
ネット界隈でよく見る「マスゴミの電話調査は当てにならない」も、「世論調査は科学だから数字を信じろ」も、どちらも雑です。正しくは——水準は信じるな、方向を信じろ。固定電話の回答率55%という小さな数字から始まった疑問は、最後にこの一行に行き着きました。世論調査を見るときは、ぜひ「どの社が高いか」ではなく「各社そろってどっちに動いたか」を見てください。
出典:時事通信、共同通信、産経・FNN、NHK、毎日新聞、読売新聞 各社公表値(2026年6月、毎日は5月)/選挙ドットコム×JX通信社「電話×ネット意識調査」/埼玉大学社会調査研究センター(松本正生教授)/内閣府「世論調査の実施方法に関する調査」。数値は各社公表の最新値に基づく。読売6月の支持率および一部社の6月値は本稿執筆時点で未確認のため割愛。

コレは5年前の本ですがこの5年でだいぶん変わってきたようにも思います。オレオレ詐欺や警察詐欺の浸透と詐欺被害の爆増。高齢者へのスマホ普及などです。


世論調査の真実


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年6月22日の記事より転載させていただきました。

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