
日本代表、26日のスウェーデン代表戦を引き分けで終えました。この結果を経て、グループリーグ2位通過。Round of 32ではモロッコ代表との対戦ではなくブラジル代表、通称セレソンと当たります。
ブラジル代表といえば日本代表の長年のお手本であり、世界で戦う上での「壁」です。昨年、親善試合で「歴史的勝利」を飾った相手ですが、この時の結果は参考になりません。この時は明らかに日本を舐めた2軍レベルのチームでした。今回のブラジル代表はフルメンバーです。日本はブラジル代表に実質的には未勝利なのです。
つまり、ブラジル代表は今も日本代表にとっては強大な壁なのです。この対戦をピンチのように捉える方も多いことでしょう。
モロッコ代表と当たらなくて良かった?
ですが、仮に1位通過でモロッコと当たっていたらどうでしょう? 実は筆者は、日本代表がベスト8を超えて真の優勝候補となるためには、このRound of 32ではモロッコ代表と当たらなくてラッキーだったと考えています。
なぜなら、今のモロッコ代表のFIFAランキングはブラジルに次ぐ6位。オランダより上位です。
そもそも、ブラジル、モロッコ、オランダのFIFAポイントは僅差です。3カ国の実力はかなり拮抗していると言ってよいでしょう。
そして、森保ジャパンとの相性を考えると、最も悪かったかもしれません。それは、ストロングポイントが森保ジャパンと同じだからです。
モロッコ代表とはシステム、戦術が似ている
まず基本布陣。モロッコ代表は4バックですが守備時にはウィングバックのどちらかが下がって5バック気味になります。日本代表は基本は3バックですが守備時は両ウィングが下がって5バックに、マイボール時はボランチが下がって実質4バックになります。
主要なストロングポイントも、インテンシティの高い中盤の守備、組織力、特定の個の力に頼らない攻撃。これはもう、対戦していたら「ミラーゲーム(似たようなチーム同士の対戦)」になったことは必至です。
ミラーゲームに持ち込まれたら個の力で不利に…
さらに、突出した個に頼らない分、「誰かを抑えればストロングポイントを潰せる…」というシンプルな対策が通用しません。そして、これが何より大事なのですが、選手の時価総額を比較するとモロッコ代表は4億4,770万ユーロ(約761億円)と世界14位であるのに対して、日本は20位以下の約500億円…。選手の質では森保ジャパンより上だと評価されています。
これはもはや森保ジャパンの上位互換バージョンです。ミラーゲームになると、上位互換のチームに軍配が上がることが多いものです。ブラジル代表よりも勝利を手繰り寄せるのが困難な相手だったのです。
ということで、2位通過で本当に良かった!! と筆者は考えています。
ブラジル代表攻略への青写真
とはいえ、ブラジル代表は言わずと知れた世界最高峰のタレント軍団です。モロッコ代表とは相性が悪そうだったとはいえ、ブラジル代表を攻略し、勝利を収めることが困難な壁であることは間違いありません。日本サッカー界にとって最大の挑戦の一つと言っても過言ではないでしょう。
現在のブラジル代表は、市場価値において日本(約3億〜4億ユーロ)の3倍以上に相当する約9億〜10億ユーロという圧倒的な規模を誇ります。選手個々の足し算だけで考えれば、勝てる可能性のない相手なのです。
しかし、森保ジャパンが得意な戦術的な緻密さと組織的な連動性をフルに活かせれば、その「個の足し算」の壁を打ち破ることは十分に可能です。さらに、日本代表にも伝統的とも言える弱点があるように、ブラジル代表にも伝統的とも言える弱点があります。
今の森保ジャパンならブラジル代表のストロングポイントを潰し、ブラジル代表の伝統的とも言える弱点を引き出す戦い方が可能かもしれません。そこで、日本代表の勝ちプランに持ち込む戦略を考察してみましょう。
ブラジル代表の伝統的ともいえる弱点とは?
サッカーブラジル代表(セレソン)は、個人の技術や実績では常に世界最高峰に位置しています。しかし、実は次のような3つの「心理的な弱点」を抱えていることが多いのです。
1. 国民からの「プレッシャー」
ブラジルにおいて、サッカーは単なるスポーツではありません。国家の誇り、国民の誇り、そして応援する人たちの存在意義そのものです。
したがって、単なる「勝利」では許されません。美しく、国民を楽しませる「見事な勝利」しか許されないのです。その心理的な重圧は凄まじいものがあります。
相対的に楽観的な国民性ではありますが、やはり彼らも人間です。その重圧に耐えられないケースもあります。
象徴的な出来事としては、2014年ブラジルW杯。当時のスコラーリ監督が大会中に心理カウンセラーを緊急招集しました。自国開催、国民から負けが許されない。そのストレスは常軌を逸していることを実感するエピソードです。
今回は自国ではありませんが、北中米ということで多くのサポーターが駆けつけています。ブラジル大会で優勝をドイツにさらわれた雪辱への期待も高いです。プレッシャーにさらされていることは間違いないでしょう。
2. 情熱的という諸刃の剣
ブラジルの選手たちは感情豊かで情熱的。その個々の情熱が噛み合えばびっくりするような美しいサッカーを披露してくれます。
ですが、試合展開が予想外の方向に進むと、その情熱が裏目に出ることがあります。たとえば日本代表のような格下と思っている相手にリードされたり、あるいは粘られたりすると、彼らの情熱は苛立ちに変わります。また、一人ひとりが自信を持っていることも悪い方向に働き、個人の力に頼った強引なプレーに走ることがあるのです。
今の森保ジャパンのメンバーであれば1対1ではやられてしまっても、1対2、1対3であれば刈り取ることができます。こういう展開に持ち込めれば、日本代表の勝機は大きく広がるでしょう。
3. 「絶対的な精神的支柱(リーダー)」の不在
今大会のセレソンは、ネイマールやヴィニシウスといった卓越したスター選手が多いものの、「強烈な精神的リーダー」が見当たりません。
かつてのブラジル代表には日本では絶頂期のジュビロ磐田で活躍したドゥンガや、中田英寿ともローマでチームメイトだったカフーのようなピッチ上の指揮官がいました。予想外の事態でも彼らが修正していたものでした。
もちろん、今のカゼミロなど冷静で修正力のあるベテランには事欠きません。しかし、アタッカー陣は若くして欧州のメガクラブでスターになっています。冷静なベテランの静かな姿勢は届きにくいことでしょう。無敵だった時代のブラジル代表ほどのチームとしての修正力はないだろうと考えられています。
ブラジル代表の心理的弱点を引っ張り出す、10個の罠という包囲網
このようなブラジル代表の弱点を引っ張り出せれば、森保ジャパンには十分な勝機があります。そのための第一歩は、彼らの最大の武器である「個の打開力」を無力化する守備組織です。
正面から打ち合って1対1の勝負を…という守備をしてはダメです。両チームの布陣は基本的には下図のようになると予想されています。

5-4-1が作り出す鉄壁のトライアングル
「5-4-1」システムが作り出す「10個の⊿」の守備ブロックを敷くことで、「獲物」を狩る罠を仕掛けます。もちろん、ブラジル代表もまんまと罠に入り込むことはないのですが、リスクを冒さなければチャンスを作れない、リスクを冒しても弾き返される…という状況を作ることが最優先です。
攻撃時にはブラジル代表は2枚のボランチの1枚が上がって組み立てに加わり、分厚いパスコースを構成します。さらに全員がDFを1枚は確実にはがせる技術を持っているので、1タッチ、2タッチで面白いようにボールを回しに来ることでしょう。
ですが、日本代表の5-4-1システムは中盤のどこに入れられても、入れられそうになった瞬間にボールの受けどころを3方向から狙うことが可能です。高い集中力の維持が不可欠ですが、これは日本人の得意技です。時間とスペースを与えない守備、これを粘り強く繰り返せば、ブラジル代表の心理的弱点をじわじわとあぶり出すことができるでしょう。
そして、ブラジル代表とモロッコ代表とのゲームを見ていると左サイドで日本の中村敬斗選手と似たようなドリブルで仕掛けられたら突破を許している場面もありました。マイボールにできたら、森保ジャパンは相応のチャンスを作り出せることでしょう。
まとめ
歴代の日本代表はW杯のトーナメント戦でいまだ未勝利です。ブラジル代表戦が歴史的な勝利という1戦となるか、それともこれまでのような悔しい思いを繰り返すことになるのか、日本人として楽しみです。
歴史が生まれる瞬間を目撃できることを願って、熱いエールを送りましょう。
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杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
臨床心理士(公益法人認定)・公認心理師(国家資格)・1級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)。
1990年代後半、精神科におけるうつ病患者の急増に立ち会い、うつ病の本当の治療法と「ヒト」の真相の解明に取り組む。現在は大学で教育・研究に従事する傍ら心理マネジメント研究所を主催し「心理学でもっと幸せに」を目指した大人のための心理学アカデミーも展開している。
日本学術振興会特別研究員などを経て現職。企業や個人の心理コンサルティングや心理支援の開発も行い、NHKニュース、ホンマでっかテレビ、などTV出演も多数。厚労省などの公共事業にも協力し各種検討会の委員や座長も務めて国政にも協力している。
サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」以来、日本サッカーの発展を応援し各種メディアで心理学的な解説も行っている。








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