イランで今月4日から始まった最高指導者アリ・ハメネイ師の告別式は9日、同師の遺体がイラン北東部にあるハメネイ師の故郷マシュハドで埋葬されたことで、6日間の国葬行事を全て終えた。

マシュハドでハメネイ師の埋葬が行われ、国葬の全ての式典が終わった。2026年7月9日、IRNA通信
興味深い点は、イラン革命防衛隊(IRGC)がハメネイ師の葬儀の全日程がまだ終了していない6日から7日にかけ、ホルムズ海峡航行中のサウジアラビアやカタールなどのタンカー計3隻を無人機(ドローン)などで攻撃したことだ。7日の朝にも攻撃が確認された。それに対し、米中央軍は7日夜、「商船への攻撃は絶対に容認できない」としてイラン内の約80か所の軍事拠点に報復攻撃した。それに反発したイラン軍はクウェートとバーレーンの米軍拠点を攻撃。米中央軍は8日に入ると、約90か所のイラン側の軍事拠点などに再度報復攻撃。イラン軍は9日にもクウェートとバーレーン、カタールにある米軍基地への攻撃を実施した。米イラン間で攻撃、報復の戦闘が繰り返された。
トランプ米大統領は8日、トルコの首都アンカラで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会談で記者団の質問に答え、「米イラン間の合意覚書の戦闘停戦は終わった」と指摘し、イランとの戦争の再開を示唆した。ただし、同大統領はその直後、「戦闘は短期間で終わるだろう」と述べ、本格的な戦闘再開ではないとの考えを明らかにした。同時に、トランプ氏は「イラン側から連絡があり、彼らは交渉を願っている」と述べ、米イラン間の交渉は継続されるだろう、との見通しを明らかにしている。
イラン指導部に米国との対応で混乱が見られる。ホルムズ海峡で商船を攻撃したこと、その直後の「米国との交渉を願っている」というトランプ氏の証言はそのことを強く示唆している。
具体的には、米国との交渉を願うモハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長やマスード・ペゼシュキアン大統領ら現政権メンバーと、IRGCのトップ、アフマド・ヴァヒディ最高司令官らIRGC指導部との間の権力闘争だ。
米イランが6月、戦闘終結の合意覚書に合意し、最終的合意の実現を目指して動き出したことを快く思わないIRGC内の強硬派からは、ガリバフ議長やぺゼシュキアン大統領らを「クーデターを企てている」と批判する声すら聞かれる。
海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」はペゼシュキアン大統領とIRGCのアフマド・ヴァヒディ(Ahmad Vahidi)司令官の間で、戦争への対応と、それが国民生活や経済に及ぼす影響を巡り、深刻な意見の相違が生じていると報じていた。
IRGCはハメネイ師が2月28日、米イスラエル軍の空爆で殺害されるといち早く後継者にハメネイ師の息子モジタバ・ハメネイ師を担ぎ出して、既成の権力の維持に乗り出した。モジタバ・ハメネイ師が3月、イラン専門家会議から第3代の最高指導者に選出されて以来、新指導者はこれまで公の場に姿を現したことがない。パゼシュキアン大統領は新最高指導者に選出されたモジタバ・ハメネイ師と接触し、今後の国家運営について協議しようとしたが、ヴァヒデイ司令官に阻止されたという情報が流れた。
イラン専門家の政治学者で国際危機グループ(ICG)のイラン・プロジェクト・ディレクターのアリ・バエズ(Ali Vaez)氏は、「米イスラエル軍との戦争を経験したイランは戦争前より危険なイランだ」と指摘する。同氏は「テヘランの強硬派は新たな武器を手に入れた。ホルムズ海峡を封鎖することで、世界経済を人質に取ることができるからだ。さらに、戦争への恐怖は薄れてしまった。世界最強の軍事大国の米国と、世界最高の情報機関であるイスラエルの支援を受けた攻撃に耐えることができたことで自信を深めている」というのだ。バエズ氏によれば、「革命防衛隊内部の強硬派による新たな指導部が権力を掌握した。以前にも増して危険なイランが誕生した」と分析している。
ちなみに、イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配されており、純粋な民間企業はほとんど存在しない。イラン革命防衛隊も石油とガス産業、建設と銀行だけでなく、農業と重工業にも組み込んでいるコングロマリットを所有している。IRGCが世襲批判のリスクを冒してまでモジタバ・ハメネイ師を後継者に担ぎ出した背景には、「利権の保護」という切実な理由があったはずだ。
ところで、イラン内ではIRGCを解体して国軍に統合すべきだという議論が改革派から出てきている。保守派の日刊紙「ジョムフーリ・エ・エスラミ」は、イランの安全保障と経済状況のために軍事構造の見直しが必要だと主張し、IRGCを正規軍に統合することを提案して注目された。それに対し、超保守系の新聞「カイハン」は「IRGCを排除するプロジェクトだ。専門家の議論ではなく、イスラム共和国の防衛部隊を弱体化させるための外国プロジェクトの継続だ」と一蹴。「IRGCを解散することはイスラム革命の武装解除と正当性の剥奪を意味する」と付け加えている。
なお、故ハメネイ師はIRGCの主任務をイスラム革命とイスラム共和国の防衛と定義し、正規軍にイランの国境防衛の責任を割り当てることで議論を解決しようとしてきた経緯がある。
結論を急ぐとすれば、ホルムズ海峡の商船への攻撃は、米イラン間で戦闘終結に関する基本合意覚書ができたことに衝撃を受けたIRGCが米軍を戦闘に引き込む狙いから実行されたのではないか。
いずれにしても、イラン指導部の権力争いは目下、IRGC優位の状況だ。トランプ米政権がIRGCの誘いに乗って本格的な戦闘を再開すれば、米イラン間の戦闘は再度、激しくなるだろう。中間選挙を控えたトランプ政権にはイラン戦争に時間をかける余裕がない。IRGCはそのことを織り込み済みだろう。

イラン モジタバ・ハメネイ師 Wikipediaより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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