『国宝』の余韻を深める映画『木挽町のあだ討ち』

出口里佐です。

映画『国宝』の大ヒットによって、歌舞伎がこれまでになく注目を集めています。

そんな折、ドイツへ向かうJAL便の機内で何気なく選んだ一本が、『木挽町のあだ討ち』でした。

「フライト中に気軽に楽しめる時代劇だろう」——そんな軽い気持ちで見始めたのですが、良い意味で期待を裏切られました。

謎解きの面白さ、人情味あふれる登場人物たち、そして最後に待つ鮮やかなどんでん返し。巧みに張り巡らされた伏線が終盤で見事につながり、「そういうことだったのか」と思わず膝を打ちたくなる完成度です。

もちろん、これ以上はネタバレになるので触れません。

私が特に惹かれたのは、歌舞伎の舞台裏が丁寧に描かれていることでした。

華やかな舞台の陰で支える役者、裏方、芝居小屋の人々。それぞれが誇りを持ち、自分の役割を果たしている姿からは、日本の伝統芸能が多くの人の支えによって受け継がれてきたことが伝わってきます。

私はたびたびヨーロッパを訪れ、パリ・オペラ座やロイヤル・バレエ、シュトゥットガルト・バレエなどで公演を鑑賞しています。

どの劇場でも感動するのは、舞台に立つスターだけではありません。照明、衣装、舞台監督、大道具、小道具など、多くのスタッフが一つの作品を作り上げています。その光景は、この映画が描く芝居小屋の世界ともどこか重なって見えました。

だからこそ、この作品は歌舞伎ファンだけでなく、オペラやバレエ、演劇など舞台芸術を愛する人にも薦めたい一本です。

上映時間もほどよく、テンポも軽快。随所にユーモアが散りばめられており、『国宝』のような壮大な人生ドラマとは異なる味わいながら、観終えた後には心地よい余韻が残ります。

『国宝』が歌舞伎という世界の「芸」を描いた作品だとすれば、『木挽町のあだ討ち』は、その芸を支える人々や芝居小屋全体の息づかいを描いた作品と言えるでしょう。

私自身、この映画を観終えたあと、久しぶりに歌舞伎座へ足を運びたくなりました。

映画が新しい旅へ誘うことがあります。『木挽町のあだ討ち』は、歌舞伎という日本が誇る舞台芸術への扉を、優しく開いてくれる一本でした。

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