アップルは、営業秘密を不正に取得したとしてOpenAIと同社の最高ハードウエア責任者、タン・タン氏を提訴した。
両社はつい最近まで、AI分野における重要なパートナーだった。ところがOpenAIが独自のデバイス開発に乗り出したことで、その関係は協力から競争へと急速に変化した。

Siriを支えたOpenAI
OpenAIは、アップルのAI機能「Apple Intelligence」や音声アシスタント「Siri」にChatGPTの技術を提供してきた。
AI開発で出遅れたと指摘されてきたアップルにとって、OpenAIはその弱点を補う重要な提携先だった。OpenAIにとっても、世界中に普及するiPhoneやMacにChatGPTを組み込めることは大きな利点だった。
少なくとも表面上は、両社の利害は一致していたが、OpenAIがソフトウエアだけでなく、独自のAI端末を開発し始めたことで状況は一変した。
AI端末の開発でアップルと衝突
OpenAIは、アップルの元最高デザイン責任者であるジョニー・アイブ氏と連携し、新たなAIデバイスの開発を進めている。
それがスマートフォンに代わる新しい端末を目指すものであれば、最大の影響を受けるのはアップルである。ChatGPTを提供する協力相手だったOpenAIが、iPhoneの次を狙う競争相手になったからだ。
アップルが10日に提出した訴状によると、OpenAIは開発中の製品に必要な情報を得るため、アップルの社員に未発表製品の情報や部品、図面、その他の資料を共有するよう働きかけたという。
被告となったタン・タン氏は、以前アップルで製品設計担当バイスプレジデントを務め、iPhoneやApple Watch、AirPodsなどの開発を統括していた。
訴状によると、現在OpenAIには400人以上の元アップル社員が在籍している。人材の引き抜きが激しいシリコンバレーでも、これほど大規模に人材が移れば、アップルが警戒するのも無理はない。
アップルが恐れる「iPhoneの次」
アップルは、OpenAIが社員や取引先を通じて、継続的に営業秘密や機密情報を取得したと主張している。さらに、OpenAIのハードウエア事業について、不正に取得した営業秘密に依存した「脆弱な土台」の上に築かれていると強く批判した。
アップルはOpenAIに対し、機密資料の廃棄だけでなく、自社技術を一切使用しない形で製品を設計し直すよう求めている。
これは単なる損害賠償請求ではない。OpenAIのAI端末そのものを作り直させようとする要求であり、認められれば製品開発や発売計画に大きな影響を与える可能性がある。
パートナー関係は終わるのか
OpenAIは「他社の営業秘密には一切関心がない」と疑惑を否定している。現時点では、アップル側の主張が事実と認定されたわけではなく、実際に不正な情報取得があったかどうかは今後の司法手続きで争われる。
それでも今回の訴訟は、両社の関係が大きく変わったことを示している。OpenAIがAIモデルを提供するだけなら、アップルにとって便利なパートナーだった。しかし、OpenAIが独自の端末を持ち、ハードウエアとソフトウエアを一体で提供しようとすれば、アップルの事業モデルそのものと衝突する。
アップルは長年、端末を入り口にしてソフトウエアやサービスを囲い込んできた。これに対しOpenAIは、AIを中心に新たな端末とサービスの生態系を構築しようとしている。
今回の提訴は、企業秘密をめぐる争いであると同時に、AI時代の主導権を誰が握るのかをめぐる争いでもある。OpenAIは、アップルのAIを支えるパートナーから、アップルが最も警戒すべき競争相手へと変わったのである。






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