なぜ9条改正を正面に据えないのか(筆坂 秀世)

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂 秀世

高市早苗一強政権が誕生して憲法改正論議が活発化すると思ったが、どうもその方向が私には理解できない。新聞、テレビの報道を見ていると「緊急事態対処」や参院の「合区」などが議論になっているようだ。国会での議論をそれほど精緻に見ていないが、いつからこれらのテーマが焦点になってきたのだろう。

緊急事態条項というのは、①大規模な自然災害 ②感染症の大規模な蔓延 ③内乱などによる社会秩序の混乱 ④外部からの武力攻撃——などとされている。緊急事態と認定されれば、国会議員の任期延長、内閣が一時的に国会機能を代行する「緊急政令」なども可能になるものだ。

だが内閣の緊急政令権や国会議員の任期延長など、どう考えても簡単な話ではない。現に改憲支持派でも問題によって意見が分かれているという。

参院選挙区の鳥取と島根、徳島と高知が合区になっていることの解消も課題に挙がっている。大事ではないとは言わないが、今これが憲法改正の焦点なのか、理解しがたい。

この改憲案に対して安倍晋三元首相のスピーチライターを務めた元内閣官房参与の谷口智彦氏は、5月18日付産経新聞で、「『緊急事態の備え』と『参院の合区解消』の2案で憲法改正を発議したい・・・。自民党にこの主張が多く、談話の端々から高市早苗総裁自身も同意見であるやに窺(うかが)えるのは、大いに落胆させる話だ」と指摘している。もちろん谷口氏が指摘したいのは、本丸の9条改正になぜ直進しないのかと叱咤するものである。

谷口氏は、「右2案を先にと主張する向きには、まず国民に改憲経験を持ってもらうのが先決、本丸『9条』はその後でよいと、考える傾向がある」。これこそ日和見だと批判している。

この点は憲法学者である西修駒大名誉教授も同様だ。私も同じ立場である。西氏は、「いま第一になされるべきは、自衛隊の位置づけを明確にすることである。私は自衛隊を『戦力』と解した上で、自衛隊の存在を憲法に明記するのが最適解であると考える」(5月22日付産経新聞)と語る。

憲法9条2項は、「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めている。誰が読んでも意味は明白だ。だが歴代政府はどこから見ても軍隊の自衛隊を合憲の実力組織と説明してきた。それは日本には、自衛権があり、我が国を防衛するために必要最小限度の実力組織としての自衛隊を持つことは憲法上も認められるという解釈によってだ。

だが相当無理筋の苦しい解釈であることは明らかであり、自衛隊の存在をもっと明確なものにすべき時なのだ。緊急事態の場合でも、自衛隊抜きの対応などあり得ないだろう。緊急事態への対応を真剣に考えるのであれば、9条改正、自衛隊の明記を正面から国民に問うべきである。

ロシアや中国の覇権主義・拡張主義、北朝鮮の乱暴なミサイル・核開発などを見れば、多くの国民が自衛隊の憲法への明記に賛同するはずだ。正面からの挑戦を期待する。

筆坂 秀世
政策提言委員・元参議院議員。1948(昭和23)年、兵庫県生まれ。高校卒業後、三和銀行入行。1966年、18歳で日本共産党に入党、1973年、25歳で銀行退職し、国会議員秘書になる。1995年、参議院議員に初当選。2001年、2度目の当選。この間、日本共産党政策委員長、書記局長代行、党常任幹部会委員などを歴任。2003年、参議院議員辞職。2005年、日本共産党を離党。現在、執筆や講演活動、TV出演などで評論活動を展開。JFSS政策提言委員。
著書に、2006 年刊行の『日本共産党』(新潮新書)が12 万部を超えるベストセラーとなる他、『論戦力』(祥伝社新書)『悩める日本共産党員のための人生相談』(新潮社)、『日本共産党と中韓』(ワニブックス)、共著『参議院なんかいらない』『自民党はなぜ潰れないか』(幻冬舎新書)、『どん底の流儀』(情報センター出版局)等多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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