新卒の給与逆転に怒る人は「自己評価が高すぎる」

黒坂岳央です。

日本経済新聞が報じた「新卒の方が高給なら転職検討7割超」というニュースが話題になっている。

SNSでは「企業は社員を大事にしろ」「ベテランを冷遇する愚行」といった批判が並ぶ。しかし、この反応そのものが、実は日本人の給与観がいかに市場から乖離しているかを露呈している。

新卒逆転に腹を立てる気持ちはわからなくもないが、個人的には市場感覚があまりないような印象を受ける。筆者の意見としては社内評価より市場評価を優先するべき、というものだ。

Mikhail Seleznev/iStock

給与アップは新卒だけではない

帝国データバンクの調査(2026年度、有効回答1,541社)によれば、2026年4月入社の新卒に支給する初任給を引き上げる企業は67.5%にのぼる。平均引き上げ額は9,462円で前年より増加している。

この数字だけ見ると「新卒優遇が加速している」ように見えるが、実は前年(71.0%)より3.5ポイント下がっている。企業側も無制限に新卒だけを優遇しているわけではない。

それでも約7割が引き上げに動いているのは、単純な話で、新卒という「人材」の市場価格が上がったからだ。これは企業が慈悲深くなったわけではなく、採用できなければ事業が回らないから、市場価格に合わせて支払っているだけである。

同じ帝国データバンクの別調査(2026年度賃金動向、有効回答10,620社)では、ベースアップを実施する企業は58.3%で5年連続過去最高を更新している。総人件費は平均4.51%増の見込みだ。つまり多くの企業は新卒だけでなく、既存社員側の給与テーブルも同時に動かしている事がわかる。

SNSでは「新卒優遇を許すな」という意見が多く見られるが、新卒だけを上げてベテランを放置する企業はあっても主流ではないことがわかる。

それでも「逆転」に不満を持つ人がいる理由

ここで問うべきは、なぜこの状況にここまで感情的な反応が集まるのかという点だ。答えは単純である。多くの人が、自分の給与を「社内での相対評価」でしか測っていないからだ。だがハッキリ言って、「社内評価は正確」という前提が間違っていると思うのだ。

新卒逆転に怒る人の思考回路は、「自分は何年もこの会社に貢献してきた。経験もスキルも新卒より上のはず。それなのに給与で逆転されるのはおかしい」というものだろう。だが、この論理には二つの穴がある。

1つ目、どの企業も社員の貢献度を100%正確に評価する仕組みは持っていない。人事評価は上司の主観、部署間のパワーバランス、査定タイミングの運不運など、様々なノイズを含む。つまり「自分は正当に評価されているはずだ」という前提自体が、そもそも成立しない。

こういう話をすると「日本はダメ」という意見が増えるので、アメリカの事情を話すと、米国企業では強力な人事権を持つ上司のゴマすりが常態化している。これはネットのネタを鵜呑みにしたのではなく、自分がアメリカ系外資に複数社勤務してきたので肌感覚からもそう言える。「実力だけを正当に評価」という企業は基本的には「ない」と思った方がいい。

2つ目、自己評価が高すぎる。心理学で知られる「ダニング=クルーガー効果」の通り、能力の低い人間ほど自分の能力を過大評価する傾向がある。つまり「自分はもっと評価されるべきだ」と憤る人ほど、実際には自分が思っているほど市場価値は高くないケースが多い。

社内評価より市場価値で考える

これは筆者がサラリーマンのときもそうだったのだが、どこの産業でも「社内評価より市場評価」で考えるべきだと思うのだ。

日頃から自分の市場価値を外部で確認している人間は、この手のニュースにほとんど反応しない。理由は単純で、そういう人間はすでに自分の値段を知っているからだ。

仮に新卒逆転に不満を抱き、自分が市場価格より安く使われていると気づいた時点で彼らは躊躇なくすぐに転職する。逆に市場価格より高く評価されていると分かれば、新卒の給与がいくらであろうと関係なく、居座ることが合理的になる。どちらに転んでも、外部の基準を持っているから動揺しない。

SNSで騒いでいるのは自分の給与が市場でいくらの値段がつくのか知らないまま、社内の相対評価だけを拠り所にしてきた結果、外部からの数字が飛び込んできた瞬間に動揺しているからだろう。

企業も社会も自分の思い通りには動かない。自分が最も得をする方法はただ1つ。社内評価などではなく、常に市場評価を上げることだけを考えることだ。他の人がいくら稼ごうが本来自分の人生にはなんの関係もない。自分の人生に最も得をする道を選ぶには、こうしたニュースに憤ってSNSで不満を書くより、静かに転職する方が合理的なのは間違いない。


2026年7月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント