「代理出産」の対応で苦悩するドイツ与党CDU

独与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の連邦議会議員団長(院内総務)、イェンス・シュパーン氏(46)が18日、議員団長のポストから辞任すると表明した。後で説明するが、同氏の代理出産問題では辞任する以外の他の選択肢はなかったのだ。

代理出産を巡って与党院内総務を辞任したシュパーン氏、ドイツ連邦議会公式サイトから

シュパーン氏は与党「キリスト教民主同」(CDU)の大物議員だ。同議員が同性愛者であることは良く知られている。そのシュパーン氏が男性パートナーとの間で代理出産で子供を産んだのだ。ドイツでは代理出産は認められていない。CDUも代理出産禁止を支持してきた。それをCDUの議員が破り、夫と共に米国で代理出産で子供をもうけたのだ。

同氏が議員団リーダーの立場から降りた背景にはCDU党首のメルツ首相からの強い辞任要求があったのではないか。シュパーン氏は、メルツ氏、バイエルン州知事のマルクス・ゼーダー氏(「キリスト教社会同盟」CSU党首)、そして議員団宛てに書簡を送り、CDU/CSU議員団の団長職を辞任する旨を伝えている。同氏はその中で、「夫と共に家庭を築き父親になるという個人的な幸福と、自身の政治的職務とを両立させることは不可能であると認識するに至った」と、正直に告白している。

シュパーン氏は「代理出産によって子供を持つという私的な決断と、議員団長として私に寄せられる期待と義務との間でバランスを取ることは、予想以上に困難となった。ここ数日で明らかになったことは、私にとって家族こそが最も重要だということだ」と強調している。

独メディアによると、後任が選出されるまでの間、CSU(キリスト教社会同盟)州議団の代表であるアレクサンダー・ホフマン氏が、同会派(CDU/CSU連邦議会会派)の代表代行を務める見通しだ。

シュパーン氏の決定に対しては、連立パートナーであるSPD(社会民主党)や会派内の複数の議員たちは評価している。メルツ氏は、「正しく、そして避けられないものだった」と評している。新会派代表の任命については、党および会派の各機関と協議が行われる予定だ。

野党「緑の党」の連邦議会会派で保健政策担当を務めるヤノシュ・ダーメン氏は、シュパーン氏を「ダブルスタンダードだ」と非難し、「欧州の法制度は、代理母を搾取から守ること、妊娠・出産の商業化を防ぐこと、そして親子関係をめぐる複雑な紛争から子供を守ることを極めて重視している。国内では代理出産をめぐる法規制の緩和に断固反対してきた政治家が、海外ではまさにその制度を利用しているという点こそ大きな問題だ」という。

シュパーン氏は2015年、雑誌とのインタビューの中で、「ゲイであり、かつキリスト教徒である私にとって、個人的には『子宮を借りる』という考えを受け入れるのは非常に難しい。自然な形では父親になれないという現実を受け入れるには、多大な謙虚さが求められる。私にそれだけの心構えができるかどうかは分からない」と吐露していた。同氏にも代理出産を決めるまで様々な葛藤があったことが想像できる(オーストリア国営放送ヴェブサイトから)。

左翼党のゲーベル氏は、「シュパーン氏の家族も他のあらゆる家族と同様に尊重されるべきだ。もし彼が代理出産に関する政治的立場を変えたのであれば、それを公にすべきだ」とし、「妊娠・出産が主に富裕層だけが購入できるサービスになってはならない」と警鐘を鳴らしている。

ドイツが代理出産を容認しないのは、主に商業化、具体的には代理母への金銭支払いがなされることへの恐れだ。2023年3月、当時のショルツ前政権によって任命された委員会は、「卵子提供を合法化することは憲法上許容される」との結論を出した。専門家らはまた、営利目的の代理出産は引き続き禁止されるべきだと強調した。利他的代理出産については、親となる予定の人物と代理母との間に親密な関係がある場合など、例外的なケースに限定するのであれば、立法府として法的に許可することは可能である、としている。

参考までに、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ヴァイデル共同党首(47)も同性愛者(レズビアン)で知られている。パートナー女性はスリランカ系の女性映画監督と事実婚関係でスイスに住んでいる。AfDは党綱領で「家庭は男と女の異性婚姻に限る」と明記し、伝統的な家族観を重視し、同性婚やジェンダー主流化に反対する保守的な方針を掲げている。その政党(AfD)の党首が私的生活では同性愛者として家庭を築いているのだ。

ドイツ民間放送ニュース専門局ntvとのインタビューに答え、同党首は「個人的な生活スタイルはあくまでも私人の立場だ」と述べ、政党の党綱領に拘束されることはないという立場を強調している。彼女たちの間には2人の養子の息子がいる。

なお、ドイツ連邦議会には20人から30人の議員がLGBTQ+と推定されている。かつては「緑の党」やSPDなど左派・リベラル系政党に多い傾向があったが、、現在では保守派のキリスト教民主同盟(CDU)や、右派のAfDの共同党首ヴァイデル氏 に至るまで、全ての主要政党に同性愛者・性的少数者の議員が在籍している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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