イーロン・マスク氏率いる宇宙開発企業スペースXが、ロケットより先に株価を墜落させた。スペースXは7月16日、米テキサス州の宇宙基地「スターベース」で、大型宇宙船スターシップの第13回飛行試験を実施する予定だったが、エンジンが正常に始動せず、中止された。

AP
打ち上げは発射1秒前に自動的に停止したが、失敗したわけではない。安全装置が正常に作動しただけで、スペースXは問題のあるラプターエンジン2基を交換し、7月23日に再挑戦する予定だが、株式市場はそれを待ってくれなかった。
上場からわずか1カ月で公開価格割れ
スペースXは6月12日、1株135ドルでナスダック市場に上場した。初日は160.95ドルで取引を終え、その後は一時225ドルを超えた。宇宙開発、衛星通信、AI用データセンターという流行語を満載した「夢の株」として、投資家の期待は文字通り宇宙まで膨らんだ。
ところが、熱狂は長続きしなかった。打ち上げ中止翌日の17日、スペースX株は5.4%下落し、123.99ドルで取引を終えた。公開価格を約8%下回り、最高値からは約45%下落した計算になる。(Barron’s)
IPOで株を買った投資家にとって、スターシップは地上にとどまったが、含み損だけは無事に離陸した。
スターシップは成長物語の土台
もっとも、株価下落を一度の打ち上げ中止だけで説明するのは適切ではない。スターシップは、単なる新型ロケットではない。スペースXが次世代の大型スターリンク衛星を大量に打ち上げ、携帯電話との直接通信や宇宙空間のAI計算基盤を実現するための土台である。
スペースX自身も上場資料で、スターシップの開発が遅れたり、必要な打ち上げ頻度や再使用能力を実現できなかったりすれば、次世代衛星や軌道上AI計算施設などの成長戦略に重大な悪影響を及ぼすと警告している。(SEC)
つまり、スターシップの予定が数日ずれるだけなら大きな問題ではないが、開発計画そのものが遅れれば、スペースXの高い企業価値を支えている将来の収益まで後ずれする。ロケットのエンジン問題は修理できても、過大な期待というエンジンを整備するのは難しい。
本当の問題は株価の高さ
スペースX株が売られている最大の理由は、打ち上げ中止よりも株価が高すぎたことだろう。時価総額は最大3兆ドルに達した。これはスターリンクの成長やスターシップの完全再使用だけでなく、衛星と携帯電話の直接通信、月・火星開発、さらには宇宙空間のAIデータセンターまでが実現することを先取りした価格だった。(Investopedia)
夢が予定通り実現すれば高くないが、どれか一つが遅れるだけでも、現在価値は大きく低下する。しかも上場時に市場へ放出された株式は全体の約5%にすぎない。8月以降には初期投資家や従業員が保有する大量の株式について、売却制限が順次解除される。市場に流通する株数が増えれば、需給悪化への警戒も強まる。(Reuters)
株価下落は、スターシップの技術的問題というより、「希少な株式に殺到した投資家が、ようやく値段を計算し始めた」結果ともいえる。
宇宙開発と株式投資は別物
スペースXが世界有数の技術企業であることに疑いはない。スターリンクの契約者は2026年3月末時点で約1030万人に達し、前年同期から倍増している。ロケットの打ち上げ能力でも、同社は圧倒的な存在である。
だが、優れた会社の株が常に優れた投資対象になるとは限らない。宇宙開発では、打ち上げ中止は安全確保のための日常的な手続きである。しかし株式市場では、わずかな予定変更でも、将来の利益を過大に織り込んだ株価を修正するきっかけになる。
スターシップは7月23日に再び空を目指す。問題は、ロケットが飛ぶかどうかだけではない。宇宙まで膨らんだ企業価値を、現実の利益で支えられるかである。スペースXの技術は重力を克服しつつある。だが株価だけは、重力の法則から逃れられなかった。







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