ホルムズ海峡だけでは終わらない:二つの海峡が同時に機能不全に陥る意味

中東情勢が新たな段階に入りつつある。

イランによるホルムズ海峡での圧力が続くなか、イランと連携するイエメンの親イラン武装組織フーシ派は、紅海の入り口に位置するバブ・エル・マンデブ海峡でサウジアラビア船舶への海上封鎖を宣言した。実際に封鎖が本格化すれば、世界のエネルギー市場と海上物流は二つの戦略的要衝を同時に失うという前例のない事態に直面する可能性がある。

日本ではホルムズ海峡ばかりが注目されがちだが、むしろ問題は「第二のチョークポイント」が加わることにある。

トランプ大統領とルビオ国務長官、 ヘグセス戦争長官ら ホワイトハウスHPより

二つの海峡が同時に機能不全に陥る意味

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾から原油を世界へ送り出す出口である。

一方、バブ・エル・マンデブ海峡は、紅海とインド洋を結ぶ玄関口であり、スエズ運河へ向かうすべての船舶が通過する。

これまでサウジアラビアは、イランによるホルムズ海峡への圧力を回避するため、東西パイプラインを利用して紅海側のヤンブー港から原油を輸出してきた。しかし、フーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡を封鎖すれば、この代替ルートまで遮断されることになる。ロイターは、紅海経由の輸送が停止すれば、アフリカ南端の喜望峰を経由する迂回を余儀なくされ、輸送期間は数週間延び、運賃や保険料も大幅に上昇する可能性があると報じている。

つまり、「ホルムズ海峡が駄目なら紅海へ」という選択肢そのものが失われかねないのである。

日本経済への影響はエネルギーだけではない

日本への影響は、原油価格の上昇だけにとどまらない。

第一に、LNGや原油価格の高騰により、電力料金やガソリン価格の上昇が避けられない。日本はエネルギー自給率が低く、中東依存度も依然として高いため、その影響を直接受ける。

第二に、欧州向け・欧州発の海上物流が大きく混乱する。日本企業の多くは、スエズ運河を利用して欧州と製品や部品を輸送している。バブ・エル・マンデブ海峡が封鎖されれば、コンテナ船は喜望峰経由への迂回を迫られ、輸送日数の長期化と運賃上昇が避けられない。

第三に、海上保険料の急騰である。すでに戦争保険料は急上昇しており、封鎖が長期化すれば、海運コスト全体を押し上げ、日本企業の輸出入コストをさらに悪化させる可能性がある。

2021年のスエズ運河座礁事故では、一本のコンテナ船が世界のサプライチェーンを混乱させた。今回はそれを上回る規模の地政学的危機となり得る。

イランは「第二戦線」を開いた

今回注目すべきは、フーシ派の動きが単独ではなく、イランの戦略全体の一部として位置付けられている点である。

ロイターによれば、イランは米国によるインフラ攻撃への対抗措置として、フーシ派に対しバブ・エル・マンデブ海峡封鎖の準備を求めていたという。今回の海上封鎖宣言は、ホルムズ海峡に続く「第二の圧力点」を米国とその同盟国に突き付ける狙いがあるとみられる。

エネルギー供給網を複数の場所で同時に脅かすことで、軍事的劣勢を補う「非対称戦略」として海峡を利用しているのである。

日本も「シーレーン防衛」を再認識すべき

日本では、防衛政策というと台湾有事や東シナ海に議論が集中しがちである。しかし、今回の危機は、日本経済が依然として中東のシーレーンに大きく依存している現実を改めて浮き彫りにした。

海峡そのものを防衛する能力は日本にはない。しかし、日本が米国や欧州、地域諸国とどのように海上交通路の安全確保へ関与するのか、またエネルギー調達先の多角化や備蓄体制をどう強化するのかは、今後ますます重要な政策課題となる。

ホルムズ海峡だけを見ていては、今回の危機の全体像は見えてこない。バブ・エル・マンデブ海峡まで含めた二つのチョークポイントが同時に脅かされる事態は、日本のエネルギー安全保障と経済安全保障がなお世界有数の海上交通路に支えられているという現実を、改めて突き付けているのである。

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