病院の隣に温泉とショッピングモールを:老人ホームを『入りたい町』へ(後編)

東 徹

前編では、万博跡地の開発公募を機に、私が提案してきた「大規模ケアキャンパス」——高齢者医療を核とした全世代型の町——の考え方と、その核となる二次救急病院の意味を述べた。

万博跡地に「若者と高齢者が分断されない町」を:大規模ケアキャンパス構想(前編)
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二次救急病院、老人ホーム、温泉宿泊施設、ショッピングモール、屋内アミューズメント施設が円形に並んで繋がり、中央に大きな広場を持つ町である。後編では、残りの要素と、実現への道筋を述べる。

老人ホームは、地域に応じて

老人ホームといっても様々だ。ここは広く住居型の高齢者の施設と捉えると、介護医療院、介護老人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホームなどがある。

介護度や自立度によってどこが適切かは異なる。これら全てが揃っていないといけないわけではない。その地域に応じたものを用意すれば良いだろう。

家族が「泊まりに来られる」こと

次に温泉宿泊施設だ。

これは必須と言いたいところだが、土地によっては温泉を作ることが難しい場所もあるので、できればあって欲しい、という施設だ。しかし、宿泊施設は必須としたい。これは、入所中の高齢者に遠方から会いにくる家族の宿泊場所として必要である。

過疎化が進む日本においては、都市部から離れるに従い行きづらさが増す。そういう場所に入所するとなったら、家族とは会いづらくなる、と懸念する高齢者も多いだろう。しかし、そこに宿泊施設がある、ということは安心材料になるはずだ。

もちろんレジャー施設としての温泉宿はそれだけで集客力がある。日本人は無類の温泉好きである。源泉がそこから湧いていなくとも、近隣地の温泉からの輸送でも良い。温泉があるだけで心が温まるはずだ。入所中の高齢者も入ることも可能になり、あるいは、面会に来た家族と一緒に入浴することが一つの楽しみともなりうる。

ショッピングモールという生活の中心

次にショッピングモールである。

これも大規模ケアキャンパスの大きな核である。もはや大型ショッピングモールの有無はその地域の浮沈を左右する存在であることは説明の必要もないだろう。

地方におけるショッピングモールは若者の遊び場としても、普段の買い物の場所としても、都市部との文化の共有地としても今や欠かせない場所だ。ショッピングモールはまさに生活の中心。その象徴として必須の存在である。そして病院や施設の職員が帰りに買い物することもできる。

平日の昼間は入所中の高齢者向けの場所とすれば、ショッピングモール側も閑散時間帯に売り上げ増加に繋がるという相乗効果もある。

若者の遊び場が、全世代型を証明する

次に屋内アミューズメント施設。

これは若者向けの場所である。これがあることによって高齢者だけではない全世代型であることが証明される。ショッピングモールも若者が集まる場所にはなりえるが、より積極的な遊び場があることが全体に活気を生む。

屋内施設であることも全天候型の施設として重要だ。大きなボールプールや滑り台があるような幼児、小学生向けの遊び場や、ボウリング、カラオケ、ビリヤード、ゲームセンターが並ぶ中高生、大学生向けの遊戯場があるのが望ましい。これは地方の若者にも嬉しいはずだ。

実際、アメリカの地方でもラウンドワンが大人気となっている(現代ビジネス)。車社会の地方における若者からの需要は非常に大きいことはすでに証明済みであり、これが若者への訴求ポイントになる。

最後に中央の広場についても説明しよう。

構想図にはサッカーコートを置いてみたが、何でも良い。できれば子供たちがスポーツ大会などに使える場所。それを家族で観にくる。入所中の高齢者も室内やテラスから眺めることができる。そのような風景を想像している。

あるいは、コンサートや各種イベントが開催される場所となるのも良いだろう。

そして、入所中の高齢者の散歩場所としても最適である。認知症があっても、この広場の範囲なら安全に歩き回れる。目の届く場所で自由に歩き、休み、人と出会える。歩くことは運動にもなり、健康にも良い。狭い場所に閉じ込めれば閉塞感が生まれるが、広場なら、閉じ込めずに見守れるのである。

構想は、体験から来ている

これらの構想は私自身の体験に基づく実感もある。

私が幼少の頃、祖父母が温泉施設内にある老人ホームに入所していた。そこに行くのを私はとても楽しみにしていた記憶がある。施設内のゲームセンターで遊んだり、祖母と卓球や輪投げをしたのは良い思い出だ。

また、かつて二次救急病院に救急医として勤務した経験もある。そこには高齢者施設から搬送される患者が多くいた。さらにその病院は隣に老健があり、外に出なくても通路で行くことができた。認知症の診察に訪問診療をしたが、訪問というよりは病棟に診察に行っているのと変わらない。隣接していることの強みを実感できた。

認知症の講演会をショッピングモールですることも多くある。平日昼間のショッピングモールは高齢者が多くいる。高齢男性二人組がカフェで語り合っている光景は微笑ましいものだった。床に散歩コースを書いているショッピングモールもある。つまり、天候を問わず、モール全体を高齢者の散歩道としても使えるということだ。

さらに理想を言えば、高齢者施設には最上階に広めのVIPルームなども作れれば良い。そこは富裕層に保険外の自費で払って入ってもらう部屋だ。そういう部屋をいくつか用意して収益を確保し、低所得者向けには相対的に安く施設を提供できる。そうすれば、世代間の分断だけでなく、所得による格差の緩和にもつながる。

絵空事ではない

ここまで良い面ばかり書いていると理想論の絵空事と思うかもしれない。しかし、部分的にはすでに達成しているところは多くある。

病院と老健施設がつながっている所はある。クリニックモールがあるショッピングモールは珍しくない。老人ホームの横にショッピングモールがあるところもある。

つまり、小規模集約施設はすでにあるということだ。

では、なぜ今は大規模ケアキャンパスが実現していないのか。

医療、介護、住宅、宿泊、商業、遊戯場。これらを一つの町として統合するには、広い土地、道路や公共交通を含む全体設計、用途規制の調整が必要になるからだ。前例もない複数業界にまたがる巨大施設を、一つの民間企業だけで立ち上げるのは難しい。

ここに行政の役割がある。

ただし、行政がすべてを建設し、運営する巨大公共事業ではない。公が担うのは、土地、道路、上下水道、交通、用途調整、防災など、異なる事業が一つの町として成立するための基盤である。病院、介護施設、住宅、商業施設の建設と運営は、原則として民間が担う。

公有地を使うなら、売却せず、低廉な地代の長期定期借地として提供する。建物は民間資金で整備し、公費投入は基盤整備へ絞る。自治体には地代、雇用、商業需要、税収が残る。

公が町を経営するのではなく、民間が投資できる土台をつくるのである。

もう一つの原則は、病院や介護施設を単純に新設しないことである。ケアキャンパスのために病床や施設を純増させれば、地域全体では過剰になる。建物の老朽化による建て替えの時期に合わせて、既存の病院や施設の移転を誘致する。そうすれば、運営実績と職員を引き継ぎ、ゼロから人材を集めずに済む。現在の土地を売却・転用し、移転費用の一部に充てることもできる。病床を削るか、現在地で維持するかという二択ではない。生活圏の中核へ移して生かすという第三の道をつくるわけだ。

夢洲、そして全国へ

私が第一号案として夢洲を挙げたのは、まとまった公有地、整備されたインフラ、都市部からの交通、商業・娯楽との親和性、そして「いのち輝く未来社会のデザイン」という理念があるからだ。万博で掲げた理想を、一過性の祭典で終わらせず、実際に人が暮らす場所として具現化する。これほどの適地はないと考えた。

ただし、これは万博跡地をきっかけに示した一案にすぎない。跡地の開発が観光リゾートへ進むとしても、この構想の本質は、夢洲そのものではない。

前例のない最初のモデルでは、行政が公有地、交通、基盤整備、用途調整を通じて、民間投資が始まるきっかけをつくる必要があるだろう。

しかし、行政が全国でケアキャンパスを建設し続けることが完成形ではない。一つの成功例ができ、人口構成、医療・介護需要、商業需要、建設費、地代、収益性の実績が示されれば、民間はそれを地域に合わせて模倣し、改良できる。既存病院の建て替えを核にした市街地再編、郊外の民有地を使った複合開発、住宅・商業事業者による既存施設の統合など、行政が土地を用意しない形も生まれるはずだ。

大規模ケアキャンパスが特別な国家事業ではなく、病院や住宅、商業施設の建て替えに伴って、自然に選ばれる民間開発の一類型になる。そこまで進んだ時、この構想は本当の意味で成功したと言える。

人が求めているのは、施設でも、建物としての町でもない。家族や友人、子どもや若者とつながり、社会の一員として暮らし続けることである。

若者と高齢者が分断されず、誰もが楽しく暮らせる小さな町。

それが、大規模ケアキャンパスである。


編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2025年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。

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