
安価なドローンが高価な戦車や軍艦、爆撃機を撃破し、さらに敵国の重要インフラを破壊する——ウクライナ戦争において目撃されたこうした強烈な光景は、従来の戦争や戦略の常識を過去のものにしたように映るかもしれない。いわゆるドローンによる「軍事革命」論である。
これを目の当たりにした日本政府も、「コストを抑えた大量の無人システムによる新しい抑止力」としてドローンに飛びついているように見える。しかし、ドローンへの期待は果たして日本の安全保障の維持にどれほど貢献するのだろうか。筆者はこれを強く疑問視している。
なぜこの問題が重要なのか
防衛省は令和8(2026)年度予算案において、無人アセット防衛能力に約3000億円を計上し、沿岸防衛体制を強化すべく数千機規模のドローンを配備する「無人アセットによる多層的防衛体制(シールド)」を推進している。
事実上の「仮想敵国」である中国の国防予算に対し、日本の防衛費はその5分の1程度に過ぎず、深刻な自衛官不足にも直面している。「無人・安価・大量」のドローン活用が魅力的な選択肢に見えるのは確かだ。
しかし、そこには大きな落とし穴が存在する。
ドローンは「ゲームチェンジャー」でも「魔法の弾丸」でもない
NATOの分類によれば、ドローンは大きさや航続距離、高度により3種類に分けられる。
しかし、国家間の通常戦力による正規戦において、それらはすべて「従来の兵器の延長線」に位置づけられるものであり、戦争の性質や結果を根本から変えるものではない。
1. ドローンは「消耗戦」を作り出す
正規戦におけるドローンは、第一次世界大戦における「機関銃」のような役割を果たす。すなわち、陸戦でのドローン使用は「機動戦」を困難にし、「消耗戦」をもたらす。ドローンによる偵察で戦場が可視化されるため、迅速に敵を突く機動打撃が難しくなるからだ。
大量投入によって戦況は膠着し、領土を奪還する攻撃の主軸にはなり得ない。結果として「我慢比べ」の戦いとなり、最終的には政治的・経済的コスト(政権維持、兵力補充、弾薬調達など)に耐えられる国が優位に立つ。
ドローン自体は、これらの莫大な戦争コストを劇的に下げるわけではない。
2. 投入されたドローンの大半は迎撃される
発射されたドローンの大半は、標的に届く前に電子妨害(ジャミング)や防空システムで迎撃される。高高度を飛ぶ大型機(リーパーやプレデター等)は別として、安価な小型FPV(一人称視点)ドローンなどは防空網に捕まりやすい。
F・ナミディ氏(ワシントン研究所)の分析によれば、イランが発射したOWAD(片道攻撃型無人機)やロシアが投入した1万機を超えるOWADの約90%が防空システムで撃墜されている。
正規戦において、ドローンの大半はターゲットに命中しないのが現実だ。
3. ドローンは「海戦」には向かない
ウクライナ等で得られた教訓の多くは「陸戦」のものであり、性質が異なる「海戦」では戦力になりにくい。近代海戦の特徴は、①短期決戦になりやすい、②投入される総トン数など物量の差が勝敗を決める、③指揮官のスキルが極めて重要になる、という点だ。
ドローンは威力・威圧ともにミサイルに及ばず、撃破されやすいため、艦艇等に致命傷を与えにくい。また、陸上と異なり補給路(道路や鉄道)がない海上や孤立した島嶼部において、大量に撃墜されるドローンの補充を維持するのは至難の業である。さらに広大な洋上では標的が分散するため、小型ドローンを集中運用すること自体が構造的に困難である。
正規戦における「過剰な期待」と「エスカレーションの罠」
もちろん、ドローンの軍事的有効性には議論がある。非国家主体との非対称紛争(イエメンのフーシー派の戦闘など)や内戦(エチオピア内戦など)では、ドローンが戦果を上げ、情勢を左右した例もある。
しかし、国家間の正規戦では過剰な期待は禁物だ。ウクライナが「蜘蛛の巣作戦」でロシアの戦略爆撃機に打撃を与えた例は衝撃的であったが、個々の派手な作戦成功と、戦争全体の最終的な勝敗(帰結)は別物として見極めなければならない。
軍事アナリストのベスクレストノフ氏が指摘するように、ウクライナがドローン等で一時的な戦果を上げても、それに対するロシアからの強烈な弾道ミサイル報復によってインフラが破壊されれば、反作用の損害の方が大きくなりかねない。
シカゴ大学のR・ペイプ氏が「エスカレーションの罠」と呼ぶように、「あと一押しすれば敵が折れる」という幻想のもとでドローン攻撃を激化させても、互いの国力を不毛に削り合う悪循環に陥るだけである。
日本が取るべき「現実的な抑止戦略」
我が国は、ドローンが「安価な抑止力」を提供するという幻想を捨てるべきだ。
特に日本の防衛当局が、台湾海峡や尖閣諸島をめぐる有事(=主に海戦・空戦)において、中国軍に対する劣勢を「ドローンシールド」で補おうとするのは誤学習の恐れが強い。
海戦においてドローンの有効性が限定的である以上、日本が優先すべきは以下のような「生存性と威力の高いアセット」および「現実的な抑止構造」の構築である。
打撃力と残存性の強化:
迎撃が困難で残存性の高い「移動式対艦高速滑空弾」や、優れた「潜水艦」の増強を優先する。
トリップワイヤー(仕掛け線)抑止の検討:
政治学者D・アルトマン氏(ジョージア州立大学)が提起するように、限定的領土奪取を抑止する実証的手段は「トリップワイヤー部隊」の配備である。同盟国・パートナー国自らが軍事拠点を配置し、武力行使があった場合に同盟(米軍)が半自動的に介入せざるを得ない構造を作ることが強い抑止力となる。
「通常戦力の三本柱」によるバランス・オブ・パワーの改善:
J・フィアロン氏(スタンフォード大学)らが指摘するように、東アジアにおける対中抑止力を回復するには、分散・生存性を高めた米通常戦力による第二撃能力(潜水艦、爆撃機、地上発射システム等)の構築が不可欠である。日本もこの一端を担うことで大きく貢献できる。
日本政府は、ドローンという「技術ファンタジー」に過度な期待を寄せるのをやめ、実質的な軍事バランスの改善と、現実的な抑止戦略の構築にこそ注力すべきである。







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