1ドル=164円目前。円は1986年以来、なんと40年ぶりの安値です。ここまで来るともう「一時的」とは言えない。で、なんでこんなに円安なのか。FT、ガーディアン、ロイター、豪AFR、米バロンズ、米マーケットウォッチ──海外の主要メディアはそろって「高市政権の『責任ある積極財政』が原因だ」と書いてます。しかも日本の報道よりよっぽど容赦ない。
そしてここが肝なんですが、ドル円っていう馬鹿でかい市場を実際に動かしてるのは、こういう英語の記事を日々読み込んでる銀行や機関投資家のプロです。つまり「海外が円安だと書く → プロが読む → 円を売る → もっと円安」。この記事では海外6本が描く「円売りの構図」を整理して、なぜそれがぐるぐる自己実現して円安を加速させるのかを説明します。

高市首相 首相官邸HPより
まず、けっこう多くの人が勘違いしてる話から。「為替なんて個人のFXの思惑で動いてるんでしょ?」というやつ。これ、逆です。
国際決済銀行(BIS)が3年に1回やってる外為市場の巨大調査(2022年)を見ると、世界の外為取引のうち、事業会社や個人みたいな「非金融のお客さん」はたった6%しかいない。残りの94%は銀行・機関投資家・ヘッジファンド、要はプロです。
つまりドル円の値段は、本質的にプロのお金がつくってる。あなたや私の思惑じゃない。ww
で、そのプロが何を見てるかというと、FTやロイターの分析、格付け会社や海外中銀の見立て。こういうのを当然チェックしてるわけです。海外メディアが「高市政策=円安」って物語を何度も何度も流せば、それがプロ全員の共通認識(コンセンサス)になって、そのまま売買のポジションに乗る。報道が相場観をつくって、相場観が円売りをつくる。まずこの流れを頭に入れてください。
面白いくらい論点が一致してます。順番に見ていきましょう。

6本ぜんぶを貫いてるのが、ロイターが名づけた「政策の悪循環」という見取り図です。これがよくできてる。
まず積極財政で歳出をどんどん膨らませる。でも日本の政府債務はすでに対GDP比で約230%、世界最悪クラス。だから日銀は財政をぶっ壊さずに大きく利上げできない。利上げを我慢すれば内外の金利差が開いて、円安とインフレが進む。で、その物価高を抑えるために政府がまた歳出を積む。ぐるっと一周して、また財政拡張に戻ってくる。ひとことでいうとアベノミクスからの放漫財政の失敗です。
この輪っかのどこを探しても、円高に戻すブレーキが見当たらない。ここが怖いところです。
実際、政策金利は1%と31年ぶりの高さまで来ましたが、他の先進国と比べたらまだまだ低い。日米の2年金利差は285ベーシスポイントまで開いて、前年8月以来の水準。金利差がこれだけ開けば、円を売ってドルを買う(円キャリー)のはプロからすれば当たり前の行動です。
経済の教科書だと、財政拡張は金利上昇を通じてふつう通貨高になるはずなんです。ところが今の日本は、長期金利の上昇と円安が同時に起きてる。ここが普通じゃない。
10年国債の利回りは前年秋に1.6%くらいだったのが、いまや2.9%。30年ぶりの高さまで一気に駆け上がりました。それでも円は買われない。
金利が上がっても通貨が売られる。これは市場が「金利」を見てるんじゃなくて、その国の財政と通貨そのものへの信用を売ってるときに起きる現象です。2022年にイギリスのトラス政権が財源なき減税をやって、国債も通貨もダブルで暴落した、あれとそっくり。海外メディアが口をそろえて「日本版トラス・ショック」と言うのは、この既視感があるからです。4月下旬の為替介入ですら円安を止められなかった。これはもう、市場が一時的な投機じゃなくて構造の問題を織り込んでる証拠だと思います。
ここまでの2つの事実を重ねると、答えは一本の線でつながります。
1つめ。ドル円を動かしてるのは、市場の94%を占めるプロです。
2つめ。そのプロが読む海外報道は、そろって「高市政策=円安」の物語を流し続けている。
プロが同じ材料を見て同じ結論に至れば、円売りはコンセンサスになる。コンセンサスはそのまま売買ポジションになって円を押し下げる。円安が進めば「やっぱり円は弱い」と次の記事が出る。その記事がまた次の円売りを呼ぶ。
報道 → プロが織り込む → 円安 → また報道。為替版の「情報の悪循環」がもう回りはじめてます。ロイターの言う doom loop が財政・金融の実体経済のループなら、これはその上に乗っかった物語(ナラティブ)のループ。厄介なことに、この2つは互いに燃料を送り合ってます。
相場に「絶対」はないです。むしろ「プロがみんな同じ情報を見てる」というこの記事の前提は、同時に急反転のリスクも説明してしまう。ポジションが円売り一色に傾いた瞬間、ちょっとした材料で買い戻し(ショートスクイーズ)が一気に走る、というやつ。ここはフェアに書いておきます。
- GPIFの資金国内回帰:海外資産を日本に戻す動き(記事⑥)は、本当にやれば強烈な円買い材料。しかしもし政府がGPIFに「政策目的」で、本来よりも多く日本国債を保有させるのであれば、そのコストは最終的に年金加入者が負担する。高市政策のために自分の年金を減らしていいかってこと。さらに法律上、
「専ら被保険者の利益のために長期的な投資収益を最大化すること」
を目的として運用することになっています。収益のためではなくて赤字国債をもっと発行するために法改正するときは大もめでしょう。
- 為替介入・日銀の想定超え利上げ:当局が「もう円安容認やめた」と本気を出せば、水準は一発で変わる。
- 投機ポジションの偏り:CFTC建玉なんかで円売りが積み上がるほど、巻き戻しの反動もデカくなる。
- アメリカ側の金利低下:FRBが利下げして日米金利差が縮めば、円安圧力は勝手に弱まる。
ただ、これらはどれも円安の「基調」を反転させるというより、一時的な調整をもたらす材料です。財政拡張と日銀の手詰まりという構造そのものが解けないかぎり、メインシナリオは円安基調の継続。これが、海外6本を読み込んだうえでのわたしの結論です。
円安を止めたい? 簡単です。高市辞任から財政規律派の林さんあたりが総理になればすぐに10円くらい円高になります。骨太を撤回すればもっと上がります。いままでこうなっているのですから。高市が10/4に自民党総裁選に勝った瞬間に「財源なき積極財政が始まる」として円は5円も安くなってその後も怒濤の円安。そして彼女が在任中はどんどん円安です。

- Financial Times(2026/7/2) https://www.ft.com/content/9746292e-7f7c-42af-8d09-64c8bd3fd939
- The Guardian(2026/7/25) https://www.theguardian.com/world/2026/jul/25/japan-sanae-takaichi-investment-plan-liz-truss-economy
- Reuters(2026/7/22) https://www.reuters.com/commentary/reuters-open-interest/japans-policy-doom-loop-sends-yen-40-year-low-2026-07-22/
- Australian Financial Review(2026/6/30) https://www.afr.com/world/asia/yen-weakens-to-40-year-low-as-boj-drags-feet-on-inflation-20260630-p60bg4
- Barron’s(2026/7/22ごろ) https://www.barrons.com/articles/u-s-stocks-could-soon-have-a-yen-problem-0468fd6a
- MarketWatch(2026/7/23ごろ) https://www.marketwatch.com/story/japans-1-8-trillion-pension-giant-might-bring-money-home-that-could-jolt-u-s-stocks-and-the-fed-908c66d5
- BIS「外国為替およびデリバティブ市場に関する中央銀行サーベイ(2022年)」 https://www.bis.org/statistics/rpfx22_fx.htm
- nippon.com「財政運営は崖っぷちの高市政権」 https://www.nippon.com/ja/in-depth/d01228/
- 東洋経済オンライン「長期金利2.9%と162円台の円安が示す日本経済の重大局面」 https://toyokeizai.net/articles/-/951340

インフレ・円安・バラマキ・国富流出 (日経プレミアシリーズ)
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年7月27の記事より転載させていただきました。







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