投資不動産は企業価値を高めるのか:投資不動産の位置付け

Ralf Hahn/iStock

(CREが変える経営財務 ⑨)

企業が保有する不動産の中には、本業に直接使われていないにもかかわらず、賃料収入を生み出しているものがある。賃貸ビル、賃貸マンション、貸地、月極駐車場。本連載で提示したCRE(企業不動産)の4分類では、こうした不動産を「投資不動産」と位置付けている。

では、投資不動産は企業価値を高めるのか。この問いに、単純な答えはない。

「持っている」ことへの安心感

投資不動産という言葉には、どこか安心感がある。毎月賃料が入り、空室は少なく、借入金の返済にも充てられている。本業の業績が変動する企業にとって、賃料収入がキャッシュフローを下支えする場面もある。

しかし、収益があることと、企業価値を高めていることは同じではない。年間の賃料収入が一定額あっても、固定資産税、修繕費、管理費、将来の大規模修繕や建替えリスクを織り込めば、実質的な収益性は大きく下がる。現在の市場価値に対して利回りが低いなら、その資本を不動産に固定しておく合理性は弱い。

問われるべきは、表面的な賃料収入ではなく、投じられている資本に対してどれだけのリターンを生んでいるか、すなわち資本効率である。同じ賃料収入であっても、取得時期や簿価によって資本効率は大きく異なる。

古くから保有し簿価の低い不動産は、帳簿上は高い効率を示しているように見える一方、現在の時価を基準に投下資本を見直せば、実質的な資本効率は大きく低下することもある。投資不動産は、収入を生むから価値があるのではなく、資本に見合った収益を生み、企業の財務や成長に貢献しているからこそ価値がある。

本業との資本配分比較という視点

投資不動産を保有する企業が避けて通れないのは、本業との比較である。不動産に固定化されている資本を、設備投資、研究開発、人材採用、新規事業、あるいは借入返済に振り向けた場合と比べて、どちらが企業価値の向上に資するのか。

もちろん、本業投資と不動産投資を単純に利回りだけで比較することはできない。本業には成長性と不確実性があり、不動産には安定性がある一方で流動性の低さと老朽化リスクがある。だからこそ比較すべきは、単純な利回りではなく、企業全体としてどの資産に資本を置くことが合理的か、という資本配分の問題である。

この視点に立つと、投資不動産の評価は二つに分かれる。一つは、財務を支える不動産である。景気変動を受けやすい本業を持つ企業にとって、安定した賃料収入は業績の下支えとなり、担保価値のある不動産は金融機関との関係で信用補完として機能することがある。含み益を持つ不動産は将来の売却余地を確保し、資金調達や事業再編の局面で経営の余力として働く。

もう一つは、企業価値を下げる不動産である。低い賃料のまま貸し続け、修繕を先送りし、空室リスクや将来の建替え費用を十分に織り込んでいない不動産は、表面的には収益を生んでいても資本効率を低下させている。本業との関係や保有目的が曖昧な不動産を多く抱えれば、経営の焦点はぼやけ、事業承継やM&Aの局面では、買収価格の算定や資産整理を難しくする要因にもなる。

判断軸としての保有目的

この二つを分けるのは、賃料収入の有無ではなく、保有目的の明確さである。安定収益を得るためか、本業のリスクを補完するためか、将来の売却余地を確保するためか、事業承継や資産再編に備えるためか。それとも、過去に取得した不動産を、目的を問わず貸し続けているだけなのか。

保有目的が明確で、収益性、リスク、資本効率、財務上の役割が説明できる不動産は、企業価値を高める経営資本として機能する。反対に、目的が曖昧なまま表面的な賃料収入だけを理由に保有されている不動産は、見直しの対象となる。投資不動産は遊休不動産ではないが、保有目的を失えば、収益を生んでいても経営資本としての機能は弱まる。

結論——戦略があって初めて企業価値を高める

投資不動産は、企業価値を高めることもあれば、下げることもある。重要なのは賃料収入の有無ではなく、その不動産が企業の事業、財務、資本配分の中でどのような役割を果たしているかである。

保有する理由、資本効率、リスク、財務上の役割が明確に整理され、企業全体の戦略の中に位置付けられている時に限り、投資不動産は企業価値を高める経営資本となる。それは単なる副収入でも余剰資産でもなく、企業が資本をどこに置くべきかという経営判断そのものである。

投資不動産を評価するという作業は、突き詰めれば、企業がみずからの資本配分に対してどれだけ規律を持てるかを問う作業にほかならない。

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