ドイツ民間放送ニュース専門局ntvは29日、「メルツ氏、求心力を喪失、同盟(ユニオン)」は辛うじて夏期休暇入りへ――だが、その先にあるものは?」という見出しでメルツ首相の内閣改造に疑問を呈する記事を掲載している。

シュタインマイヤー大統領(左)は、首相府長官、保健相、運輸相の新閣僚3人を任命した。2026年7月29日、ドイツ連邦首相府公式サイトから
メルツ氏は首相就任以来の14ヶ月間、妥協を導く熟練の交渉人として、多数派を形成するまとめ役として、あるいは人々を惹きつけるカリスマ的指導者として、際立った手腕を発揮してきた、といいたいところだが、現実は全くその逆だ。メルツ氏の首相としての指導力に疑問が呈される機会が増えてきた。
世論調査の結果を見ると、メルツ首相が率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は支持率約21%で野党の極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)の27%に大きく差を付けられた。
CDU/CSUと連立を組む社会民主党(SPD)は13%だから、両党の支持率は34%に過ぎず、過半数を占める安定政権どころの話ではない。完全な少数派政権に陥っているわけだ。
全てメルツ氏の責任とは言えない。世界経済はウクライナ戦争、イラン戦争の勃発で厳しい環境圏にある。どの国の、誰が政権を運営したとしても国民経済を引率することは容易ではない時だ。
メルツ政権は7月2日、低迷する経済の活性化と低所得者層への支援を目的とした包括的な改革パッケージについて合意したばかりだ。ドイツは輸出立国だ。その象徴は自動車産業だが、そのメイド・イン・ジャーマニーの自動車産業が瀕死の状況にある。BMWは約8,000人の人員削減を計画している。フォルクスワーゲン(VW)に至っては会社の存続の危機に陥っている。その大きな原因の一つはドイツ製自動車の最大顧客だった中国経済の停滞だ。同時に、中国製自動車が電気自動車(EV)の分野で市場を先行し、ドイツ製自動車への需要が急減しているのだ。
メルツ首相は内閣改造に乗り出した。その直接の契機は、CDU連邦会議議員団の院内総務イェンス・シュパーン氏(46)が7月18日、代理出産問題で辞任に追い込まれたからだ。その詳細な事情についてはコラム欄で報告済みだ(「『代理出産』の対応で苦悩する独CDU」2026年7月20日参考)。

問題はその後だ。メルツ氏はシュパーン氏の辞任を受け、院内総務の後継者探しだけではなく、CDU出身の閣僚の人事を実施し、連立政権に新鮮な風を送ろうとしたのだ。そこまでは良かったが、メルツ氏の閣僚人事に党内から厳しい批判の声が飛び出してきたのだ。
メルツ氏は、シュテフェン・ビルガー議員を交通相、CDU幹事長のカーステン・リンネマン氏を保健相、ニーナ・ヴァルケン保健相を首相府担当相にそれぞれ任命した。メルツ氏はなぜパトリック・シュナイダー前交通相を解任したのか説明しなかった。その一方、医学には専門外のカーステン・リンネマン幹事長を保健相に任命した。また、保健政策の専門家であるティノ・ゾルゲ次官を解任したのだ。今秋には医療制度の大規模な構造改革が予定されている時だ。
メルツ首相はまた、最側近トルステン・フライ首相府担当相をシュパーン氏の後継者に選んだ。幸い、CDU会派はフライ氏を92パーセント近い得票率で支持した。首相が任命した後継者をCDU議員たちが拒否した場合、CDUは文字通り分裂の危機に陥るところだった。多くのCDU議員たちにブレーキが働いたのだろう。党への忠誠心が強い、というのがCDUの特徴とこれまでいわれてきた。
「会派の会合後、メルツ氏は落ち着いた様子を見せていたが、ここ数日でその権威は著しく失墜した。彼は公然たる反発に直面している。特に連邦各州――具体的にはラインラント=プファルツ州、ブレーメン州、ザクセン州――からの批判が強い。首相を公に擁護する者はほとんどいない。批判のパターンは一貫している。すなわち、メルツ氏のリーダーシップはトップダウン型であり、自身の決定について十分な説明を行わず、各州のニーズを軽視しているというのだ」(ニュース専門局ntv)、といった厳しい論評が見られる。
ドイツでは州議会選挙が迫っている。9月6日に実施されるザクセン=アンハルト州ではAfDが最大政党となる可能性がある。また、メクレンブルク=フォアポンメルン州やベルリン(特別州)においても、CDUの情勢は厳しい。
7月25日にベルリンで発生したイスラム過激テロ事件は、外国人排斥を訴えるAfDにとって追い風となる――そうした政治的思惑や憶測が、早くも囁かれ始めている。そして今、メルツ首相の内閣改造でのCDU内の不協和音が漏れ出してきた。夏休暇明けのドイツの政界から目が離せない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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