先週の土曜日アメリカ東部時間午前0時1分、アメリカとカナダの関税交渉の決裂により、アメリカは500品目以上に及ぶカナダ製品に50%の関税を課し始めました。アメリカ側の関税徴収の根拠法は1930年のスムート ホーリー法であります。

マーク・カーニー首相とトランプ大統領 2025年10月ホワイトハウスXより
このスムート ホーリー法は関税に関してたぶん世の中で最も悪名高きものの一つで、当時関税を課したアメリカ経済はドツボにハマり、世界貿易の縮小を招いたこともあり、現在でも有効ではあるけれど、実質的に墓場に葬った法律であります。トランプ氏はそれを掘り起こし、パンドラの箱を開いてしまったわけです。
スムート ホーリー法は大学の経済学部の人ならば経済学史あたりで出てくる内容ですが、一般学生ぐらいでは深堀しないと思います。たまたま私はゼミで両大戦間経済が主たる研究内容だったのでそれが出てきたのと社会人になってからも時折経済の本に出てくるので史上最悪の関税だという認識はずっと持っていました。
1930年当時の話をちょっとだけ振り返るとアメリカが法律で定め、フーバー大統領がこれに基づき40-60%の関税をカナダを含む各国にかけるとカナダは猛反発し、カナダの貿易は旧英国連邦との取引に切り替え、米加の貿易関係が急激に希薄になります。これでアメリカの輸出産業は壊滅的打撃を受け、国内輸入物価価格は急上昇し、アメリカの失業率は25%に達する致命的な不況に陥ったのです。
もちろん、当時の大不況がスムート ホーリー法だけが原因でこのような事態になったとは言いません。大戦間経済は非常に複雑な背景があり、特に第一次大戦で大負債を負ったドイツ経済の展開が重要なエレメントになるなど複合的要素を持っていますが、カナダとアメリカだけの話に絞れば当時起きた事態と現在起きている事態はウリ二つになりつつあるわけです。
ではお前はどう考えるのか、と聞かれると思います。実は先ほど日本の某ワイドショーから現地コメントを生放送で、という話しが来たのですが、お断りしています。この手の話はたまに来るのですが、テレビ局はせっかちで数時間後の放送に間に合わせようと無理難題を押し付けるので嫌なのです。
もちろん自分なりに考えていることはあります。ただし、今回のアメリカ カナダの争いはエレメントが多く、読みにくいと考えています。北米メディアはチキンゲームと称しています。先週までの関税交渉に際してカーニー首相はカナダの各州の首相に実質輸禁となっているアメリカの酒の扱いについて説得工作をしたのですが、反応が悪かったのです。しかも市民も含め「仮にアメリカ産の酒が再びカナダで買えるようになってもボイコットするよ」という声が強く、Buy Canadianの激しい動きが出てきているのです。もちろん、そんなことお構いなしの人もいますが、国民のトーンとしてはアメリカに強い嫌悪感を抱いている人がかなり増えているのは事実です。
実際にはこのスムート ホーリー法を今、適用するのが違憲ではないか、という話がすぐに出てくるでしょう。法律の背景は米国内産業を守り、雇用を確保する、が目的です。今回の50%の追加関税品目はホッケーのスティック、かつら、はちみつ、化粧品…などであり、アメリカが重視する乳製品や自動車産業を脅かすアイテムは全く入っていません。よって法曹界からはこんなの違憲以外の何物でもない、という意見が主流を占めています。
この法律の最大の弱点は本来議会が関与すべき法律に基づく施行とか三権分立の原則を完全に無視して大統領の権限で出来てしまうことが問題なわけです。よってこんな法律は永久に葬り去らねばならず、それを形の上で残していたアメリカ議会の怠慢でもあるとも言えるのです。
そうは言ってもカナダは困るだろう、と思う方も多いでしょう。しかし、株価は下げるどころか上げ、今日火曜日の株価指数は年初来高値を付けています。理由はカナダに圧倒的強みがある資源やエネルギーセクターはアメリカが壁を作ったことでよりカナダの地位が高まると考え、買いが買いを呼んだのです。
またカナダは今までの貿易慣行を変えるべく必死の対策をしています。先般カナダ産重油が初めて日本に入荷したニュースがありました。今までカナダの重油は日本には適さないから輸入しないとされていたのに手のひら返しで輸入開始をしています。
また仮にアメリカとカナダの間に高い関税の壁ができると、例えば日本からカナダに製品が入る場合、今まではアメリカ経由だったものが多いのですが、それがカナダ直接に変わらざるを得ないのです。つまりアメリカの貿易量が減少し、カナダの貿易はアメリカからの輸入減を補完すべき第三国から入ることになります。だけど、カナダのものはアメリカに入りにくくなるのでアメリカでは貿易の補完関係が生じないことになります。正に1930年代にアメリカが陥った問題が再現されてしまうのです。
私はどこかで折り合うと思います。が、禍根を残すと考えるのはアメリカ、カナダ、メキシコの自由貿易協定交渉において少なくともアメリカとカナダの部分において交渉は止まる公算が高いからです。よってカナダの生き残り策としてはカナダ東部はより欧州連合との結束を、西部カナダはアジア圏との貿易やビジネスの強化が必ず打ち出されるはずで、日本とカナダの立ち位置も変わる可能性はあります。
ただし、アメリカが必ず邪魔をするはずで日本の政権に「カナダと仲良くするなら条件を見直す」といった脅しをしないとも限りません。アメリカはドラえもんに出てくるジャイアンみたいな性格を持ち合わせています。上から目線のアメリカが果たしていつまで通用するか、その展開からは目が離せません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年8月26日の記事より転載させていただきました。






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