黒坂岳央です。
8月27日、日本テレビのDayDay.という情報番組に出演し、高級フルーツ窃盗事件をお話させてもらった。


盗まれた農家の絶望は非常に深く、「もう続ける気力が尽きた」と離農者も出ている。ただでさえ高齢化や後継者不足で農業の担い手が減り続ける中、これが続けばもう生産する人がいなくなってしまう危機的状況だ。
現場では防犯対策で自主的な投資を迫られ、それが農家に大幅なコストの負担になっている。
ここからはテレビ番組だけでは話しきれなかった「果物の窃盗」について筆者の見解を述べたい。わかりやすくQ&A形式で整理したものを記録する。

Q:果物の窃盗が相次いでいるが、近年になって増加しているのか?
A:明確な件数の増加とは言えないが、被害は大きい。
全国の農作物窃盗認知件数は、警察庁統計で毎年2,000件超で推移している。2022年は2,194件、2023年は2,154件、2024年は2,201件程度だ。
果物に限れば、「大きく増加している」と断定できるほどの全国統計はない。しかし、高級ブランド果物の被害が目立つようになり、フリマサイトでの転売など、盗品を現金化するための「出口」も広がっている。
山形県のサクランボは2025年に過去10年で最多の被害となり、福岡県うきは市の梨では2年連続で大量盗難が発生するなど、地域・品目単位で悪化している例もある。
また、被害届を出していないケースもあるため、統計に表れている数字だけで実態のすべてを捉えることは難しい。認知件数は氷山の一角である可能性がある。
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Q:どれぐらい増加しているのか?
A:全国件数は横ばいから微増だが、被害額や1件あたりの規模が大きくなっている。
例えば、山梨県では桃が数千個単位で盗まれ、2022年だけで数百万円規模の被害が出ている。福岡県では梨5,000〜6,000個、約200万円相当が盗まれたケースがある。栃木県ではシャインマスカット約400房、80万円前後の被害も発生している。
山形県のサクランボについては、2025年に件数・量・金額のいずれも前年比で大幅に増加した。
JAのアンケートでも、「増加」または「変化なし」と認識している品目が過半数を占めている。
一昔前は、「個人が自分で食べるために盗む」というケースをよく聞いていた時期もある。年金生活だけではままならないお年寄りが、近所の畑からメロンを1玉盗む、といった規模である。しかし最近は、計画的、組織的な犯行と思われる事例も目立つようになっており、1件あたりの打撃は計り知れない。
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Q:増加している原因は?
A:主な要因として、以下が挙げられる。
- ブランド化による単価上昇。シャインマスカット、高級桃・梨などは高値で換金しやすい
- 販路の多様化。フリマアプリ、SNS、路上販売などにより、匿名性を保ったまま盗品を現金化しやすい
- 農村部の過疎化・高齢化によって人目が少なくなっている
- 収穫直前のタイミングを狙えば、短時間で高額商品を大量に確保できる
- 物価高や経済事情も背景として指摘されている
つまり、「高く売れる」「運びやすい」「盗みやすい」「売りさばきやすい」という条件がそろっている。
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Q:どういう農作物が狙われるのか?
A:単価が高く、比較的小さくて運びやすい果物が中心である。
農水省の調査や報道で多く確認されるのは、桃、ぶどう、特にシャインマスカット、りんご、サクランボ、梨、みかんなどである。キャベツや白菜などの野菜にも被害はあるが、特に標的になりやすいのは高級果物である。
収穫直前の完熟に近い果実が狙われるケースもあり、単なる衝動的な窃盗ではなく、収穫時期を把握した計画的な犯行を感じさせる。
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Q:考えられる犯人像は?
A:個人的な犯行から組織的な犯行まで多様である。
- 近隣住民などによる個人的な犯行。自分で消費するケース
- 複数人による計画的大量盗難。収穫タイミングを熟知しているケース
- 外国人による犯行。特に、失踪した技能実習生の関与が過去に指摘された例がある
- 組織的な窃盗グループによる犯行
検挙率の低さも問題である。農家の中には、警察から「残念ながら捕まえるのは難しいと思ってください」と言われた例もある。
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Q:闇バイトなどが関係しているのか?
A:関係している可能性はある。
SNS上で実行犯を募る「闇農業バイト」のようなコミュニティの存在や、トクリュウの関与を疑う専門家・報道もある。
一夜で大量の果物を盗むには、車両、人員、収穫するための道具、販売先などが必要になる。大量かつ計画的な犯行ほど、個人の衝動的な窃盗では説明しにくくなる。
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Q:手慣れた犯行なのか?
A:とても素人とは思えない犯行も少なくない。
大量の果物を収穫時期に合わせて一晩で盗む、農園の死角から効率的に侵入する、短時間で大量に持ち出すといったケースがある。中には事前に下見を行ったとみられる例も報告されている。
高額な果物を効率よく盗むには、品種、収穫時期、農園の位置、侵入経路などの情報が必要になる。したがって、被害の一部では事前情報を持った人物が関与している可能性が高い。
果物の流通経路について
Q:路上販売、フリマサイト、SNS販売は近年増えているのか? 店に出せない訳あり品を売っているのか?
A:フリマアプリやSNS販売は、昔にはなかった新しい販路として拡大している。
路上販売自体は昔から存在する。しかし、盗難品を換金する手段として注目されやすいのも事実である。
一方で、農家が自ら規格外品や傷物を販売しているケースもある。フリマサイトで販売されている果物がすべて盗品というわけではない。
ただし、
- 相場と比較して極端に安い
- 未熟すぎる
- 産地や生産者情報が曖昧
- 質問しても品種や産地について答えられない
- 商品画像がフリー素材や他者の画像を使い回し
といった出品には注意が必要である。
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Q:農家はそもそもどういうルートで果物を販売しているのか? 直売やJAなども含めて知りたい。
A:主な販売ルートは、JA経由の市場出荷、直売所・農園直売、通販、ふるさと納税、スーパー・百貨店への直接卸、ギフト専門業者、フリマ・SNSなどである。
高級果物の場合、生産者自身がブランドを構築し、贈答用として販売ルートを明確にしているケースもある。
そのため、正規の生産者ほど「どこで、誰が、どのように作った果物なのか」を説明できる。
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Q:路上販売やフリマサイト、SNSなどで、実際に盗難品が売られていることはあるのか?
A:その可能性は指摘されており、過去には実際に疑わしい事例も報告されている。
例えば、メルカリで未熟な桃が大量に出品され、通報された例がある。また、ネット販売や軽トラックによる販売について、盗難品の転売ではないかと農家が推測した例もある。メルカリも盗品の出品を禁止し、注意喚起を行っている。
「フリマ=盗品」とまではいえないが、「盗品をフリマアプリで売りさばく」というルートはゼロではない。
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Q:実際に路上販売を突撃したことがあるということだが、その際はどのような人が何を売っていたのか。怪しかった点は?
A:過去、路上販売に突撃取材をした際、最も気になったのは、販売している人が果物についてほとんど知識を持っていなかったことである。
例えば桃やブドウについて、品種や産地、保存方法など、購入者なら当然聞くような質問をしても答えられない。
中には、筆者が「この桃は福島県産のあかつきですか?」と聞いたところ、「そうです」と即答したものの、実際には箱に山梨県産と書かれており、品種も明らかに違うというケースもあった。
さらに価格にも疑問があった。自分が確認したケースでは、桃が7玉300円、1玉あたり約43円で販売されていた。桃そのものの仕入れ代だけでなく、軽トラック、ガソリン、人件費などのコストまで考えれば、この価格で継続的に小売販売して利益を出すのは現実的ではないだろう。
また、桃の管理方法にも疑問があった。桃は非常に傷みやすく、圧力にも弱い果物である。それにもかかわらず、箱の積み方などを見ると、果物を扱う人間としてはかなりずさんに見えるケースがあった。
さらに販売車に貼られている商品紹介画像を確認すると、他社のホームページからそのまま使用したと思われる画像があり、画像の中に別の会社名まで残っていた。
以上のことから「この商品はどこから仕入れているのか」という疑問を強く持った。
ただ残念なことに、日本人がいくら警戒しても、訪日外国人が知らずに購入していくケースもあり、抜本的に売上を止めることは難しそうだ。
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Q:盗難品が相場より安く売られることで、スーパーなどで買うフルーツの価格が上がるなどの影響はあるのか?
A:短期的な価格上昇は考えにくいが、長期的にはネガティブだ。
盗難された果物の量は、全国の流通量全体から見れば限定的である。そのため、盗難によってスーパーの果物価格が直接押し上げられるとは考えにくい。
だが、農家が盗難被害によって生産を縮小したり、農業そのものから撤退したりすれば、長期的には供給減少につながる可能性がある。被害農家の経営を圧迫することが最大の問題である。
ただでさえ農業では後継者不足が問題になっている。収穫直前の果物を大量に盗まれれば、その年の売上だけでなく、「これだけリスクが高いなら農業を続けられない」という判断につながる。
個々の窃盗は小さく見えても、積み重なれば農業の供給基盤を削ることになる。
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Q:盗難された果物かどうかの見分け方は? フリマサイト、SNS、路上販売などで購入する際に気をつけることは?
A:完璧な見分け方はないが、いくつかの危険信号はある。
- 価格:相場と比較して極端に安い場合は警戒したほうがよい。
- 状態:未熟すぎる、逆に熟しすぎている、サイズが不自然に小さい、傷が多いにもかかわらず「訳あり」という説明が不自然、といった場合である。
- 情報:産地、生産者、収穫日などが不明確で、質問しても具体的に答えられない場合は注意が必要である。
- 販売者:匿名性が高く、販売者の実態が確認できない場合はリスクが上がる。
- 場所:駅前や歩道などで、必要な許可を取得しているのか分からない移動販売には注意したい。
なお、車種やナンバーだけで判断することはできない。軽トラックは正規の農家も当然使用するからである。
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Q:安心・安全な果物かどうかの見分け方は? 安全品質保証マークやJAの認証など、スーパーや公式サイトで確認できるものはあるのか?
A:産地や生産者が明確で、流通経路を追跡できる商品を選ぶのが基本である。
確認材料としては、JAの産地証明・トレーサビリティ、GAP認証、有機JAS、各県のブランド認証マーク、スーパーの商品表示などがある。
公式サイトを持つ生産者や、販売実績のある直売所・ギフト専門店も比較的確認しやすい。
筆者の法人は全国の郵便局カタログやふるさと納税にも出品している。その経験からいうと、こうした販路は非常に厳しい審査がある。ぽっと出の業者が出したいといっても、まず通らない。長い経営履歴、トレーサビリティ、決算書の状況などを総合的にチェックした上で初めて販売者になれる。そうしたフィルターを通した業者なら、盗品が入り込む余地はないだろう。
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Q:もし盗難された果物を買って食べてしまった場合、どんな危険性があるのか? 残留農薬や食品としての基準を満たしていない可能性もあるのか?
A:健康面でのリスクはゼロとは言えない。
盗まれるのは、正規の農家が育てた収穫直前の果物である。農薬の使用基準や収穫前日数も正規品と同じであり、「盗品だから残留農薬が危険」ということではない。むしろ品質の良い果物が収穫直前に盗まれるケースもある。
ただし、リスクがあるとすれば別の部分である。一つは温度管理だ。
正規流通では適切な温度管理のもとで運ばれるが、盗難品ではその保証がない。桃やブドウは特に傷みやすく、夏場の車内などに長時間放置されれば、鮮度が大きく低下する。
実際に健康被害につながるとすれば、残留農薬よりもこちらのリスクのほうが現実的である。
もう一つは、出所が追えないことである。仮に食中毒が発生しても、どこから来た果物なのか分からなければ、原因究明や商品の回収が難しくなる。
正規流通が持っている価値は、単に「安全な商品を運ぶ」ということだけではない。何か問題が起きたときに、どこから来た商品なのか遡れることにも価値がある。
そして、購入者には法的・金銭的なリスクもある。
盗品と知って購入すれば、盗品等有償譲受け罪に問われる可能性がある。また、知らずに購入した場合でも、民法上、被害者は盗難から2年間、その品物の返還を請求できるとされている。
つまり、「安く買えた」と思っていたら、代金を払ったにもかかわらず果物を返さなければならないという事態も起こり得る。
◇
日本の農家の現場を知れば、盗まれた側の辛さは想像を絶するものだと分かる。大型台風など自然災害で実が落ちてだめになったなら、まだ諦めもつくだろう。
しかし、人災による被害は悔やんでも悔やみきれない辛さがある。我が国の果物を守るためには、もう農家が個人で努力するだけでは限界に達している。
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「Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)







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