「大きな目標達成には時間がかかる」。これは本来、至極当たり前のことでしょう。しかし、楽にできるノウハウやタイパ重視の考え方が蔓延する現代において、つい忘れられがちな事実でもあります。
時短コンサルタントの滝川徹氏は、この事実を前提とした上で、充実した人生を送るには、身につけるべきスキルを見極め、しっかりと時間をかけて習得する必要があると説きます。一方、そこに時間と努力を「オールイン」するのではなく、たった1日30分を続けることで、人生のバランスを取りながら、無理なく地道にスキル習得を続けられるといいます。この超現実的な目標達成法、「10年思考」とは?
この記事では、物事を達成するうえでカギとなるスキルの重要性について、『10年思考でうまくいく――自己投資を実現するスキル戦略』(滝川徹・パンローリング株式会社)から再編集してお届けします。
“AIで効率”よりも“長期視点”がカギ
高校3年の受験期に、前触れもなく急に成績がグンと伸びた時期があった。
それまでの模試の合否判定は、常にDかE。高校生活の中心だったテニス部を引退してからは勉強に専念すると決め、毎日猛勉強するも成績に変化の兆しは全く見えず……。勉強量と結果の落差に絶望しそうになったが、「受験の結果が人生を左右する」と思いこんでいた私は、とにかく必死に勉強した。つらいと感じる感情を押し殺し、ひたすらがんばり続けた。そうしたところ、ある日不思議なことが起きた。
11月頃だったと記憶しているが、模試の結果が返ってくると、早稲田大学と慶應義塾大学の判定が突如Bになっていた。私は目を疑い「おぉ!」となったものの、正直まぐれだと思った。だが不思議とその後も結果は変わらなかった。あまりにも唐突な変化で実感は湧かなかったが、どうやら私の学力がアップしたのは間違いなさそうだった。実際、その後私は慶應義塾大学の経済学部と商学部に合格した。
実は、このとき体験した急激なブレイクスルーは、少し前にテニスでも経験していた。試合になると極度に緊張して思うようにプレーできなくなる私は、高校生活の大半、思うように勝てずに苦しんだ。それこそ、いつあきらめてもおかしくない心理状態だったのは間違いない。しかし当時の私にはテニスが生存に不可欠になっていて、その選択肢は自分の中に生まれなかった。
幼い頃から自己肯定感が低かった私は、テニスと出合う前、まわりとうまく溶けこめずに苦しんでいた。いつも自分だけ、どこか人と違う。そんな感覚があり、学校でもクラスのみんなとつながっている感覚が持てずにいた。自分には「居場所がない」。そう感じるのだ。
そんななかテニス部に入り、テニスがまわりより上手くなると、そのモヤモヤが解消した気がした。メンバーも自分に一目置いてくれる。自分に自信と誇りを感じられるようになった。テニスのおかげで、私はなんとか息苦しい人生を生き抜けるようになったのだ。
単純な私は、もっとテニスが上手くなれば、もっとまわりから認められ、もっと自信と誇りを持てるようになる。そうすれば、もっと人生が良くなる。そう考えるようになった。だからこそ、感情を押し殺してがんばり続けることができたのだろう。
その結果、最後の最後で、例の瞬間が訪れた。高校3年生の最後の県大会予選。私はあるきっかけで、試合で思いどおりにプレーするコツを掴む。そのおかげで、今まで勝てなかった予選を勝ち抜き、県大会に出場する。団体戦でも大事な試合で勝利し、チームに貢献することができた。私は決して名選手ではなかったが、最後の最後で満足のいく結果を残すことができたのだ。
この突如訪れる急激な変化・ブレイクスルーは一体なんなのか。この謎を紐解く鍵になるのが、「スキル」という概念だ。
そもそもスキルとは何か?
スキルの定義は大辞泉によれば『手腕。技量。また、訓練によって得られる、特殊な技能や技術』とされている。こう聞くと、プログラミングのような特殊な技能をイメージする人も多いかもしれない。だが本書では、スキルを「訓練・練習によって成長できる要素があるもの」。そう広く捉える。勉強やテニスをはじめとしたスポーツ、ピアノやギターの演奏。これらは練習すれば上達・成長するのでスキルである。こうしたものは理解しやすいだろう。
一方で、世の中には実はスキルであっても、スキルに見えないものも多数存在する。
たとえばX(旧Twitter)でバズっている投稿。こうした投稿は短いので、一見思いつきでサラッと書かれたように見える。しかしそのほとんどが、高いスキルを持った人による、時間と労力が注がれた作品だと多くの人は知らない。
私もインフルエンサーの知人・友人から話を聞くまで知らなかった。彼らの大半は、ひとつの投稿に実は1時間以上かけていたりする。そうして長年、膨大な時間をツイート(ポスト)することに費やしてきた。その結果、質の高い投稿を作るスキルを極限まで高め、インフルエンサーになったのだ。たしかにAIでポストの文面は作成できるし、時流に即したポストで瞬発的に「いいね」をもらうことはできるかもしれない。しかし、継続的にしかも独自のカラーを出したポストをするにはスキルがいるのはうなずけるだろう。
別の例をあげれば「お笑い」もまたスキルだ。バラエティ番組で芸人がおもしろいことを言ったり、M-1グランプリの漫才を見たりすると「この人たちは頭がいいんだな」「自分とはセンスが違う」などと感じる。
もちろん、それもあるだろう。しかしおもしろい人たちは世の中にごまんといて、私達が目にするのはその中でもトップクラスの人たちだ。では何が、彼らをその地位に押し上げたのか。それは、高いスキルにほかならない。
2007年のM-1グランプリで敗者復活枠から奇跡の優勝を果たしたサンドウィッチマン(伊達みきお氏と富澤たけし氏のコンビ)の伊達氏も、「この1年で結果が出なかったら解散」と決意した時期について次のようにふりかえる。
「声をかけてもらった舞台の仕事は、どんな場所でも断らず、すべて引き受けた。富澤は新ネタを頑張ってつくっていたし、僕も自分のツッコミの「間」に磨きをかけた。仲間のライブも、いままでより真剣に見るようになって、なんとかいい部分を盗んでやろうと必死で喰らいついた。自分たちの漫才のスキルの向上に、全神経を注いだ」[『復活力』(幻冬舎)より]
M-1で優勝したとき、彼らは「無名からの勝ちあがり!」などと騒がれ、ポッと出の若手のように言われた。しかし彼らのコンビ結成は1998年。才能もあったのかもしれないが、彼らの優勝は10年近くスキルを磨き続けた結果だとわかる。
ほかの例をあげれば、作家は書くスキルを極限まで高めた人たち。YouTubeやTikTokをはじめとした、SNSのインフルエンサーも動画・コンテンツの作成スキルを極限まで高めた人たちだ。こうして考えていくと、他者を凌駕する実績・成果を出している人は(そう見えないだけで)そのスキルを高めた人たちと言える。つまり何かに「優れている」ということは、スキルが高いことを指しているのである。
難関資格に合格したり、勉強の成績が良い人は勉強するスキルが高い人。
人よりも多く本を読める人は、本を読むスキルが高い人。
毎日走ったり、筋トレを続けられる人は運動するスキルが高い人。
こうして考えると「勉強、運動、本を読む習慣を作る」「ビジネスで成功する」ことなどは全て、スキルをどう高めるかの問題だと言える。
それだけではない。何か悩んでいること、仕事や人間関係の悩み、時間がないという悩み。こうした悩みも、スキルの問題だ。夫婦関係に悩んでいると、問題の原因はパートナー側にある。そう思えるかもしれない。しかし大抵の場合、互いにどうやってかかわるか、どうコミュニケーションをとるか。こうしたスキル不足が問題の真因であることが多い。だからこそ、世の中には夫婦関係の悩みを解決するノウハウが書かれた本が多数存在するのだ。これはノウハウを知り、実践を通してスキルを高めることができれば、問題を解決することができる。このことを示している。
こうして考えていくと、あらゆる問題は(改善する余地がある限り)スキルの問題だと理解することができる。私たちが成長したいと考えるとき、つまり、目標や夢を達成したいと考えたり、人生をより良くしたいと願うとき。考えるべき問いは「どうすれば、(そのために必要な)スキルを高めることができるか」なのだ。全てはスキルの問題なのである。

サンドウィッチマンのふたり
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滝川 徹(時短コンサルタント)
1982年東京生まれ。Yahoo!ニュース・アゴラで執筆記事が多数掲載される現役会社員・時短コンサルタント。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけにタスク管理を習得。2014年に組織の残業を削減した取り組みで全国表彰。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。時間管理をテーマに2018年に順天堂大学で講演を行うなど、セミナー講師としても活動。受講者は延べ1,000名以上。月4時間だけ働くスタイルで4年間で500万円の収入を得る。著書に『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング)』『ちょっとしたスキルがお金に変わる「副業講師」で月10万円無理なく稼ぐ方法(日本実業出版社)』他。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年8月27日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。







