自治医科大学を卒業した医師A氏が、修学資金など約3766万円の返還を求められたのは違憲・違法だとして、大学と愛知県を相手に提訴しています。
A氏は2015年に自治医大へ入学し、2022年に卒業。愛知県内の病院で勤務しましたが、父親の失職や家族の事情などから経済的に厳しくなり退職しました。その後、大学側から約3766万円の返還を求められました。

自治医科大学 同大学HPより
「約束したのだから返せ」に原告は反論
自治医大は、医師不足地域に医師を送り出すため全国の都道府県が共同で設立した大学です。学生には多額の修学資金が貸与され、卒業後、指定医療機関などで原則9年間勤務すれば返還を免除されます。
A氏は制度の存在自体は理解していた一方、高額な返還義務によって実質的に勤務先を拘束することは、職業選択の自由や労働基準法などに反すると主張しています。
「約束したのだから返せばいい」という批判には、「世の中には約束より上位に立つ法律がある」と反論しています。確かに、契約したからといって違法な条件まで有効になるわけではありません。
問題は、この制度が本当に違法な労働拘束に当たるのかという点です。
「困窮した若手医師」というだけではない
この問題では、A氏の現在の活動にも注目が集まっています。
とある地方都市の某外科医氏によるnote記事では、A氏が義務年限離脱後も産業医や在宅医、医師国家試験予備校講師などとして活動し、法科大学院にも在籍していると指摘されています。Xでは「医療法人理事長」「弁護士志望の法科大学院生」といった肩書きも掲げ、「アンチ地域枠制度」を名乗っているといいます。
さらに同記事では、A氏と同じ愛知県枠で自治医大を卒業し、義務年限を全うしたOB医師がXで非常に強い言葉を使って批判していることも紹介されています。愛知県では義務を果たしながら研修やキャリア形成も可能だったとして、A氏の主張に厳しく反論しています。
もちろん、こうした肩書きだけでA氏に3766万円を返済する資力があるとは断定できません。しかし、単純な「困窮した若手医師が巨額債務を背負わされた」という構図だけでは、この訴訟の全体像は捉えられません。
自治医大制度まで崩してよいのか
自治医大側は、制度は入学前から明示され、学生本人との契約に基づいて運用していると反論しています。
そもそも自治医大は普通の医学部ではありません。地域医療を担うことを前提に、多額の学費負担を軽減する特殊な仕組みです。
9年間勤務しない自由は当然あります。しかし、その場合にも貸与された資金を返さなくてよいとなれば、制度は成り立ちません。
入学枠には限りがあります。地域医療に従事する意思を持ちながら不合格になった受験生もいる以上、「途中で辞めても負担なし」とすれば公平性も損なわれます。
問うべきは「返済ゼロ」ではなく返還条件
一方、大学側の制度にも改善の余地はあります。
A氏は一定期間、指定病院で勤務しています。それにもかかわらず高額な返還を一括で求める仕組みが妥当なのか、病気や介護、家庭事情など不可避の事情に十分な救済措置があるのかは検討すべきでかもしれません。
勤務年数に応じた減額や分割返済、返還猶予などは制度改革の対象になり得ます。
しかし、それと「地域勤務を求める制度そのものが人権侵害だから返還義務もない」という主張は別問題です。
「約束より法律が上」というのは正しいでしょう。ですが、法律も公共目的を持つ契約を無条件に否定するものではありません。
自治医大制度が機能しなくなれば、最後に困るのは大学や県ではなく、医師不足となる地域の住民だからです。









コメント