ドル円は160円台:なぜジャクソンホール直後に円安が進んだのか

外国為替市場で円安が再び加速している。8月28日、米ワイオミング州ジャクソンホールで行われた経済シンポジウムで、FRBのケビン・ウォーシュ議長が講演すると、ドル買いが急速に強まり、ドル円は1ドル=160円15銭前後まで上昇した。なぜジャクソンホールをきっかけに、円安が進んだのだろうか。

ジャクソンホールのウォーシュ議長(日本経済新聞)

「次は利下げ」ではなく「次も利上げ」

最大の理由は、ウォーシュ議長の発言が市場の予想以上にタカ派だったことだ。

ウォーシュ氏は講演で、FRBの物価安定目標である2%について「firm, fixed target(確固たる固定された目標)」と強調した。そして基調的インフレが2%へ十分な速度で低下していると確信できなければ”We have work to do”と述べ、追加利上げの可能性を事実上排除しなかった。

直前に発表された7月のPCE物価指数も前年比3.7%と市場予想を上回っていた。米景気も底堅い。つまり「インフレはまだ高いのに、景気は利上げに耐えられる」という状況である。市場が反応したのは当然だった。

9月利上げ確率が35%から約60%へ

ウォーシュ講演前、市場が織り込んでいた9月FOMCでの0.25%利上げ確率は約35%だった。それが講演後には約58~60%まで一気に上昇した。

米2年国債利回りも約13bp上昇した。政策金利の見通しを敏感に反映する2年債利回りが急騰したことは、市場がFRBの金融政策見通しをかなり大きく修正したことを意味する。その結果、

FRB追加利上げ観測

米国債利回り上昇

ドル買い・円売り

という典型的な金利差トレードが発生した。ドルは主要通貨に対して上昇し、円は0.48%下落して160円15銭前後となった。ドルの上昇率は約2カ月半ぶりの大きさだった。

15兆円を超える為替介入でも円安は止まらない

もっと重要なのは日本側である。日本政府は7月30日から8月26日までに、過去最大となる約15.4兆円もの円買い介入を行った。米国との異例の協調介入まで実施し、一時は円高方向へ大きく戻した。

それにもかかわらず、わずか1カ月ほどで再び160円台に戻ってきた。これは為替介入の限界を物語っている。政府が市場でドルを売って円を買えば、一時的に円高にはできる。しかし、日本の金利が米国より大幅に低いという基本構造そのものは介入では変えられない。

FRBがさらに利上げする可能性が高まれば、円を借りてドル資産を買う「円キャリートレード」の魅力はむしろ増す。15兆円を投入しても、日米の金融政策の方向が逆なら、円売り圧力は再び戻ってくる。

問題は「160円」ではなく日米金融政策の差

もちろん160円という数字そのものに特別な経済的意味があるわけではない。直前から159円台だったため、ジャクソンホール後に必要だった値動きは1円程度にすぎない。本質はそこではない。

ジャクソンホールによって市場のシナリオが「FRBはいずれ緩和へ」から「インフレが下がらなければ再利上げもある」へ変化したことである。一方の日銀は米国ほど高い政策金利を採用できていない。

つまり今回の160円突破は、投機筋だけの問題ではない。米国ではインフレを抑えるため利上げする可能性があるのに、日本では高市政権が金融抑圧を続けているため、円安と物価高が続いても金利が正常化できない。

巨額の為替介入で為替レートを一時的に動かしても、この金融政策の差を埋めない限り円安圧力は消えない。ジャクソンホール直後の160円台乗せは、その現実を市場が改めて突きつけた出来事だった。

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