ロシア情勢を占ううえでこの数週間の間に2つの解せないことがありました。1つはプーチン氏が択捉島を訪問したこと、もう1つがアメリカCIAのラトクリフ長官がモスクワを訪れ、対外情報庁(SVR)のセルゲイ ナルイシキン長官と極秘会談をしたとされる件です。

ラトクリフ長官 Wikipediaより
択捉島訪問については私は8月15日のブログで「中国に歩調を合わせて、日本苛めを演出したのだろう」と述べています。またプーチン氏は以前から北方領土には行ってみたいと発言していたので夏の今の時期を選んだのだと察しています。深く考えればもっと想像力たくましく述べることもできますが、ロシアが第二次大戦で苦しんだ東西二方面作戦の苦渋をあえて今、選ぶ理由はないでしょう。

プーチン大統領とトランプ大統領 クレムリンHPより 2025年8月
但し、戦争とは武器や兵士によるドンパチだけを戦争とは言わず、高度化した戦術の中には経済や金融制裁、インフラ破壊、情報操作、チョークポイントの攻撃など様々な方法を通じて相手方を苦しめることが可能になっています。私はこれが今回の鍵ではないかと思うのです。つまりプーチン氏は東部ロシアにも「俺の目は節穴ではない。あらゆるところに目配せしている」という意思表示をして警告したように見えるのです。
それを踏まえてCIAのラトクリフ長官がナルイシキンFSV長官と会合した意味を考えてみると案外、その意味が見えてくる気がします。ラトクリフ氏はプーチン氏との面談を求めていたのかどうかはわかりません。ただ、ナルイシキン氏はプーチン氏の側近の1人であり、かつて大統領府長官であり、政権を長く支えてきた堅実な役人であります。つまりあまり破天荒なことにはならないわけでラトクリフ氏とは実務的な会談だったと想像しています。
ではテーマは何か、ですが、これは最近漏れてきているその報告書からは主題はウクライナ情勢のようですが、もう1つは最近水面下で懸念され始めているバルト三国へのちょっかいの可能性を何らかの形で抑止させることではないかとみています。(報告書には全部が書かれているわけではなく、都合の良い一方的な意見となっているように見えます。)
ロシアのウクライナとの闘いは既に4年半となり、膠着状態が続きます。ウクライナ東部戦線はまるで203高地の戦いの逆バージョンのような戦いが展開されています。ドネツク州のスラヴャンスク地方に要塞ベルトと称するエリアがあり、ウクライナ軍が死守するもロシアが時間をかけてじりじり追い込む展開になっています。なぜここが重要か、といえばここを抜けるとその後背地にウクライナの重要な工業地帯が広がっているためで、この攻防戦になっているのです。
一方、この攻略に時間がかかる地域とは別にロシアはキーウへのドローンなどでの効率的な攻撃を展開しています。問題はウクライナに防空システムであるパトリオットミサイルが少なくなりつつあるのです。ではアメリカはそれを供給できるかと言えばイランとの不毛な戦いで武器を消耗しているためそれが困難になっています。ウクライナのパトリオットの在庫は現在264機で最盛期の4割以下です。
先般ウクライナのコレツキー首相が日本にパトリオットミサイルを送れ、と要望し、木原官房長官は出来ない、と返答しました。
これはどういうことかというとパトリオットのような誘導ミサイルに必要なジャイロスコープ(特にPAC-2)は世界で三菱重工しか作れないので日本は世界でも数少ないパトリオットミサイルのライセンス生産国なのです。また新型のPAC-3も三菱重工が作っていますが、その一部の部品であるセンサーをボーイング社が独占製造しており、これが部品供給のネックになっています。その事情を踏まえ、ウクライナはそれを廻せ、と迫ったわけです。
ところが法律上それは出来ません。なので表向きはお断りしたということです。この表向きというのは実際には簡単な方法があります。発注元のアメリカに送ってアメリカがウクライナに渡せばよいだけであり、日本政府はそれを認めているようです。(野党が知ったら噛みつきそうですがね。)三菱重工は一種の戦争特需を得ているとも言えます。ただ、ロシアは当然それを知っているので「日本、苛めてやろうか」ということはあり得るのです。高市氏がロシアに強気に出られないのはこのあたりの計算は当然しているはずです。
プーチン氏の戦術が変わったのか、という見方もできます。想定外の長いウクライナとの闘いで氏の野望実現と自らの政治生命、ないし物理的な余命を考えるとさほど長くないのでまっとうな戦争とは別にプーチン氏が得意の情報網を駆使してピンポイントで最も効率的なグレーな行為を行い、世界を混乱させる、これを狙っているのではないか、という気がするのです。
CIAはそのあたりの変化を掴んだ、そこで何をしでかすかわからないプーチン氏の側近と会うことで激しい神経戦を行ったのではないか、と考えています。つまりプーチン氏に不用意に行動範囲を広げるな、という警告です。だからラトクリフ長官はロシア側に「お前は詰んでいる」と迫ったとされるわけです。この「不用意な行動範囲の拡大」は私から見ればバルト三国だけではなく、日本も含まれていると考えています。日本側は駐モスクワ日本大使が呼ばれていますし、そのあたりの事情の情報は入手していると思われ、日本の政権には伝わっているはずです。
トランプ氏としてはどうにも収拾がつかないウクライナ問題に辟易としており、ラトクリフ氏に「どうにかしろ」と命じたのでしょう。もちろんラトクリフ氏だけでどうにかできる話ではないのですが、アメリカが一種の四面楚歌に近い状態になりかねないリスクもあるのでしょう。四面とはロシア、中国、イラン、そして欧州です。欧州はNATOのありかたのみならず、アメリカとの総合的な関係に極めて不満だという意味です。そしてイラン戦争のおいてアメリカは張り子のトラは言い過ぎにしても戦闘態勢は実質形骸化しつつあるようです。
表題の焦っているのはプーチン氏か、選挙も控えるトランプ氏か、という答えは私は両者とも相当神経をすり減らしているとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年8月31日の記事より転載させていただきました。







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