イスラエルのエルサレムのシオンの丘近くで、39歳のユダヤ人男性が4月28日、道を歩いていたフランス人修道女を突き飛ばし、倒れた修道女を足蹴にするなどの暴行を加えた事件に対し、エルサレム治安判事裁判所は8月26日、被告の男に対して「精神疾患を患っている」として無罪判決を下した。同裁判所は「男が修道女に暴行を働いたことは事実だが、精神鑑定の結果、犯行当時は精神病状態にあり、したがって刑事責任能力を有していなかった」と説明している。また、男に対し、6年間の精神科施設への強制収容を命じた。これは「彼が起訴された罪状の中で最も重い罪に対する法定最高刑」に相当する。ただし、精神医療審査会の再検討を経て、この6年間の収容期間が短縮される可能性もあるという。

礼拝を行うエルサレムのラテン典礼総大主教ピッツァバッラ枢機卿、バチカンニュース2026年5月5日
被害に遭った修道女は、エルサレムにあるフランス聖書・考古学学院で研究員として働いている。彼女は4月28日、イエスの「最後の晩餐」の場所とされる「最後の晩餐の部屋(セナクル)」の近くで襲撃された。ネット上に公開された動画には、被告が彼女を背後から地面に突き倒し、執拗に蹴りつける様子が映っている。イスラエル警察は翌日、男を逮捕した。警察は逮捕時の映像に加え、修道女の頭部右側に負った傷を示す写真も公開し、国内ばかりか、国際社会にも大きな反響を投じた。
エルサレムのベネディクト会修道院長であるニコデムス・シュナーベル氏は、カトリック通信社(KNA)とのインタビューで、今回の判決について、「加害者の精神疾患に偏見の目を向けるべきではないが、それによって私たちは真の社会問題を見失ってはならない。すなわち、キリスト教徒に対する憎悪が存在するということであり、あらゆる襲撃事件を精神医学的な観点だけで説明できるわけではない」と語った。
事件発生当時、このコラムでも報じたが、イスラエル社会の中には「キリスト教徒に対する憎悪が存在する――そして、あらゆる襲撃事件を精神医学的な観点だけで説明できない」ということだ。ガザ紛争やレバノン紛争でも明らかだが、イスラエルとイスラム教徒の間での憎悪、対立はよく報じられてきたが、ユダヤ教とキリスト教の間にも同じような宗派間のいがみ合い、憎悪が存在することを忘れてはならない(「ユダヤ人に見られる反キリスト教傾向」2026年5月5日参考)。

エルサレムのラテン典礼総大司教であるピッツァバッラ枢機卿は「イスラエルのキリスト教徒(少数派)がますます敵意にさらされている。キリスト教徒に対する攻撃や敵対行為が増加してきた。ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3宗教の聖地があるエルサレム旧市街では、超正統派ユダヤ教徒がキリスト教の聖職者に唾を吐きかけたり、暴言を吐いたりする行為が常態化している。最近はその頻度が非常に高まっている」と指摘。同総大司教は、イスラエルで予定されている議会選挙についても懸念を抱いていることを明らかにしている。例えばエルサレム旧市街のユダヤ人街やシオン山などにおいて、キリスト教徒にとって状況が「非常に不快なものになりかねない」と述べている(バチカンニュース 2026年6月12日)。
イスラエル社会における反キリスト教傾向について、①イスラエル政府内に超国家主義者や宗教的極右勢力が参画したこと、②一部の過激派が「ユダヤ人の土地における異教の排除」という排他的な考えを正当化し、行動をエスカレートさせている、③ユダヤ教の超正統派や右派若年層の一部において、キリスト教を「偶像崇拝」とみなし、エルサレムから排除すべき存在と捉える過激な思想が強まってきている、④ガザ情勢やレバノン国境での緊張が続く中、宗教的なアイデンティティが先鋭化し、他宗教への不寛容さが攻撃的な形で表出しやすくなっている、等々が要因として挙げられている。
ちなみに、イスラエル中央統計局(CBS)の最新データに基づくと、イスラエルのキリスト教徒の人口(2025年末時点)は 約18万4,200人で、総人口の約1.9%だ。そのうち約78.7%がアラブ系キリスト教徒だ。ちなみに、エルサレム市には約1万3400人のキリスト教徒が住み、ナザレ(1万8,900人)、ハイファ(1万8,800人)に次いで3番目に多い居住地となっている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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