
Reuters “Putin cites chance of peace deal, Ukraine sees ‘new dynamic’”(9月3日)、Washington Post “Putin says he won’t deal with Ukrainian ‘terrorists’ but praises U.S. mediators”(9月2日)、Ukrinform “FM Sybiha expects ‘new momentum’ in peace talks”(9月3日)などをはじめ、多くの外信がここ数日、ウクライナ和平をめぐる動きを一斉に報じています。
その内容を読んでいますと、戦況そのものとは別の政治的な動きが見えてきます。
Reutersなどによれば、ゼレンスキー政権はロシアとの和平交渉について、米国の参加が不可欠だという姿勢を改めて強調しています。ゼレンスキー自身もトランプ大統領の特使ウィトコフ、クシュナー両氏との協議を「詳細かつ建設的」と評価し、米国の仲介に期待を示しています。
さらに興味深いのはプーチンです。
ウクライナに対する強硬姿勢そのものはほとんど変えていないにもかかわらず、トランプ政権による仲介には明確に門戸を開き、ウィトコフ、クシュナー両氏を評価しながら、和平合意の可能性にまで言及し始めました。
つまり、ゼレンスキーもプーチンも核心的な主張をほとんど変えないまま、揃って「米国の仲介が不可欠だ」とトランプを持ち上げています。
私はここに11月の米中間選挙の臭いを感じます。
トランプにとって、選挙までにウクライナ戦争やイラン戦争を完全に解決できなくとも、「自分が和平交渉を動かした」「二つの戦争を終結へ向かわせた」という絵ができれば、選挙宣伝には十分使えます。
プーチンもゼレンスキーも、そのトランプの政治的必要性を十分承知しているのではないでしょうか。トランプに花を持たせる代わりに、自分に有利な条件を引き出そうとしていると考えれば、両者のあからさまな米国仲介歓迎も理解しやすくなります。
もう一つ私が注目したのは、イラン戦争ではパキスタン、ウクライナ戦争ではインドが、それぞれ仲介外交の一角に浮上していることです。
これは単純な中国包囲網とは思いません。とくにパキスタンは中国と極めて緊密な関係にあり、一方、中国とインドは対立と協調が同時に存在する極めて複層的で微妙な関係にあります。
そこが、むしろ注目すべきポイントに見えます。
トランプはイランではパキスタン、ウクライナではインドを介在させることによって、中国に対して、「米国はこの両国に依然として独自の太いパイプを持っている」ことを誇示しているように見えるからです。
立場のまったく異なる両国が、それぞれ米国の和平外交にも参加する姿は、中国から見れば、南アジアが北京だけの外交圏ではないことを改めて示すことになります。
したがって、現在進んでいる動きを単なる「和平外交」と見るだけでは不十分な気がします。
トランプの中間選挙対策、二つの戦争からの出口探し、そして中国に対する米国外交網の健在ぶりの誇示。この三つが一つの盤面で重なって動き始めたのではないか。
まだ仮説の段階ですが、今後の動きを見るうえで、私はこの三つの流れに注目したいと思います。
そして、この動きは日本外交への一種の警告にも見えます。
現在の外交は、一つの国を「味方か敵か」に分け、一つの交渉に一つの目的を持たせるほど単純ではありません。パキスタンとの関係を使いながら中国とも向き合い、インドを介在させながらロシアとも交渉し、同時にその成果を国内選挙にも利用する。複数の目的と複数の外交回路が同時並行で動いています。
真面目さを売り物に、一つ一つの案件を個別に処理することに慣れた日本外交にとって、最近の複層化・高速化した外交が突き付ける課題は、案外大きいのではないでしょうか。
2026年9月3日 北村隆司(NY在住)







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