9993! この4桁を見て、私は少し黙った

(前回:「その本、AIに要約させました」と言われた日のこと

数字の話から入る。退屈だと思ったら飛ばしてくれていい。ただ、私は飛ばしてほしくないと思っている。

新聞発行部数のピークは1997年、5376万部。日本の新聞史上、もっとも輝かしい年だ。Googleが世界に姿を現す、その前年である。

「新聞は読まないけど、ニュースは見てますよ」。

わかる。私もそうだ。SmartNews、NewsPicks、Yahoo!ニュース、X。速報は無料、しかも一瞬。金を払って朝刊を待つ理由が、どこにある。いまや定期購読しているのは60代以上がほとんどだという。

書籍。新刊点数は2013年の8万2589点をピークに、坂を転げ落ちるように減って、2024年は6万5322点。雑誌は2005年の4581点から、2024年に2341点。ほぼ半分。

……まだ続く。というより、ここからが本題だ。

書店の数である。2017年度、全国の実店舗書店は1万3600店あった。7年後の2024年度、1万410店。そして2025年度、ついに1万店を割り、9993店。

9993。

この4桁を見たとき、私は少し黙った。

私は東京の中野で生まれ育った。子どものころ、駅前には本屋が何軒もあった。学校帰りに立ち読みをして、店主に追い払われて、それでも翌日また行った。待ち合わせはいつも本屋の前だった。相手が遅れてきても腹が立たない。棚を見ていればいいのだから。

それが、ない。

いや、感傷で終わらせるつもりはない。売上を見よう。2005年に2兆1964億円あった出版市場は、2025年に1兆5462億円。雑誌に至っては、1兆2767億円が3708億円である。

3708。

これは「縮小」ではない。崩壊だ。言葉を選ぶ気にもならない。

もちろん、伸びているものもある。電子出版は5815億円。健闘している。していると思う。ただし、紙が失った分をそのまま受け止めたわけではない。

で、ここからが、私のいちばん言いたいことだ。

この数字を「読まれなくなった」と読むのは、たぶん半分しか当たっていない。組み替わっているのだ。読まれ方の構造そのものが。

書物と新聞は、情報を受け取るためのメディアだった。そこに検索が加わり、SNSの共有が加わり、いまはAIとの対話が乗った。受け取る、探す、分け合う、問い返す。明治の活字革命以来の転換期だと私は思っている。……大げさか? 大げさついでに言えば、活版印刷が入ってきたときも、みんな似たような顔をしていたはずだ。

さて、質問。あなたは月に何冊、本を読んでいますか。

2026年のある調査(対象1万333人)では、月の読書冊数「0冊」が約半数で最多だった。日本人の半分が、月に1冊も読んでいない。理由は「忙しくて読めない」「集中力が続かない」「読みたい本がない」。

正直、この結果そのものには驚かなかった。驚いたのは別のところである。

読書の目的が、変わっている。少し前まで、本を読む理由の上位は「知識や教養を身につけたい」「ビジネススキルを高めて収入を増やしたい」「自己投資のため」だった。いまトップに来ているのは何か。

「趣味・娯楽として楽しむため」「気分転換」「時間つぶし」。

……悪いとは言わない。言わないが、読書が動画やゲームと同じ棚に並んだということだ。可処分時間の奪い合いに参戦した、一プレイヤー。しかも分が悪い。ショート動画に勝てるわけがない。

書店が消える。部数が落ちる。目的が娯楽に移る。この3つは別々の事件ではない。ひとつの地殻変動の、別々の断面である。

この地殻変動のただ中で、それでも本を深く読む人と、読まない人がいる。その差は、これから開く。加速度的に開く。

私はそっち側にいたい。というか、あなたにもいてほしい。

……押しつけがましいな。まあ、いいか。本屋の前で待ち合わせをした世代の、これは意地のようなものである。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

AI時代の 読む技術大全』(渡邊康弘著)朝日新聞出版

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  39点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  19点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  20点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【78点/100点】
■ 評価ランク ★★★ 標準的な良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
内容の質:書かれている中身そのものへの評価は高い。内容点で20点を配したのはこの一点による。400ページという分量に相応の蓄積が詰め込まれている。1800円という価格に対して、盛り込まれた情報の総量は明らかに水準を超えている。

テーマ設定:また、扱う主題の選択と着眼には一定程度の妥当性がある。基礎点のテーマ項目は満点近くを想定した。

【課題・改善点】
分量設計:400ページという構成が、読者の負担になっている。同じ主張を200ページで届けられるなら、400ページである必然性を本書は示せていない。構成技術で減点した。すなわち、削るべき部分が残ったまま刊行されたという判断であり、編集段階での凝縮が足りない。

読者への配慮:私は、昨今の分厚い書籍の傾向に対し、「読者にとってありがたいのだろうか」と疑問を呈した。書き手の充実感と読者の可読性が一致しておらず、訴求力の項目で得点を伸ばせなかった。

■ 総評
素材の質と情報量において、本書は水準を超えている。テーマの選び方も時宜を得ており、著者の蓄積が随所に表れている。ただし400ページという分量は、その美点が読者に届く前に立ちはだかる。1800円に対する情報量は十分だが、読者が支払うのは金銭だけではない。時間と集中力である。

編集段階で骨格を絞り、200ページ前後に凝縮していれば、同じ主張がはるかに鋭く届いたはずだ。惜しい。内容ではなく設計で点を落とした一冊である。大全といえども、270ページ以内に収めることが望ましいと考えている。

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