
ここ数年、雨の降り方が完全におかしい。と、思いません? 昨日、今日もそうなんですが・・・
傘なんか役に立たない。5分で靴の中まで水が入る。道路が普通に川になる。それでいて30分後には何事もなかったように晴れている。あれはもう梅雨とか夕立とかじゃなくて、東南アジアの雨期のスコールでしょ。バリやバンコクで経験したやつと同じ。
……と、わたしはずっと思っていたわけです。
ただ、体感というのはまったく当てにならない。子どもの頃の記憶は勝手に美化されるし、そもそもスマホで豪雨の動画が流れてくる回数が増えただけかもしれない。「昔はこんなことなかった」は年寄りの常套句で、だいたい間違っている。
というわけで、気象庁と気象研究所と国土交通省の一次資料を片っ端から開いて、実際どうなのか数字で確認してみました。全部、原典に当たっています。まとめサイトの孫引きはゼロ。
結論から言うと、体感は正しかった。ただし正しかった理由が、わたしが思っていたのとは全然違った。
1. 東京の年間降水量は1,598.2mm。バンコクは1,716.5mm。ほぼ同じ。鹿児島(2,434.7mm)と那覇(2,161.0mm)に至ってはバンコクより多い。つまり量の話なら、日本はとっくに東南アジアです。
2. 増えているのは総量じゃない。年降水量は過去約130年間、変化傾向が確認できない。それどころか雨の降らない日は100年あたり9.2日増えている。増えているのは「濃さ」だけ。
3. 強い雨ほど増加率がデカい。3時間で100mm以上の豪雨は45年で1.90倍。でも200mm以上は3.62倍。閾値を上げるほど倍率が跳ね上がる。
4. 「線状降水帯」という言葉は2007年生まれ。報道で使われ出したのは2014年の広島土砂災害から。言葉が新しいだけで、現象は昔からある。ただし頻度は本当に増えている。
5. このまま4℃上がると、1時間50mm以上の豪雨は約3.0倍。工業化以前に「100年に一回」だった大雨が「100年に約5.3回」、単純計算で19年に一回になる。
6. 国交省はもう「洪水の頻度が2倍になる世界」を標準前提にして治水計画を組み直し済み。あなたが知らないだけで、行政はとっくに前提を変えている。
7. ただし正直に書くと、気象庁自身は「線状降水帯が増える研究もあるが知見はまだ十分でない」と留保している。しかも8月だけは増えていない。この記事はそこも隠さない。
「東南アジアの雨期みたい」を検証するなら、まず量を比べるのが早い。気象庁の平年値で並べます。
| 地点 | 年降水量の平年値 |
|---|---|
| クアラルンプール(マレーシア) | 2,745.3 mm |
| 鹿児島 | 2,434.7 mm |
| 那覇 | 2,161.0 mm |
| バンコク(タイ) | 1,716.5 mm |
| 東京 | 1,598.2 mm |
東京とバンコクの差、たったの約120mm。率にして7%。そして鹿児島と那覇はバンコクより雨が多い。
ここでもう「東南アジアみたいになってきた」という言い方は崩れます。もともと同じくらい降ってたんですよ。ww
わたしも正直これは意外でした。熱帯=雨がザーザー、日本=しとしと、というイメージが完全に刷り込まれていた。実際は逆で、東京はバンコクと同じ雨量を、もっとダラダラ長く分けて受け取っていただけだった。
違いは月別に見ると一発でわかります。

バンコクは12月に13.5mm、1月に24.2mm、2月に19.4mmしか降らない。かたや9月は343.6mm。最少月と最多月の差が25倍以上。これが雨期/乾期という構造です。
東京は最少月の2月でも56.5mm、最多の10月で234.8mm。差は約4倍。一年中そこそこ降る。
つまり日本に雨期・乾期はない。ということは、「東南アジアの雨期みたい」という体感が指しているのは、年間の構造ではなく、一回一回の降り方の激しさだということになります。バケツをひっくり返したような、視界が白くなる、排水が追いつかない、あの降り方。
で、そっちは本当に増えている。ここからが本題です。
気象庁の『日本の気候変動2025』が、アメダスの観測に基づく短時間強雨の長期変化を出しています。統計期間は1976〜2024年の49年間。
| 指標 | 1976〜1985年の平均 | 2015〜2024年の平均 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 1時間降水量50mm以上の年間発生回数 | 約226回 | 約334回 | 約1.5倍 |
| 1時間降水量80mm以上の年間発生回数 | 約14回 | 約24回 | 約1.7倍 |
1時間50mmというのは「滝のように降る」と表現されるレベル。それが1.5倍。80mm以上は「息苦しくなるような圧迫感がある、恐怖を感ずる」と気象庁が書くレベルで、こっちは1.7倍。
ここで賢いあなたはこう思うはず。「観測地点が増えたから、増えたように見えるだけでは?」
もっともです。アメダスの地点数は1976年当初の約800地点から、2024年には約1,300地点に増えている。単純に数えたら増えるに決まってる。
が、それは織り込み済みでした。上の数字は全部1,300地点あたりに換算したうえでの比較です。気象庁もそこはアホじゃない。地点数の増加は補正されています。
決定的な研究があります。気象庁気象研究所の加藤輝之氏の分析(日本気象学会誌『天気』69巻5号、2022年)。
アメダスの3時間積算降水量で「集中豪雨事例」を定義して、1976〜2020年の45年間を追ったもの。観測地点は1979年から継続した881地点+近傍移転地点297地点=1,178地点に統一してあります。ここも補正済み。

| 3時間積算降水量の閾値 | 年平均発生数 | 10年あたりの増加 | 45年間の倍率 |
|---|---|---|---|
| 100mm以上 | 169.9事例 | +23.65 | 1.90倍 |
| 130mm以上 | 49.2事例 | +8.05 | 2.15倍 |
| 150mm以上 | 22.39事例 | +4.43 | 2.58倍 |
| 200mm以上 | 3.57事例 | +0.91 | 3.62倍 |
見てください。閾値を上げるほど倍率が上がっている。100mm以上なら1.90倍。でも200mm以上は3.62倍。
これ、めちゃくちゃ重要な指紋なんですよ。
もし「雨全体が底上げされた」だけなら、閾値によらず似たような倍率になるはず。そうなっていないということは、極端な雨だけが選択的に増えているということ。後で出てくる温暖化のメカニズムと、これがきれいに一致します。
| 月 | 年平均発生数 | 45年間の倍率 |
|---|---|---|
| 6月 | 4.62 | 3.90倍 |
| 7月 | 9.55 | 3.80倍 |
| 8月 | 9.64 | 1.47倍 |
| 9月 | 14.87 | 1.71倍 |
| 10月 | 5.97 | 2.49倍 |
| 年計 | 49.20 | 2.15倍 |
梅雨期の6月・7月がぶっちぎり。気象研究所の報道発表(令和4年5月20日)が信頼水準を明記しているのは年間(信頼水準99%以上)と7月(同95%以上)で、この2つは統計的にはっきり増えていると言える。
逆に8月は1.47倍にとどまって、増加傾向が見られない。これ、後でめちゃくちゃ効いてくるので覚えておいてください。
ここまで読むと「日本の雨がどんどん増えてる」と思うでしょ。違います。『日本の気候変動2025』はこう書いている。
・年降水量:過去約130年間では変化傾向が確認できない
・無降水日数(日降水量1.0mm未満の日):100年あたり9.2日増加
降る総量は変わっていない。雨の降らない日はむしろ増えている。それでいて短時間の激しい雨だけが増えている。
意味するところは一つです。同じ量の雨が、より少ない日数に、より短い時間に、凝縮されて叩きつけられるようになった。
「東南アジアの雨期みたい」という体感の正体、これですわ。総量が熱帯化したんじゃない。降り方が濃縮された。カルピスの原液を薄めずに飲まされてる状態。ウイスキーをストレートで飲んでる。
「昔はそんな言葉なかったのに、最近急に言い出した」という違和感、あれは正しい。ただし現象が新しいという意味ではない。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2007年 | 研究者向け教科書『豪雨・豪雪の気象学』で加藤輝之氏らが「線状降水帯」を定義。それ以前は「レインバンド」という言葉に含まれていた |
| 2014年8月 | 広島市の土砂災害(平成26年8月豪雨)。日本のマスコミがこの用語を使い始めた最初と見られる |
| 2021年6月17日 | 気象庁が「顕著な大雨に関する気象情報」の発表を開始 |
| 2022年6月1日 | 半日程度前からの予測情報の提供を開始 |
| 2024年5月 | 予測情報を都道府県単位に細分化 |
つまり2000年代以前は、同じ現象が「集中豪雨」「豪雨災害」として報じられていただけ。1982年の長崎大水害あたりは、今の分類なら間違いなく線状降水帯と呼ばれていたやつです。
で、大事なのはここ。第2章で見た増加傾向は、用語の普及とは完全に無関係に成立している。アメダスの1時間降水量50mm以上という指標は、線状降水帯という言葉ができるずっと前から同じ方法で観測されている。名前が付いたから増えたわけじゃない。
「マスコミが煽ってるだけ」説はここで死にます。
体感で一番不気味なのは、豪雨が同じ場所に何時間も居座ることだと思う。普通の夕立は30分で通り過ぎるのに、あれは動かない。
加藤氏のレビュー論文(『天気』70巻10号、2023年)によると、形成型は主に2つ。
「下層風の風上側に新しい対流セルが繰り返し発生し、既存のセルとともに線状に組織化」される型。
2014年の広島の事例では、23時40分頃に発生した積乱雲が北東に動き、その南西側に次々と積乱雲が発生した。約30分ごとに新しい積乱雲群が生まれ、北東に移動しながら線状に伸びていったそうです。
ここがミソで、個々の積乱雲はちゃんと移動している。移動しているのに、雨域全体は動かない。風上側で次の積乱雲が生まれ続けるから、同じ場所に永遠に雨雲が供給される。
エスカレーターを逆走してる人がその場に留まって見えるのと同じ。あれの積乱雲版です。
「暖湿流がほぼ停滞している局地前線に流入することで、対流セルが前線上で同時に発生」する型。前線という「線」に沿って積乱雲が一斉にできるので、結果として線になる。
同じ論文が、線状降水帯の発生条件を6項目に定式化しています。
| 条件 | 閾値 |
|---|---|
| 水蒸気フラックス量 | 150 g m⁻² s⁻¹ 超 |
| 自由対流高度までの距離 | 1,000 m 未満 |
| 中層相対湿度 | 60% 超 |
| ストームに相対的なヘリシティ | 100 m² s⁻² 超 |
| 平衡高度 | 3,000 m 以上 |
| 総観スケール上昇流域の存在 | — |
専門用語が並んでますが、意味は覚えなくていい。注目してほしいのは1点だけ。
6条件のうち3つ(水蒸気フラックス量、自由対流高度までの距離、中層相対湿度)が水蒸気の条件だということ。
つまり大気中の水蒸気が増えれば、6条件が同時に揃う回数が構造的に増える。これが温暖化と線状降水帯をつなぐ理屈の骨格です。ここだけ押さえてもらえれば十分。
気象研究所らの研究(Hirockawa・加藤・辻本・清野、日本気象学会英文誌JMSJ 98巻4号、2020年)が、2009〜2018年の暖候期(4〜11月)の解析雨量から大雨域の分布を出しています。
・大雨域は東日本・西日本の太平洋側に多い
・そのうち線状停滞型は、九州・南西諸島・紀伊半島・四国の太平洋側に集中
・北日本と日本海側は少ない
・地域別では西日本が最多、北日本が最少
・大雨域の80%が6〜9月に出現
加藤氏の別の研究(JMSJ 98巻3号、2020年/1989〜2015年の暖候期)では、線状降水帯が大雨事例に占める割合も出ている。
| 総観場のタイプ | 線状降水帯が占める割合 |
|---|---|
| 全体 | 約50% |
| 寒冷前線 | 約72% |
| 停滞前線(梅雨前線など) | 約68% |
| 台風本体 | 約33% |
走向は北東−南西向きが最多で約44%。南九州と日本海側は東西走向、西日本の太平洋側は北東−南西走向が多い。
気象庁の資料(「線状降水帯の予測精度向上に向けた学官連携の方策について」令和6年12月25日)によると、出水期(6〜8月)の線状降水帯事例数は、台風本体を除いて2021年8事例、2022年9事例、2023年14事例、2024年7事例。2024年は台風本体を含めると14事例(停滞前線6、台風本体7、その他1)でした。
上に挙げたのは「どこに多いか」という分布であって、「どこで増えているか」という増加率の地域差ではありません。地域別の増加率を示した一次資料は、今回どれだけ探しても見つからなかった。「九州で線状降水帯が増えている」という言い方は、梅雨期の集中豪雨が全国的に増えている+梅雨期の分布が九州に偏っている、という2つの事実を足した推論です。断定してる記事を見たら疑ってください。
ここが一番慎重に書くべきところ。「温暖化のせい」で片づけたくなるけど、一次資料はもう少し込み入ったことを言っています。
大気が抱え込める水蒸気の量は、気温が上がるほど増える。クラウジウス・クラペイロンの関係というやつで、ざっくり気温1℃あたり7%程度。
で、実際に観測されている昇温がこれ。
・日本の年平均気温は1898〜2025年で100年あたり1.44℃の割合で上昇。2025年は基準値(1991〜2020年平均)比+1.23℃で、統計開始以降3番目に高い
・日本近海の海面水温は、20世紀初めと比べて近年+1.19℃(20世紀末時点では+0.83℃)
・日本の年平均気温は20世紀初めと比べて近年(1995〜2024年)+1.3℃(20世紀末時点では+0.6℃)
気温が上がる→大気が抱えられる水蒸気が増える→前章の6条件のうち水蒸気系の3つが揃いやすくなる→強い雨ほど増える。
第2章で見た「閾値が高いほど増加率が大きい」という指紋、この筋書きとぴったり合うんですよ。
最近は「イベント・アトリビューション」という手法で、特定の豪雨に温暖化がどれくらい寄与したかを定量化できるようになっています。
平成30年7月豪雨(西日本豪雨)について、川瀬宏明氏らの研究(米国気象学会誌BAMS、2020年1月号 S15–S20頁)。非静力学地域気候モデルNHRCMを20km・5km・2kmの解像度で5メンバーのアンサンブル実験にかけた結果がこれ。
総降水量は、温暖化トレンドを除いた条件と比べて約6.7%(幅は+2.7%〜+10.7%)多かった。対象領域は東経129〜142度・北緯30〜37.5度(中部・西日本)。積算降水量の差は17.0mm。同期間の昇温トレンドは7月が最大で、39年あたり1.11K。
線状降水帯そのものを狙い撃ちにした研究もあります。渡邊俊一氏・川瀬宏明氏・今田由紀子氏・広川康隆氏(SOLA 20巻10–18頁、2024年)。5kmグリッド・100メンバーという大規模アンサンブルでのリスクベース帰属分析。
人為的な地球温暖化は、線状降水帯の発生確率を増加させる。
経路は2つ。(1) 大量の水蒸気が流入する頻度の増加、(2) 海面水温の上昇による下層大気の安定度の低下。
ただし2023年の梅雨期については、太平洋高気圧が西に張り出したことが全球の海面水温分布によって強制されており、循環場の寄与も併存する。
さて、ここが正直に書くべきところ。
気象研究所の報道発表(令和4年5月20日)は、増加の原因については断定していません。それどころか明示しているのは、増えていない月の理由のほうです。
8月には集中豪雨事例の増加傾向は見られず、要因としては気象庁55年長期再解析データ(JRA-55)の解析から、海上からの大量の下層水蒸気の流入頻度が減ったことが考えられます。
そして今後の展望として「本研究の結果を裏付ける集中豪雨が発生する大気状態の経年変化をより詳細に調査するとともに、線状降水帯や台風との関連性についても調べる予定です」と書いている。
つまり増加の原因究明はまだ途上。
気温だけが効いてるなら8月も同じように増えるはずなのに、実際は1.47倍で止まっている。水蒸気がどこから、どのくらいの頻度でやってくるかという「循環場」の要素が、月ごとに違う効き方をしている。単純な温暖化一因説では説明しきれないわけです。
ネットで「全部温暖化のせい」と断定してる記事、あれは一次資料を読んでない。逆に「温暖化なんか関係ない」と言い切ってるやつも読んでない。どっちも雑。
さっき書いたとおり、アメダスの地点数増加は補正済み。加藤氏の研究は1,178地点に統一、気象庁の統計は1,300地点あたりに換算。
ただし、気象レーダーの解像度向上や解析雨量の精度向上まで補正しきれているわけではない。「昔なら見逃していた局地的な豪雨を、今は捕捉できている」効果はゼロではない。倍率をそのまま鵜呑みにしない理由として、頭の隅に置いておくのが誠実だと思います。
ここが本題かもしれない。将来予測です。
『日本の気候変動2025』が、CMIP5・CMIP6モデルとd4PDF(地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース)を使って、20世紀末(1980〜1999年平均)と21世紀末(2076〜2095年平均)を比較しています。
| 指標 | 2℃上昇シナリオ (RCP2.6/SSP1-2.6) |
4℃上昇シナリオ (RCP8.5/SSP5-8.5) |
|---|---|---|
| 1時間降水量50mm以上の発生回数 | 約1.8倍 | 約3.0倍 |
| 3時間降水量100mm以上の発生回数 | 約1.8倍 | 約3.0倍 |
| 日降水量100mm以上の日数 | 約1.2倍 | 約1.4倍 |
| 年最大日降水量 | 約12%増加 | 約27%増加 |
| 無降水日数(1.0mm未満) | 明確な変化傾向なし | 約9.1日増加 |
| 年降水量 | 確かな変化傾向なし | 確かな変化傾向なし |
また同じ構造が出てきました。年降水量は変わらない。無降水日数はむしろ増える。それでいて短時間強雨は3倍。
つまり将来の日本は「雨が多い国」になるんじゃない。降らない日が増えて、降るときだけ極端に降る国になる。
これ、東南アジアの雨期・乾期よりタチが悪いです。あっちは季節でリズムが決まってるから対策できる。こっちは不規則に来る。渇水と洪水が同じ年に来るということでもある。ダムの運用担当者は胃が痛いでしょうね。
もっと直感的な指標があります。同報告書の記述を引用します。
工業化以前の気候では100年に一回の発生頻度だった極端な大雨は、地球温暖化の進行に伴い、20世紀末(1981〜2010年)には全国平均で100年に約1.5回の発生頻度まで増加したと考えられる。
今後地球温暖化が更に進行した場合、世界平均地表気温が工業化以前と比べて1.5℃上昇時には約2.3回、2℃上昇時には約2.8回、4℃上昇時には約5.3回(いずれも全国平均)まで発生頻度が増加すると予測される。

| 気候の状態 | 100年あたりの発生回数 | 単純計算での間隔 |
|---|---|---|
| 工業化以前 | 1.0回 | 100年に1回 |
| 20世紀末(1981〜2010年) | 約1.5回 | 約67年に1回 |
| 1.5℃上昇時 | 約2.3回 | 約43年に1回 |
| 2℃上昇時 | 約2.8回 | 約36年に1回 |
| 4℃上昇時 | 約5.3回 | 約19年に1回 |
さらに強度も上がる。100年に一回の大雨が降ったときの日降水量は、工業化以前と比べて20世紀末には全国平均で約6%増加した。将来は1.5℃上昇時に約13%、2℃上昇時に約17%、4℃上昇時に約32%増加すると予測されています。
回数が5倍になって、一発あたりの雨量も3割増し。これが4℃上昇時の姿。
予測の話は抽象的になりがちですが、行政はとっくに具体的に動いています。国土交通省の「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」の提言(令和元年10月、令和3年4月改訂)が、治水計画の前提そのものを書き換えました。
| 項目 | 2℃上昇時 | 4℃上昇時 |
|---|---|---|
| 降雨量の変化倍率 | 1.1倍 (北海道は1.15倍) |
1.2〜1.3倍 (北海道・九州北西部は1.4〜1.5倍) |
| 流量の変化倍率 (年超過確率1/100の洪水) |
約1.2倍 | 約1.4倍 |
| 洪水の発生頻度 | 約2倍 | 約4倍 |
提言は「治水計画に反映させる外力の基準とするシナリオは、2℃上昇時における平均的な外力の値を基本とするべき」と明記しています。
わかりますか。日本の治水計画は、すでに「洪水の頻度が2倍になる世界」を標準前提として設計され直している。あなたが「最近雨がヤバいな」とぼんやり思っている間に、国は前提を丸ごと入れ替えていた。
北海道と九州北西部の倍率が全国平均を上回る理由は、提言によれば「周辺の海面水温の上昇量が他の地域と比較して大きい」から。海が温まる場所に雨が集中する。シンプルな話です。
ここは正確に書いておきます。『日本の気候変動2025』の記述。
地球温暖化の進行に伴い、線状降水帯の発生頻度及び強度がともに増加すると指摘する研究もある。ただし、知見はまだ十分ではなく、更なる研究が必要である。
短時間強雨や極端な大雨については明確な予測数値が出ている一方で、「線状降水帯」という現象単位での将来予測は、気象庁がまだ確定的な数字を出す段階にない。
ネットで「線状降水帯が◯倍になる」と断定してる記事、あれは気象庁の公式見解を超えています。信じるかどうかはご自由に。
最後に実害の話。国土交通省の「水害統計調査」(昭和36年=1961年に統計開始)から。

| 年 | 全国の水害被害額 |
|---|---|
| 平成26年(2014) | 約2,900億円 |
| 平成27年(2015) | 約3,900億円 |
| 平成28年(2016) | 約4,700億円 |
| 平成29年(2017) | 約5,400億円 |
| 平成30年(2018) | 約1兆4,100億円 |
| 令和元年(2019) | 約2兆1,800億円 |
| 令和2年(2020) | 約6,600億円 |
| 令和3年(2021) | 約3,600億円 |
| 令和4年(2022) | 約6,100億円 |
| 令和5年(2023) | 約6,800億円 |
| 令和6年(2024) | 約7,700億円(暫定値) |
令和元年(2019年)の約2兆1,800億円が統計開始以来の最大。それ以前の最大は平成16年(2004年)の約2兆200億円。平成26年〜令和5年の10年平均は約9,340億円です。
令和6年は約7,700億円で過去10カ年3番目。うち石川県が約4,660億円、山形県が約820億円で、両県とも統計開始以来最大。主因は令和6年9月の大雨(約4,590億円)と7月の梅雨前線豪雨(約1,070億円)。
被害額は気象の激しさだけで決まりません。その地域にどれだけ資産が集積しているか、堤防などのインフラがどこまで整備されているかに強く依存する。だから単年の増減を気象の変化と直結させるのは危険です。5年平均・10年平均で見るのが妥当。
逆に言うと、インフラ整備がこれだけ進んでいるのに10年平均が9,000億円台に乗っているという事実のほうが重い。整備が追いついていないという話ですから。
1. 東京の年降水量(1,598.2mm)はバンコク(1,716.5mm)とほぼ同じ。鹿児島と那覇はバンコクより多い。量の面では日本はもともと東南アジア並み
2. 雨期っぽさの正体は総量ではなく凝縮度。年降水量は130年間ほぼ横ばい、無降水日数は100年で9.2日増。それでいて1時間50mm以上は1.5倍、80mm以上は1.7倍
3. 強い雨ほど増加率が大きい。3時間100mm以上は1.90倍、200mm以上は3.62倍。温暖化による水蒸気増加のメカニズムと整合する指紋
4. 「線状降水帯」は2007年に定義された新しい言葉。でも増加は言葉の普及とは独立に観測されている
5. 発生条件6つのうち3つが水蒸気の条件。だから気温上昇が直接効く
6. 平成30年7月豪雨の総降水量に温暖化が約6.7%寄与。線状降水帯の発生確率も温暖化で増えると分析されている
7. ただし8月は増えていない。下層水蒸気の流入頻度が減ったため。単純な温暖化一因説では説明しきれず、原因究明は途上
8. 4℃上昇時、短時間強雨は約3.0倍。工業化以前の「100年に一回」が「100年に約5.3回」、単純計算で約19年に1回。強度も約32%増
9. 国はすでに2℃上昇を前提に治水計画を組み替え済み。その前提で洪水の発生頻度は約2倍
「東南アジアの雨期みたい」という体感を追いかけたら、日本の雨はもともと熱帯並みに多かったという意外な事実と、その降り方だけが猛烈に凝縮しているという事実に行き着きました。
そして将来予測が示すのは、東南アジアより厄介なパターンです。乾いた日が増えて、降るときは今の3倍の頻度で叩きつける。予測可能なリズムじゃなく、不規則な暴力。
個人でできることは限られてるけど、少なくとも「顕著な大雨に関する気象情報」の半日前予測は2022年から使えるし、自治体のハザードマップも更新されている。
「今までここは大丈夫だった」という経験則の有効期限が切れつつある。これがこの記事の実務的な結論です。10年前の感覚で「うちは大丈夫」と思ってる人、その根拠のデータはもう古いです。
豪雨の資料を読み漁っていたせいで、うちの玄関に置きっぱなしだった折りたたみ傘が完全に無意味だと悟りました。1時間50mmって傘の許容範囲を超えてるんですよ。で、車の後ろの格納するところにパッカブルの長靴入れてます。雪の時も役に立ちました。折りたたみできる長靴。こういうのです。くるくる丸めてしまえます。
あと、線状降水帯の解説を読むのが面白くなってしまって、気象予報士の参考書を買いそうになっている。買ってません。まだ。

気象庁HPより
本記事に掲載した数値・固有名詞・日付・引用は、以下の一次資料を1件ずつ開いて確認したものです。まとめサイト・二次情報からの引用はありません。
- 気象庁「日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」第2章・第5章
気象庁|日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—
- 気象庁「日本の年平均気温」
気象庁 | 日本の年平均気温日本の年平均気温
- 気象庁「過去の気象データ検索(平年値)」東京・鹿児島・那覇
気象庁|過去の気象データ検索過去の気象データ検索
- 気象庁「主な地点の平年値(世界の天候データツール)」バンコク・クアラルンプール
気象庁|主な地点の平年値気象庁が提供するページです
- 気象研究所 報道発表「集中豪雨の発生頻度がこの45年間で増加している〜特に梅雨期で増加傾向が顕著〜」令和4年5月20日
https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R04/040520/press_release040520.pdf - 加藤輝之(2022)「アメダス3時間積算降水量でみた集中豪雨事例発生頻度の過去45年間の経年変化」『天気』69巻5号
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2022/2022_05_0003.pdf - 加藤輝之(2023)「線状降水帯のレビューと今後の課題」『天気』70巻10号
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2023/2023_10_0006.pdf - Kato, T. (2020) JMSJ 98(3), 485–509
Quasi-stationary Band-Shaped Precipitation Systems, Named “Senjo-Kousuitai”, Causing Localized Heavy Rainfall in JapanAccess full-text academic articles: J-STAGE is an online platform for Japanese academic journals.
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The Impact of Anthropogenic Global Warming and Oceanic Forcing on the Frequency of Quasi-Stationary Band-Shaped Precipitation Systems, “Senjo-Kousuitai”, during the Rainy Season of 2023 – SOLA“Senjo-kousuitai” is a quasi-stationary band-shaped precipitation system (QSBPSs). Its frequency of occurrence over Japa… - 気象庁「線状降水帯の予測精度向上に向けた学官連携の方策について」令和6年12月25日
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kondankai/senjoukousuitai_WG/part9/part9-material2.pdf - 国土交通省 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言」令和元年10月(令和3年4月改訂)
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/pdf/r0304/01_teigen.pdf - 国土交通省 報道発表「令和元年東日本台風の発生した令和元年の水害被害額が統計開始以来最大に」令和2年8月21日
報道発表資料:令和元年東日本台風の発生した令和元年の水害被害額が統計開始以来最大に~令和元年の水害被害額(暫定値)を公表~ – 国土交通省国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。
- 国土交通省 報道発表「石川県・山形県で統計開始以来最大の水害被害〜令和6年の水害被害額(暫定値)を公表〜」令和7年12月15日
国土交通省|報道資料|石川県・山形県で統計開始以来最大の水害被害~令和6年の水害被害額(暫定値)を公表~国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。
- 国土交通省「令和5年の水害被害額(暫定値)」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001766898.pdf
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年9月7日の記事より転載させていただきました。









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