日本はライドシェアは諦めて自動運転に行くべきだが、なんでこんなに進まないのか

先に結論
  • 2026年9月3日、テキサス州オースティンでハンドルもペダルもバックミラーもない2人乗りの車「サイバーキャブ」が客を乗せて走り出した。そして同じ日、アメリカ運輸省の道路交通安全局(NHTSA)が調査を開始した。テスラは特例免除を取らず、「うちの車は基準に適合している」と自己申告して走らせている
  • まず、よくある誤解を潰しておきます。日本の自動運転に、タクシー業界は反対していません。タクシー労組の産別は「導入を阻止する闘争には勝算が薄い」と方針転換し、全国ハイヤー・タクシー連合会の会長は「有効な手段となるものと期待される」と公式サイトに書いている。
  • 彼らが潰したのはライドシェアのほうです。そしてそれはもう終わっています。残った「日本版」は国が割り当てた14,120台の枠に対し実際に動いたのは2,413台(稼働率17.1%)。京都は6%。新法は2024年6月に「期限を設けない」と言われ、2026年の答申から項目ごと消えました。
  • だから、ライドシェアを待つのはもうやめて、飛び越えて自動運転に行くしかない。ところが、そっちも進んでいない。日本のレベル4は3年で10地域、2026年1月の最新の目玉事例が走行距離700m・時速40km・「運転席には乗務員が乗車します」
  • 理由を4つの仮説で潰しました。技術力ではない(ホンダは世界初のレベル3型式指定を取っている)。金がないわけでもない(トヨタの年間研究開発費1兆5,228億円はWaymoの累計調達額に匹敵)。EVの遅れも原因ではない(EV世界一のノルウェーは0都市、EVシェア10%の米国が14都市)。
  • 効いているのは①レベル4の許可の単位が「経路(線)×都道府県」 ②走行データが3桁違う ③無人サービスを運営する主体が誰もいないの3つ。ちなみに「日本は規制でテストすらできない」も誤りで、レベル2の公道実証は道路使用許可すら要りません。それから先に進めないだけ。
  • そして日本には、自動運転が国内で何km走ったかの統計が存在しません。許可が何件出ているかの統計もない。2030年度に1万台という目標だけはあります。

こんにちは。永江です。

この記事を書こうと思ったきっかけはこれです。Business Insider Japanの記事(2026年9月7日、Lloyd Lee)。「テスラ、ハンドルのないロボタクシー車両『サイバーキャブ』をオースティンで運行開始」

で、これを読んで「日本は何やってんだ」と思ったので、日本の自動運転が進まない理由を、規制・技術力・資金・EVの4方向から全部潰しました。途中でわたしの見立てが3か所ひっくり返っています。それも含めて全部書きます。

① オースティンで何が起きたのか

まず事実関係を整理します。BIの記事だけだと片手落ちになる部分があるので、アメリカ政府の一次資料まで当たりました。

日付 何が起きたか
2026年9月3日 テキサス州オースティンのダウンタウンで招待制イベント。AI担当副社長アショック・エルスワミが「今日から一般の皆様全員に全面開放されました」と発言(マスクは不在)
2026年9月3日 同じ日、NHTSA(米運輸省道路交通安全局)が監査調査 AQ26002 を開始
2026年9月4日 17時(現地) 一般向けの有料乗車を開始
2026年9月4日 NHTSAが調査開始をプレスリリースで公表
出典:Business Insider Japan(2026年9月7日)/Reuters(2026年9月3〜4日)/NHTSA「NHTSA Opens Investigation into Tesla Cybercab Self-Certification Following Austin Deployment」(2026年9月4日)およびODI文書 INOA-AQ26002。

サイバーキャブの中身はこうです。2ドア、2人乗り、ハンドルなし、ペダルなし、バックミラーなし。ドアはバタフライドア。マスクは価格を「3万ドル未満」と言っています。

テキサス州の車両登録データによると、テスラは州内に自動運転車420台を登録していて、そのうちサイバーキャブは45台。同じ州でWaymoは988台登録しています(ロイターが州の登録データを参照したもの)。

運行開始と同じ日に、アメリカ政府が調査を始めた

NHTSAの調査開始文書(AQ26002)にはこう書いてあります。テスラは2026年9月3日にオースティンで商用展開を開始し、「適用されるすべてのFMVSS(連邦自動車安全基準)に適合している」とNHTSAに通知した。車両にはブレーキペダル、アクセルペダル、ハンドル、ミラーといった従来の手動操作装置がない。

the extent to which Tesla’s certification depended on determinations that certain FMVSS are inapplicable to the Cybercab
(テスラの認証が、一部の連邦基準はサイバーキャブには適用されないという判断にどの程度依拠していたか)
NHTSA ODI 調査開始文書 AQ26002(2026年9月3日開始)https://static.nhtsa.gov/odi/inv/2026/INOA-AQ26002-17078.pdf

平たく言うと、「ハンドルがない車にハンドルの基準は関係ない、と自分で決めて出したんじゃないのか」と疑われている。

NHTSAのプレスリリースはこう書いています。「この1年で当局は8件の規則制定に着手した。ブレーキペダル、ワイパー、灯火、バックミラーに関する基準などである。……ただしその作業が完了するまでは、現行の基準が有効である」。

つまりアメリカも、ハンドルのない車を想定した基準がまだできていない。いま書き換えている最中で、それが終わるまでは古い基準が生きている。そこにテスラが「うちは適合している」と言って突っ込んだ、というのが正確な絵柄です。

安全監視員は乗っているのか(ここは断定できません)

サイバーキャブは2人乗りでハンドルもペダルもないので、テスラがModel Yのロボタクシーでやっていた「助手席に社員が座って緊急停止ボタンを押す」方式は構造的に成立しません。

ロイターは「ネットワークにはModel Yもあり、その一部には安全監視員が同乗している」と書いていて、サイバーキャブについては監視員に触れていない。AutoGuideは「残りの車両(=Model Y)には監視員が同乗している」とより明確に書き分けています。

ただしテスラ自身が「サイバーキャブは無人だ」と公式に明言した文書は見つかりませんでした。車内に緊急停止ボタンがあって、押すと遠隔の「Robotaxi Support」につながることは報じられています。

正確に言うなら「車内に監視員はいないと報じられているが、遠隔の監視・サポート要員はいる」。完全な無人運行と断定するのは、いまの時点では早いです。

その前に:Waymoって何?

この記事に何度も出てくるので説明しておきます。

Waymo(ウェイモ)は、Googleが2009年に始めた自動運転プロジェクトが、2016年にAlphabet(Googleの親会社)傘下の独立企業として分社したものです。2018年に配車サービス「Waymo One」を商用開始し、2020年10月8日、アリゾナ州フェニックスで「運転席に誰もいない」一般客向けサービスを世界で初めて実現しました。

2026年9月時点で米国14都市週50万回以上の有料乗車週400万マイル以上を走っています。スマホで呼ぶと運転席が空っぽの車が来て、乗って、降りる。それだけ。

もう1社、記事に出てくる百度(バイドゥ)の「Apollo Go」は中国版のこれで、2026年第2四半期時点で28都市、四半期あたり320万回の完全無人乗車をやっています。

そしてZoox(ズークス)はAmazon傘下で、ハンドルもペダルもない専用設計車を作っている会社です。

② まず誤解を潰す。自動運転に反対しているのはタクシー業界じゃない

日本でこの手の話をすると、まず出てくるのが「どうせタクシー業界が反対するんだろ」という反応です。わたしもそう思って調べました。外れていました。

労組は「勝てない」と正面から認めて方針転換している

タクシーの労働組合は、全自交労連(連合加盟)、交通労連ハイタク部会、私鉄総連ハイタク協議会の3つ。この3つが「ハイタクフォーラム」という常設の連合体を組んでいます。系列の違う3つの産別が職種を単位に横断で組んでいる。企業別組合ではこの形は取れません。本気の組織です。

その全自交労連が、2025年9月の第83回定期大会で自動運転についてこう述べています。

導入を阻止する闘争には勝算が薄い

今のハイタク労働者の雇用と賃金を守り、自動運転との間で公正な競争に成り立たせることが一番の大目標

全自交労連ニュース 第1264号(2025年9月25日)

大会で提案された目標は三層構造で、短期=雇用と賃金を維持して有人・無人で公正な競争、中期=若い世代が不安なく働ける環境、長期=「公正な移行(Just Transition)」の実現。国際運輸労連(ITF)加盟の産別らしい言い方です。

機関紙の見出しの動詞を並べると、差がはっきりします。

対象 全自交労連の機関紙に出てくる言葉
ライドシェア 「絶対阻止」「完全解禁阻止」「根絶」
自動運転 「対策を」「備える」「負けない」「現在地」
出典:全自交労連ニュース 第1249号(2024年6月21日)、第1262号(2025年7月25日)、第1264号(2025年9月25日)、第1270号(2026年3月20日)、第1274号(2026年7月20日)、第1275号(2026年8月20日)の各見出し。2026年7月には国土交通省の物流・自動車局次長を大会に招いて自動運転の講演をさせている。

ライドシェア推進派を「新たな利権を獲得しようとする国賊」wwとまで言った同じ組織が、自動運転については国交省の局次長を呼んで講演させている。敵対ではなく協議の関係です。正直、経営者より冷静だと思いました。それとも諦めているのか

会社も歓迎している。しかも同じ人が、同じページで書き分けている

全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長の公式メッセージがこれです。

論点 会長の表現
ライドシェア 「事業主体が運行及び車両整備管理等について、民事・刑事上の法的な最終責任を負わない点が最大の問題」/「ライドシェア新法の制定に断固として反対してまいります」
自動運転タクシー 「生産年齢人口の減少を踏まえると、自動運転タクシーはタクシー供給力の確保のための有効な手段となるものと期待される
出典:全国ハイヤー・タクシー連合会「ごあいさつ」会長 川鍋一朗(公開2025年7月8日/最終更新2026年3月2日)。

しかも川鍋氏は日本交通の取締役でありGOの代表取締役会長でもあって、2025年4月のWaymoとの提携リリースではこう言っています。

これは絶対に日本のためになる。日本の未来、少子高齢化、労働者不足の日本の移動の足の確保のためになる
日本交通 ニュースリリース(2025年4月14日)川鍋一朗
反対の軸は「安全」でも「雇用」でもなかった

一見矛盾しているように見えますが、会長本人が公式文書で理由を書いています。ライドシェア反対の理由は「事業主体が民事・刑事上の法的な最終責任を負わない点が最大の問題」。

逆に言えば責任主体がタクシー事業者に残るなら歓迎ということ。自動運転タクシーはまさにそれです。2025年4月30日に国交省の検討会が「運行供用者責任は旅客自動車運送事業者に帰属する」と整理し、全タク連はその検討会にオブザーバーとして参加していますが、異議を唱えた記録は見つかりませんでした

業界が守っているのは「安全」でも「雇用」でもなく、事業免許=責任主体の独占です。そう考えれば、ライドシェアには断固反対で自動運転には賛成、という態度は完全に一貫している。

つまり、自動運転については労使とも青信号なんですよ。にもかかわらず日本のレベル4は700mしか走っていない。ということは、詰まっているのは業界の反対ではなく別のところにある。ここが今回の出発点になります。

③ ライドシェアはもう終わっている。だから飛び越えるしかない

彼らが本気で潰したのはライドシェアのほうでした。そしてその結果を見ると、もうこの路線には戻れないということがわかります。

理由1:使われていない
日本版ライドシェアの地域別・割り当て台数と稼働台数。12地域計14,120台の枠に対し稼働2,413台。

稼働率17.1%。京都は140台の枠に8台で6%、広島は2,130台の枠に174台で8%。しかも神奈川ではマッチング不良率53%、愛知では62%。呼んでも半分以上つかまりません。

ちなみにこのデータは内閣府の規制改革推進会議に出された資料のものです。国交省による営業区域ごとの週次の実施状況の公表は、2024年8月18日分を最後に確認できませんでした。出さなければ失敗したことにならないと思っているんでしょうか。

理由2:制度設計の時点で詰んでいた

日本版ライドシェアの根拠条文は、道路運送法78条3号です。

自家用自動車は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない。
一 災害のため緊急を要するとき。
二 (自家用有償旅客運送)
三 公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。
道路運送法(昭和26年法律第183号)第78条

「災害のため緊急を要するとき」の隣に置かれた例外条項です。しかも条文に「地域又は期間を限定して」と書いてある。

だから「金曜土曜の16時〜翌5時台だけ、タクシー車両数の5%まで」という制限は、この条文を使った以上どうやっても避けられなかった。運用の下手さではなく、新法を作らずに既存の例外条項でやろうとした時点で決まっていたんです。政治家が規制緩和する気がなかったわけね。

理由3:その新法が、消えた

2023年12月20日のデジタル行財政改革・中間とりまとめには、こう書いてありました。「タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を位置付ける法律制度について、2024年6月に向けて議論を進めていく」。

それが2024年6月6日の国土交通大臣提出資料ではこうなります。

現時点では、法制度の議論やモニタリングの実施に特定の期限は設けない。
第6回デジタル行財政改革会議 資料2 国土交通大臣提出資料(2024年6月6日)

「6月に向けて」が「期限は設けない」に化けた。2つの政府文書を並べるだけで立証できます。

そして2026年6月29日の規制改革推進会議の答申。「全国における移動の足不足の解消」の項目に載っているのは①ライドシェア(自家用車活用事業等)の推進 ②自家用車の中間点検の明確化 ③自家用有償旅客運送のローカルルール見直し ④自動運転【再掲】の4つだけ。「タクシー事業者以外」「新法」に相当する項目は、消えています。

ついでに書いておくと、タクシーには「タクシー特措法」という法律があって、特定地域では新規参入・増車が禁止、協議会が作る減車計画は独占禁止法の適用除外になります。カルテルを合法化して減車させる制度ですよ。関東運輸局のサイトでは2026年8月31日更新時点でもこの枠組みが現役で掲示されています。

だから、飛び越えるしかない

ライドシェアは、①使われておらず ②条文の選択で最初から詰んでおり ③新法は期限を外され、答申から項目ごと消えた。労使が揃って全力で潰しにきたものを、もう一度立ち上げるコストは現実的ではありません。

そして幸い、その同じ労使が、自動運転には反対していない。労組は「阻止する闘争には勝算が薄い」、会社は「有効な手段となるものと期待される」。

だったらライドシェアを待つのはやめて、一段飛ばして自動運転に行くしかない。これが日本にとって唯一まともに残っている道です。

ところが、そっちも進んでいないんですよ。

④ で、その自動運転はどうなっているのか

日本のレベル4(特定自動運行)の制度が始まったのは2023年4月。2026年3月時点で許可を取っているのは10地域です。北海道上士幌町、宮城県気仙沼市、茨城県日立市、千葉県柏市、東京都大田区(羽田)、長野県塩尻市、福井県永平寺町、三重県多気町、大阪・関西万博会場、愛媛県松山市。3か月前の経産省資料では8箇所だったので、3年で8→10です。

国内初のレベル4は福井県永平寺町(2023年3月30日認可)。ヤマハ製の電動カートを産総研が改造したもので、道路に敷設した電磁誘導線の上を時速12kmで走る、約2kmの区間でした。

日本の最新事例:走行距離700m、時速40km、運転席には乗務員

経済産業省の報道発表「一般道における中型バスでのレベル4自動運転による運行を開始します」(2026年1月13日)より。

・場所:千葉県柏市、柏の葉キャンパス駅〜東京大学柏キャンパスの一部
・事業者:東武バスセントラル(車両改造は先進モビリティ)
走行距離:700m
最高速度:40km/h
「運転席には乗務員が乗車します」

制度開始から3年近く経った日本の最新のマイルストーンが、これです。

比較すると、Waymoは14都市で週400万マイル、百度は28都市で四半期320万回。テスラはハンドルのない車を45台走らせている。日本は700m。アホかよ

⑤ なぜ進まないのか。4つの仮説を全部潰した

「規制が厳しいから」「技術力がないから」「金がないから」「EVが遅れているから」——よく聞く4つを、ひとつずつ一次資料に当てました。

仮説1:国交省・警察庁の規制でテストができない? → 半分は違う、半分は当たり

まず「違う」ほうから。日本ではレベル2の公道実証に、道路使用許可すら要りません。警察庁が明記しています。

(保安基準に適合し、運転者が車内で常時監視・操作可能で、関係法令を遵守するなら)場所や時間にかかわらず、道路使用許可を受けずに道路での自動運転の実証実験を行うことが可能
警察庁「自動運転の公道実証実験について」

2016年5月の警察庁ガイドラインにも速度その他の数値制限はありません。カリフォルニア州は州の許可制(有人テスト許可を持つのが28社)なので、実証実験の入口は日本のほうが軽いんです。ここは意外でした。

そして「ハンドルのない車は日本では走れない」も、正確ではありませんでした。国交省 関東運輸局の資料にこう書いてあります。

保安基準を満たして運行することができない自動車について、保安基準第55条の規定に基づき、保安基準の一部を緩和する

(自動運転車の類型として)特別装置型:ハンドルやペダルのない自動運転車……基準緩和認定が必須

国土交通省 関東運輸局「保安基準の緩和認定制度を活用した(自動運転実証実験)」https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000259215.pdf

日本にも例外ルートはある。しかも実例があって、ソフトバンク系のBOLDLYが導入したNAVYA ARMA(ハンドルのない自律走行バス)は、ハンドルのない車両として日本で初めてナンバーを取得し、2020年から茨城県境町で公道の定常運行をやっています。

じつは同じ問題に、アメリカでも3社が3通りの答えを出している。ここが面白い。

とった道 結果
Waymo ハンドルを外さない Jaguar I-PACE、Hyundai IONIQ 5は市販車ベース。専用設計のZeekr RT(愛称Ojai)にもあえてハンドルを残した。デザイン責任者は「ハンドルとペダルが前にあることが、乗客が新しいものを試すハードルを越える助けになる」と説明。→ そもそも免除が要らない
Zoox 4年半かけて免除を取った 2022年6月に自己認証 → 2022年9月にNHTSAが情報要求 → 2023年3月にNHTSAが調査を開始 → 2025年8月にデモンストレーション免除 → 2026年7月30日、NHTSA史上初の商用Part 555免除(8つの基準を免除、年間最大2,500台、2年間)
テスラ 免除を取らずに走らせた 特例免除の申請記録は確認できず。自己認証で運行開始し、同日にNHTSAが調査AQ26002を開始
出典:Waymo公式ブログ/autoevolution(2026年6月2日、Waymoデザイン責任者Ryan Powellの発言)/NHTSA ODI文書 AQ23-001(開始2023年3月3日・終結2025年8月4日)およびAQ26002/米運輸省プレスリリース(2025年8月6日)/NHTSAプレスリリース(2026年7月30日)/49 U.S.C. §30113(Part 555免除の年間2,500台上限の根拠条文)。

Waymoが専用設計のロボタクシーにまでハンドルを残しているという事実は、「ハンドルを外すこと」が自動運転の技術的な必然ではないことを示しています。テスラがハンドルを外したのは技術の問題ではなく、戦略的な選択であり、規制上のリスクテイクです。

日米の違いは「例外があるか」ではなく「例外の出し方」

アメリカのPart 555免除は年間2,500台まで、2年間。日本の基準緩和認定は標準処理期間1か月。制度としてはどちらにもある。

違うのは①事業者が事前に承認を取るかどうか(Zooxは4年半かけて取り、テスラは取らずに走らせた)と、②許可の単位です。そして②が、日本にとって決定的でした。

で、ここから「当たり」のほうです。レベル4になると景色が一変します。

日本(レベル4) カリフォルニア アリゾナ 中国
許可の単位 経路(線)×都道府県 事業者×州 事業者×州 区域(面)×市
申請先 都道府県公安委員会 DMV+CPUC ADOT(自己認証) 市政府→省→国の4部門
標準処理期間 特定自動運行許可45営業日/走行環境条件の付与3か月〜1年 許可の有効期間は2年 24〜48時間で応答
手数料 79,200円(神奈川の例)。経路変更は78,500円 変更$70/追加$50 無料
現地調査 必須
エリア拡大時 経路変更なら変更許可、県を跨げば新規申請 不要 不要 市が区域を拡大
規模の実例 レベル4は10地域。最新事例が700m Waymoが州内で自由に拡大 北京500km²/武漢3,000km²
出典:警察庁「特定自動運行許可に係る申請書等の記載要領」/警視庁 審査基準/神奈川県警 手続案内/埼玉県警 事務処理要領(現地調査を必須と規定)/国交省「公道での自動運転の申請に関する手引き」/カリフォルニア州DMV・CPUC公式/アリゾナ州ADOT公式/北京市自动驾驶汽车条例/ジェトロ「武漢市の自動運転技術開発の変遷と展望」(2024年12月19日)。

日本は「線」で許可し、中国は「面」で開放している。

警察庁の記載要領には、はっきりこう書いてあります。「経路が複数の都道府県の区域にわたる場合は、それぞれの都道府県公安委員会への申請が必要」。3県をまたぐ路線なら3回申請して約24万円、それぞれ45営業日。ルートを1本変えるたびに変更許可で7万8,500円。これで「面」に広がるわけがない。テストのしようもない。

しかもレベル4の型式指定を取った車は事実上ゼロで、1車種1経路ごとの個別認可。量産の型式指定で一括承認、というスケールメリットが効きません。

国交省自身が「11か月かかっていた」と認めている

国交省の資料「自動運転の審査に必要な手続きの透明性・公平性を確保するための取り組み」(令和6年6月)に、課題としてこう書いてあります。

「審査手続が専門的」「新規参入がしにくい」「行政手続が長期化」

そして具体的な数字。「約11ヶ月かかっていた審査・行政手続」を「2ヶ月の完了を目指す」

政府自身が「手続きが障壁だった」と認めています。ただしこれを言い出したのが2024年6月で、実際に短縮されたかどうかの検証結果は見つかりませんでした。

仮説2:自動車メーカーの技術力が足りない? → これは違います

日本の名誉のために書いておきますが、技術では世界初を複数取っています。

実績 時期
ホンダ レジェンドに世界初のレベル3型式指定(国交省が付与) 2020年11月11日
日産 プロパイロット2.0で世界初の同一車線ハンズオフ+ナビ連動ルート走行 2019年
トヨタ Advanced Driveを量産車(LS500h/MIRAI)に搭載 2021年4月
トヨタ Waymoが提携相手として選ぶだけの車両プラットフォーム能力 2025年4月30日
ティアフォー オープンソースAVスタックAutoware。人身事故0件で東証グロース上場 2026年7月22日
出典:国交省報道発表(2020年11月11日)/日産ニュースリリース(2019年7月16日)/トヨタ ニュースルーム(2021年4月8日、2025年4月30日)/ティアフォー「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2026年7月)。

ただし、そのホンダのレジェンドはリース専用・限定100台・1,100万円で、2022年1月に販売終了しています。世界初のレベル3市販車は10か月で消えた。日本のレベル3量産実績は累計100台以下です。

そしてカリフォルニア州DMVの許可保有者リストを見ると事情がわかります。有人テスト許可28社にはNissanとWoven by Toyotaが入っている。ところがドライバーレス(無人)テスト許可を持つ日本企業はゼロ。商用展開の許可を持つ日本企業もゼロ

つまり「作れない」のではなく「運営していない」。

仮説3:資金がない? → 「国に金がない」のではなく「一点に賭ける主体がいない」
主体 金額 時点
Waymo 160億ドル調達、評価額1,260億ドル 2026年2月2日
Waymo(それ以前) 累計調達額100億ドル超 2025年時点(経産省資料の記載)
Tesla FSD・Dojo AIチップ等に100億ドルの投資を発表 2024年4月
GM/Cruise ロボタクシー開発への資金提供を停止。年間10億ドル超の支出削減 2024年12月10日
トヨタ 研究開発費 1兆5,228億円/設備投資 2兆3,906億円 2026年3月期
ホンダ 研究開発支出 1兆1,748億円 2026年3月期
ティアフォー 累計調達額 391億円(Waymoの単独ラウンドの約60分の1) 2026年4月
出典:Waymo公式ブログ(2026年2月2日)/経産省・国交省「モビリティDX戦略」2025年アップデート/GM IRリリース(2024年12月10日)およびGM 10-K/トヨタ2026年3月期決算資料/ホンダ2026年3月期決算説明会資料/ティアフォー「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2026年7月)。トヨタ・ホンダ・日産はいずれも自動運転単独の投資額を公表していない。

注目してほしいのは、トヨタ1社の「年間」研究開発費1兆5,228億円(約100億ドル)が、Waymoの「累計」調達額100億ドルに匹敵するということ。ホンダも年1兆1,748億円使っている。日本に金がないわけじゃないんです。

足りないのは、その金を「無人運転サービスの運営」という一点に集中投下する主体。経産省・国交省の「モビリティDX戦略」も自分でこう書いています。

海外では、レガシーのない新興プレイヤーが台頭し、スピード感を持った投資が活発化……我が国においては開発リソース(資金・人材等)が不足

日本においてはこれまでその取組が十分ではなく、ソフトウェア人材の不足が顕著

経済産業省・国土交通省「モビリティDX戦略」(2024年5月)
仮説4:日本はEVが普及していないから? → 半分当たって、半分外れ

「自動運転はEVのほうがぜんぶ電気だから制御が簡単なはずだ。日本はEVの普及が遅れているし充電スタンドも少ないから、そのせいではないか」——これも調べました。

まず「EVのほうが有利」は本当です。IEA(国際エネルギー機関)が公式にこう書いています。

all commercial robotaxi services in operation today exclusively use EVs
(現在稼働している商用ロボタクシー・サービスはすべてEVを使っている)

software control of EVs is more mature than for ICEVs and hybrids
(EVのソフトウェア制御は内燃機関車やハイブリッド車より成熟している)

IEA「Autonomous vehicles」https://www.iea.org/reports/autonomous-vehicles

IEAは理由を4つ挙げていて、①高稼働のタクシーでは運用コストが安い ②EVのソフト制御が成熟している ③都市部の排出規制に適合する ④自動運転の演算装置が食う電力(数百W〜1kW超)を、EVのバッテリーと電力系のほうが扱いやすい

日本のEVの数字はこうです。2025年度の登録乗用車247万台のうち、BEVは54,390台で2.2%。IEAの国際比較では日本は「3%未満」、中国55%、欧州28%、ノルウェーは97%。充電インフラも2025年5月末で約6.8万口で、2030年に30万口という政府目標に対して23%。中国は公共用だけで495万口あります。

……ここまでは仮説どおり。で、ここから外れます。

電動車の新車販売シェアと、運転席無人の商用ロボタクシーを運行している都市数。
決定的な3つの反証

① 世界初の無人ロボタクシーは、ガソリンエンジン車だった。
2020年10月にフェニックスで始まったWaymoの無人商用サービスの車両はChrysler Pacifica Hybrid——プラグインハイブリッド、つまりエンジン搭載車です。Waymoが全車BEV(Jaguar I-PACE)になったのは2023年。無人化という技術的な山を越えたのは、BEV化の3年前でした。

② EV世界一のノルウェーに、無人ロボタクシーは1台もない。
電動車シェア97%。そのノルウェーで走っているのは、オスロの交通事業者RuterがNIO ES8を5台、運転席にセーフティオペレーターを乗せて限定エリアで、という段階です。Ruter公式サイトに「In the beginning, there will be a security operator seated in the driver’s seat」と書いてある。一方、電動車シェア約10%の米国が14都市で週50万回

③ 経産省自身が「パワートレインは関係ない」と書いている。
「モビリティDX戦略」にこうあります。「BEVのみならず、PHEV、HEV、ICEといった全てのパワートレインのSDV化が進んでいく見込み」。SDV=ソフトウェアで制御・更新できる車、つまり自動運転の土台です。

おまけに、日産は自動運転の実験車両をリーフ(EV)からセレナ(ハイブリッド/ガソリン)に移している。EVが必須なら逆の動きをするはずです。米May Mobilityは2025年2月から、トヨタのシエナ(ハイブリッド)で運転席無人の一般サービスをジョージア州で運行しています。

EVが不利な面もあって、ロボタクシーの充電拠点(デポ)は4〜12メガワットの受電が必要。都市部でその用地を確保するのが現在の最大のボトルネックのひとつだと関係者が語っています(Axios、2026年4月29日)。充電中の車は1円も稼ぎません。

正確な言い方はこうなります

「ロボタクシー事業者はEVを選ぶ」は正しい。でも「EVが普及していない国では自動運転ができない」は間違いです。

因果の向きが逆なんですよ。EVが普及したから自動運転ができるようになったのではなく、ロボタクシーという高稼働の商用事業をやろうとすると、コストと排出規制の都合でEVを選ぶことになる。だからWaymoは、アメリカのEVシェアが10%しかなくても全車EVの船隊を持てている。日本のBEVシェアが2.2%でも、日本の事業者がEVロボタクシーを導入することを何も妨げません。

ついでに、日本は「電動化が遅れている」わけでもありません。登録乗用車の61.1%がハイブリッドで、トヨタの電動車比率は46.1%。遅れているのはBEV化であって電動化ではない。ここを混ぜると議論が不正確になります。

⑥ で、本当の答え:走った距離が3桁違う
自動運転の累計走行距離の比較(対数目盛)。Waymo・百度と日本勢では桁が違う。

Waymoが無人で走った累計が3億5,502万km(2億2,060万マイル)。百度Apollo Goが完全無人で2億4,000万km超。対して、日本のAV専業として最も走っているティアフォーの創業からの累計テスト走行が46万9,000km。東京でのロボタクシー実証は976km

Waymoは現在、週400万マイル(約644万km)走っています。ティアフォーの創業から10年分の累計走行距離を、およそ12時間で走ってしまう計算です。

自動運転のAIは、走らないと賢くなりません。走るにはサービスを運営していないといけない。サービスを運営するには許可が要る。許可は経路×都道府県。——この輪が閉じているのが日本の状態です。

そして日本人はWaymoのAIを学習させる側に回っている

2025年4月から、東京の港・新宿・渋谷・千代田・中央・品川・江東の7区で、Waymoの車両が走っています。ただし自動運転ではなく、日本交通の訓練を受けた乗務員が手動で運転してデータを取っている

つまり東京で学習ループを回しているのは日本企業ではなくWaymoで、日本交通は乗務員を提供する側に回っているということです。

ちなみにホンダとGM Cruiseは「日本で2026年初頭に自動運転タクシーを始める」と2023年10月に発表していましたが、GMが2024年12月10日にロボタクシー開発から撤退し、ホンダの2025年・2026年の事業説明資料からはこの項目が消えています(ホンダ公式の「中止」発表は見つかりませんでした)。日本のロボタクシー計画は、日本側の判断ではなくアメリカの会社の資本判断で消えたわけです。

公平のために書いておくと、「やらなかったことが正解だった可能性」も否定はできません。GMは年10億ドル超の出血に耐えられずCruiseから撤退しました。Waymoは評価額1,260億ドル。結果は割れています。ただ、日本が勝負に参加していないことだけは確かです。

最後にひとつ。日本には自動運転の累計走行距離を示す公的統計が存在しません。国交省、警察庁、経産省、RoAD to the L4——全部当たりましたが、ありませんでした。特定自動運行許可の累計件数の統計もありません。測っていないものは、良くなりません。

⑦ 工場の中では勝っている。負けているのは工場の外

「日本はロボットで中国に抜かれた」という話をよく見ますが、事実ではありません。IFR(国際ロボット連盟)の2026年4月発表のロボット密度(従業員1万人あたり)は、韓国1,220台、ドイツ449台、日本446台で世界4位、米国307台、中国166台で22位日本が中国の2.7倍です。

負けているのは工場の外。経産省自身が「産業用ロボット市場のシェア約65.9%に対し、サービスロボット市場では11.7%」「AIロボティクス開発において米中に後れを取っている」と明記しています。

従業員1人あたりの有形固定資産(資本装備率、2023年)を見ると、製造業では日本1,332万円で英国1,259万円・フランス1,247万円を上回るのに、サービス業では日本461万円 vs 米国1,871万円で約4倍差(内閣官房「日本成長戦略会議 基礎資料」2025年11月10日)。

工場の中には日本の得意な世界があって、工場の外には別の世界がある。そして工場の外に立っているのが、道路運送法・道路運送車両法・道路交通法の三法許認可です。

⑧ なぜ補助金ばかり撒いて、規制緩和はやらないのか

ここまで読んで、たぶんこう思ったはずです。「許可の単位を変えればいいだけの話が、なんで動かないんだ」と。

わたしの見立てを先に書きます。規制緩和は各方面との粘り強い交渉が必要だが、髙市さんにはその能力がない。そもそも人と話すのもだめ。でも金を撒くだけなら丸投げでできる。だからそっちしかやらないのではないか。これはわたしの意見であって事実ではありませんが、裏づけになる数字は原典で拾えたので並べます。

金のほう 金額
令和7年度補正予算(一般会計) 17兆7,028億円(国費等合計21.3兆円)
令和8年度当初予算 122兆3,092億円(前年度比+7兆1,114億円で過去最大)
日本成長戦略の投資目標 17分野で2040年度までに累計370兆円超
半導体 2030年度までに10兆円以上の公的支援枠組み
自動運転社会実装推進事業 補助率4/5、重点支援は上限4億円。37事業を採択(2026年8月21日)
出典:財務省「令和7年度補正予算の概要」「令和8年度予算のポイント」/内閣官房「日本成長戦略」(令和8年7月21日閣議決定)/国交省「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転社会実装推進事業)公募結果」。

日本のレベル4は、ほぼ全部この補助金でやっています。補助率5分の4。つまりほぼ国費。そして許可の単位は経路×都道府県のまま。金は出すが、制度は変えない。

規制改革実施計画のフォローアップ結果。閣議決定から1年たっても「検討中」が「措置済」の約2倍。

閣議決定した規制改革が1年たってどうなっているか。令和7年計画は115件中、措置済37件に対して「検討中」が69件。約2倍です。

指標 石破政権(令和7年) ★高市政権(令和8年)
規制改革実施計画の項目数 110項目 57項目
うち国家戦略特区の項目 23項目 2項目
所信表明演説の「規制改革」「規制緩和」 0回(「規制」は3回、すべて規制強化の文脈)
内閣提出法律案(2国会で計75本) 規制緩和を主目的とする単独法案は0本(全75本が成立)
出典:内閣府「規制改革実施計画」概要(令和7年6月13日/令和8年7月21日)/首相官邸 所信表明演説(2025年10月24日)の本文を実際に数えたもの/内閣法制局「第219回国会・第221回国会 内閣提出法律案」。なお法案の規制緩和/強化の分類は法案名からの判断であり、逐条での検証はしていない。

で、なぜこうなるのか。政府の公式文書が自分で答えを書いていました。

規制の多くは利害対立の構造を内包しており、これが改革の遅れる主な要因となっている

……当初意図された改革が違った形で進むケースがしばしば見られる。決定事項が「骨抜き」にならないよう……改革が逆行していないかなど、会議として、しっかりとフォローアップしていかなければならない

規制改革推進に関する答申(令和8年6月29日、規制改革推進会議)
補助金と規制緩和の、決定的な違い

補助金は、負担者がいません。閣議決定して補正予算を組んで国会を通せば終わり。実際、高市政権が処理した2国会では内閣提出法案75本が全件成立しています。受け取る側しかいないので、反対する当事者が組織されない。

規制緩和は、必ず誰かが損をします。しかもその人たちは審議会に正式な委員として座っている。交通政策審議会の自動車部会には、交運労協の議長と自工会の主査が正委員として入っています。

つまり補助金は「決めれば終わり」、規制緩和は「決めてから交渉が始まる」。この非対称は制度設計そのものに埋め込まれている。

ここからはわたしの意見です。金を撒くのは各省に丸投げできる。予算を付けて「使え」と言えばいい。でも規制緩和は、総理か官房長官が業界団体と組合と族議員のところに何度も足を運んで、「あなたは損をするが、国全体ではこうなる」と説得し続けないと動かない。小泉政権の構造改革特区が「特例→全国展開」を145件やったのは、その粘り腰があったからだと思います(認定458件、うち145件が全国展開)。対して令和8年計画の国家戦略特区枠は、たった2項目です。

所信表明で「規制緩和」を一度も言わず、規制改革実施計画の項目数を110から57に半減させ、規制緩和の単独法案を1本も出していない。一方で予算は過去最大の122兆円。この並びを見て「交渉はしないが金は撒く政権だ」と読むのは、少なくとも不自然ではないと思います。

公平のために反論も書いておきます。令和8年計画には「自動運転の規制等の円滑化」「歩行型ロボットの公道実証実験推進」も入っています。半導体やAIへの巨額の産業補助は各国がやっていることで、そこだけ日本がやめたら勝負になりません。補助金が悪だと言っているのではなく、「補助金しかやらない」のが問題だという話です。

⑨ で、どうすればいいのか
1.許可を「線」から「面」に変える

これが最優先です。レベル4の許可を経路単位・都道府県単位から、区域単位・全国単位に変える。カリフォルニアは事業者×州で有効期間2年、エリア拡大に再申請は要りません。中国は市が面で指定していて、北京500km²、武漢3,000km²。日本は経路が3県にまたがれば3回申請、ルートを変えるたびに7万8,500円。ここを直さない限り、補助金をいくら積んでもスケールしません。

2.ハンドルのない車の基準を作る

いまは保安基準第55条の基準緩和認定という「例外」で1台ずつ通している。アメリカも同じ状況ですが、NHTSAはブレーキペダル・ワイパー・灯火・バックミラーを含む8件の規則改正に着手済みで、Morrison長官は「これらが完了すれば個別車両の免除は不要になるかもしれない」と言っています。国交省の自動運転ワーキンググループも中間とりまとめ(2025年5月30日)で「世界に先駆けて」ドライバーレス車両に対応した基準にしていくと書いている。方向は決まっているので、あとはいつやるか。

3.走行距離の統計を取る

カリフォルニア州DMVは全社の年間走行マイルと解除回数を毎年公表しています。中国は百度が決算で累計km数を開示している。日本は統計そのものがない。特定自動運行許可が全国で何件出ているかも公表されていない。2030年度に1万台という目標だけがある。測っていないものは、良くなりません。

最後に

今回いちばん意外だったのは、敵がいなかったことです。

タクシーの労組は「阻止する闘争には勝算が薄い」と言って公正な移行に舵を切った。タクシー会社の団体トップは「有効な手段となるものと期待される」と公式サイトに書いている。技術力もある。ホンダは世界初のレベル3型式指定を取った会社です。金もある。トヨタ1社の年間研究開発費がWaymoの累計調達額に匹敵する。

それでも700mなんですよ。

2番目に意外だったのは、「日本は規制が厳しくてテストすらできない」というのが誤りだったことです。レベル2の公道実証には道路使用許可すら要らない。ハンドルのない車も基準緩和認定を取れば走れて、実際にNAVYA ARMAが茨城県境町で走っている。入口は開いているんです。

問題は、入口を通った先が「線」でしか広がらないことでした。1本の経路、1つの都道府県。ルートを変えるたびに7万8,500円払って45営業日待つ。これでは走行距離が貯まらない。貯まらないとAIが賢くならない。賢くならないから事業にならない。事業にならないから誰も金を賭けない。

3番目は、日本には自動運転の走行距離の統計が存在しないことでした。カリフォルニアは毎年出している。中国は企業が決算で出している。日本は国交省も警察庁も経産省も出していない。許可件数の統計もない。目標だけはある。ww

ライドシェアは終わりました。稼働率17%、新法は期限を外され、答申から項目ごと消えた。あれを蒸し返すエネルギーがあるなら、誰も反対していない自動運転のほうに全部注ぐべきです。そこは労使とも青信号で、あとは許可の単位を線から面に変えるだけ。——それが11か月かかる国だ、という話ではあるんですが。

オースティンでは、ハンドルもペダルもバックミラーもない車が、規制当局の承認を待たずに客を乗せて走り出しました。同じ日に政府が調査を始めた。それが正しいやり方かどうかは、正直わかりません。でもあの国は「走らせてから揉める」んですよ。こっちは「揉めないように走らせない」。10年後にどっちが勝っているかは、もう見えている気がします。

【今日のどうでもいい話】
ここ2週間で2キロ落としました。でも単に落とすと筋肉から落ちるから必死にタンパク質とプロテインを摂っています。いいのを見つけたのでこれをいつもポーチに入れてます。スティック状の顆粒で水がなくても飲めます。マジでオススメ

この記事の検証について
検証ステータスの申告

原典確認済み:NHTSAプレスリリースおよびODI調査文書(テスラAQ26002、ZooxのAQ23-001の開始・終結)/米運輸省プレスリリース/49 U.S.C. §30113(Part 555免除の年間2,500台上限)/Waymo公式(Safety Impact、資金調達、フェニックス無人サービス開始、Waymo in Japan)/Baidu IR/GM IRおよび10-K/カリフォルニア州DMV・CPUC公式/アリゾナ州ADOT公式/北京市自动驾驶汽车条例/ジェトロ武漢レポート/IEA「Autonomous vehicles」「Global EV Outlook 2026」/Ruter(オスロ)公式/May Mobility公式/Stellantis公式(Pacifica Hybrid納車)/警察庁「自動運転の公道実証実験について」「特定自動運行許可に係る申請書等の記載要領」/警視庁 審査基準/神奈川県警 手続案内/埼玉県警 事務処理要領/国交省 保安基準第11条・第44条、関東運輸局「保安基準の緩和認定制度を活用した実証実験」、永平寺町レベル4認可の報道発表、自動運転WG中間とりまとめ、「審査手続の透明性・公平性を確保するための取り組み」、自動運転社会実装推進事業の公募結果/経産省 柏市レベル4運行開始の報道発表、モビリティDXの推進、モビリティDX戦略/トヨタ・ホンダ・日産の決算資料およびニュースリリース/ティアフォー「事業計画及び成長可能性に関する事項」/全自交労連の交政審提出資料および機関紙/全国ハイヤー・タクシー連合会 会長メッセージ/日本交通リリース/道路運送法78条/内閣府 規制改革推進会議の答申・フォローアップ・WG資料/内閣官房 デジタル行財政改革会議・日本成長戦略/財務省 予算資料/内閣法制局 内閣提出法律案一覧/首相官邸 所信表明演説(本文を実際に数えた)/IFR/自販連 燃料別販売台数/経産省 充電インフラ整備状況/内閣府地方創生推進事務局「特区制度について」。

報道・二次情報ベース:サイバーキャブの一般向け乗車開始が9月4日17時であること、イベントの詳細、マスクの「3万ドル未満」発言(Reuters/Business Insider/TeslaNorth等)/テキサス州の登録台数420台・うちCybercab 45台(ロイターおよびAxiosが州の登録データを参照したもの。州の原記録そのものは未確認)/テスラのロボタクシー累計走行距離(決算資料の原文がrobots.txtで取得できず、第三者要約経由)/NAVYA ARMAが日本初のハンドルなし車両としてナンバーを取得したこと(ソフトバンク公式ページと業界メディア。どの条文の基準緩和認定を受けたかは未確認)/ホンダのロボタクシー計画の中止(ホンダ公式の中止発表は確認できず、事業説明資料から項目が消えたことのみ確認)/カリフォルニア州DMVの企業別走行マイル(DMVサイトは2021年分までしか公開しておらず報道による)。

確認できなかった主なものサイバーキャブに安全監視員が同乗していないことのテスラ公式による明言(報道の書き分けと動画からの推認にとどまる。記事でも断定していません)/テスラのCybercab生産台数の監査済み数値(車種別の開示なし。NHTSAの推定母集団「約1,000台」と州登録「45台」の乖離の理由も不明)/テスラの特例免除の申請記録(Federal Registerに公告なし=おそらく未申請)/特定自動運行許可の全国累計件数(警察庁に統計なし)/日本国内の自動運転の累計走行距離を示す公的統計(国交省・警察庁・経産省・RoAD to the L4を当たった範囲では存在せず)/2026年時点の日本版ライドシェアの稼働率(国交省の週次公表は2024年8月18日分が最後)/トヨタ・ホンダ・日産の自動運転単独の投資額(3社とも非開示)。


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年9月8日の記事より転載させていただきました。

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