経営不振に喘ぐフォルクスワーゲンの包括的事業再編案と「その未来」

欧州最大の自動車メーカーであり、輸出大国ドイツの顔の一つでもあったフォルクスワーゲン(VW)社が現在、最大のお得意先だった中国市場での停滞もあって経営不振に喘いでいる。事業再編に乗り出してきたVW経営陣(監視役会)は3日、長い議論の末、包括的事業再編案(「未来計画2030」)を承認した。

フォルクスワーゲンHPより

ドイツ民間放送ニュース専門局ntvが4日報じたVWの再編策の内容を紹介する。

第1は投資の抑制。2027年から2031年までの投資計画額は総額1,350億ユーロとする。これは2030年までの5年間に計画されていた額を約300億ユーロ下回る。目標は、2026年上半期時点で3.8%だった売上高利益率を、2030年までに9%へ引き上げる。同社はポートフォリオやEverllence(エバーレンス)保有株の売却を進めている。

第2は車種ラインナップの縮小。2035年までに車種数を半減。縮小対象は販売不振のモデルや内燃機関(エンジン)搭載車。さらに、部品の共通化などを通じて、製品の複雑さを75%削減する。

第3は効率性の向上。開発、生産、調達、品質保証、販売といった各部門のより緊密な連携体制を整える。よりスリムな経営体制への移行を目指す。

第4は工場と従業員の削減。人件費の削減策として、管理職を含むグループ全体で約5万人の雇用を削減する。欧州における工場の生産能力は、年間50万台分削減する。監査役会は、ネッカーズルム、ツヴィッカウ、エムデン、ハノーファーの各工場について、2031年から2034年の期間における次期生産モデルの割り当てを保証できないことを認めた。

第5は北米と中国を主要市場とする。同社は北米事業を成長の原動力と位置づける。米国チャタヌーガ工場でのピックアップトラックやSUVの生産計画などが進められる。同社は収益性の高いセグメントに注力する。現在低迷している中国事業については、市場全体の成長見通しの修正を反映させる形で調整が行われる。中国で生産されたVW車は、「グローバル・サウス」諸国への輸出に回される。

VWの監査役会は、経営執行委員会が提案したコスト削減策を全会一致で承認した。世界規模での人員体制の調整は、変革プログラムの目標を達成するために不可欠であると説明している。また、VWグループ内の4つの工場(エムデン、ツヴィッカウ、ハノーファー、ネッカーズルム)に対し、2031年から2034年にかけて予定される次期モデルの生産割り当てについて保証できないとして、「代替的な活用方法」について、検討が進められる。欧州の工場については、同社の戦略的ビジョンに沿った、持続可能かつ競争力のある生産体制の構想を2027年6月末までに策定する。監査役会は、欧州で50万台規模の生産能力過剰が生じていることを認めている。

なお、経営執行委員会および監査役会は、「『未来計画2030』((Future Plan 2030)の実行はフォルクスワーゲン・グループの競争力を維持し、将来にわたって持続的に確保するために不可欠」という認識を共有し、同計画を全会一致で承認している。

ところで、既に閉鎖が決まっていたドイツ国内のVW工場、2,000人以上の従業員を抱えているオスナブリュック工場を防衛関連機器の製造に転換することが7日明らかになり、、関係者の間で合意文書が締結された。

ドイツのメディアによると、合意文書は、ニーダーザクセン州、VW、テルアビブを拠点とする投資会社アウレリウス・キャピタル、そしてイスラエルの防衛関連企業ラファエルとの間で締結された。同工場の生産品目を自動車から防衛関連機器へと転換することが盛り込まれている。

オスナブリュック工場における初期プロジェクトの一環として、同工場ではラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズ社向けのドイツおよび欧州の防空システム用コンポーネントやシステムの製造が行われる予定だ。同社は、イスラエルのミサイル防衛システム「アイアン・ドーム」の開発元としてよく知られている。

VWはオスナブリュック工場を売却し、ニーダーザクセン州と投資会社アウレリウス・キャピタル(Aurelius Capital)が同事業を引き継ぐ。テルアビブに拠点を置く同投資会社は、「防衛、サイバーセキュリティ、人工知能(AI)、重要インフラに重点を置く革新的な技術企業」への投資を行っている。独週刊誌「シュピーゲル」によると、アウレリウス社が同工場の過半数株式を取得し、ニーダーザクセン州は少数持分を取得する見通しという。

現在の工場従業員1,800人のうち1,200人については、2029年末までの雇用が保証される。人員削減は主に、定年退職や段階的退職制度の活用を通じて実施されるという。また、従業員代表側は、「新オーナーへの移行後も、すべての労働協約、事業所協定、雇用契約、および事業所委員会の体制が従来通り維持される」という合意も取り付けたという。

ちなみに、VW工場のイスラエルの防衛産業への売却は「雇用維持」というメリットがある一方、労働者に精神的、倫理的葛藤が生じる可能性がある。VWは1937年、「国民車」の製造という願いの下、アドルフ・ヒトラーの掛け声からスタートした企業だ。VWはナチス政権下、軍需生産や強制労働に関わった。そこから戦後復興を遂げ、世界有数の自動車メーカーに成長した。その企業の一部が今度はイスラエル企業に売却され、再び防衛・軍事分野に関わることになるわけだ。そのうえ、ガザ紛争の影響も考えられる。戸惑いと懸念を感じる労働者が出てきても不思議ではない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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