
(前回:日本病の処方箋④:アメリカに国際法違反と言おうよ、日本の政治家たち)
「ノルマ未達をガン詰めする文化は消えていない」
高校時代の友人が言った言葉です。
幸運にも、ノルマに追われ、営業目標を強制された経験はあまりないですが、やはり日本のビジネスパーソンを心理的に苦しめる一つだと考えています。ノルマ=ペナルティ、罰のように機能するこの悪魔の仕組みはまさに日本病の1つです。

ノルマとは何か?
そもそもの定義を見てみると、「個人や組織に対して強制的に割り振られる最低限達成しなければならない労働量や目標数値」のこととされています。
その語源は、なんとロシア語の「norma(基準・規範・標準)」です。しかも、その歴史的背景は、旧ソ連の強制収容所などで囚人に課された過酷な強制労働基準が、戦後の日本人抑留者の引き揚げに伴って日本国内に広まったとされています。
「ノルマ(quota)」は、もともと企業が従業員を苦しめるために作られたものではなく、組織が目標を達成するための管理手法として生まれました。ソ連時代の計画経済では、国が工場や農場に対して
- 鉄を何トン生産する
- 石炭を何トン掘る
- トラクターを何台製造する
といった生産量を割り当てました。これが「ノルマ」と呼ばれ、日本にも(なぜか)定着してしまいました。計画経済のモノであり、資本主義経済では適切ではないということを自覚しないといけません。
権威主義的かつ非民主的な現場での基準が日本に広がってしまったとことは恐ろしあ、です。文明開化後の軍事的かつ集団主義的考えがある程度普及していた事情もあるでしょう。戦後の日本の権威主義的風土や戦後復興の目標と相性がよかったのでしょう。
他方、アメリカにおいてないわけではなく、Sales Quota(クォータ)という言葉はあり、個人やチームに課される「最低限達成すべき義務・割当基準」とされています。しかし、日本ほど広まっている印象はありません。
ノルマがもたらすもの
意味合いとしては上から一方的に課される「未達が許されない絶対基準」であり、心理的負担・強制力が非常に強いものです。ノルマ未達の場合、減給やペナルティの示唆を伴いやすいものです。「目標」のような自発的、かつ上司との合意に基づくものではなく、まさに上から与えられる命令です。
問題は3つあります。第一に、ノルマが社員のメンタルに与える影響は、過剰なプレッシャーによって自己効力感や心理的安全性を著しく奪います。具体的には
- 慢性的な不安と疲弊
- モチベーション喪失
- 孤立感と心理的安全性の崩壊
といったことです。「未達=悪・ペナルティ」という恐怖が常態化し、自律神経の乱れや不眠、慢性的な疲労感につながってしまい、最終的にメンタルヘルスの悪化を招きます。また、実力や市場環境とかけ離れた数値が一方的に課されると、「どうせ頑張っても届かない」と諦めが生じ、自発的な行動が止まります。
第二に、組織の権威主義的な面が是正されないことです。組織において、ノルマが達成できなければ処罰されるような運用は、指示命令の絶対性を保持してしまいます。責任転嫁をする言動や行動がでてきてしまい、組織の協力・人間関係は悪化しますし、組織風土が悪化します。
個人ノルマの奪い合いによる同僚同士の疑心暗鬼や、上司への未達報告への恐怖から相談ができず、組織内で孤立することも発生します。こうして、ノルマは現場の隠蔽体質や不正(無理な押し込み販売等)の温床にもなりえます。ノルマ達成が絶対視されると、結局ノルマ達成のための非合法的手段などが許容される、ノルマ達成のためなら何をしてしまってもいい、となってしまうからです。
ノルマ未達の場合、「怒られないため」「減給を避けるため」(回避動機)に、隠蔽、責任転嫁、不適切な営業行動を誘発します。結果、権威主義的な組織のまま、さらに権威主義的な組織が悪化することになってしまいます。
第三に、これら第一・第二の結果、最終的な離職につながります。
過剰なノルマによるメンタル不調の放置は、まさに組織全体の経営リスクに直結します。
問題構造
まとめると以下のようになります。

本来のノルマは「目標」「基準」だったのですが、運用はえてして、悪い方にいってしまうものです。結果
- 達成できない数値を押し付ける
- 未達成の場合、責任転嫁する
- 達成できないと叱責する
- 自爆営業を生む
- 不正を誘発する
などの問題が発生します。それは、KPI(重要業績評価指標)、OKR(目標と成果指標)、MBO(目標管理制度)といった目標管理において制度がしっかりしていても、避けられません。運用段階で、上司の意向が強ければ「ノルマのようなもの」が入り込むからです。
本来は、「達成可能な目標なのか」「目的を共有できているのか」「未達成者を過度に追い込んでいないか」という議論が目標設定の段階・場面で行われていればいいのですが、なかなかそうもいきません。上司もノルマを経営者から課されていたら、ノルマ達成のために部下に押し付けてしまうのは当然です。その意味で、ノルマはハラスメントと言えるでしょう。
みなさんに質問です。
【質問】社内で「ノルマ」と言う言葉が口にされているか?
こうした質問をしましょう。もし「されている」のが30%を超えているのでしたら、人事評価、特に目標管理の運用改善の必要があるでしょう。
昨今の「働き方改革」においてあまり注目されていませんが、問われるべきものだと思っています。ノルマの押し付けなどガリゴリ上からやるのは人道的とは言えないと思います。軍隊じゃないんですから。
若手の退職、社員の定着問題に悩む前に皆さん気を付けたほうがいいと思います。







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