SBIホールディングスは9月17日、ミンカブ・ジ・インフォノイド傘下のライブドアの全株式を75億円で取得することで基本合意した。ライブドアはライブドアニュースやライブドアブログなどを運営し、月間総利用者数は約1億人。SBIはこれを、金融とメディアを組み合わせる「ネオメディア」戦略に取り込む。

SBIがライブドア買収と聞くと、2005年の事件を思い出す人もいるだろう。あのときライブドアのニッポン放送買収に立ちはだかった人物こそ、SBIの北尾吉孝氏だったからだ。
2005年、ライブドアを止めた北尾氏
2005年、堀江貴文氏率いるライブドアはニッポン放送株を大量取得し、ニッポン放送を通じてフジテレビに影響力を及ぼそうとした。「テレビとネットの融合」を掲げた堀江氏が既存メディアに正面から殴り込みをかけ、日本中が連日のように騒いだ。
そこでフジテレビ側に登場したのが、当時ソフトバンク・インベストメントだったSBIの北尾氏である。ニッポン放送が保有するフジテレビ株をSBI側に貸し出し、ライブドアによる支配を防ぐ役割を果たした。北尾氏は「ホワイトナイトではない」と説明していたが、どう見てもライブドアにとっては目の前に突然現れた巨大な防波堤だった。
最終的にライブドアとフジテレビは和解し、北尾氏は敵対的買収の成功事例が生まれなかったことを歓迎した。つまり20年前のSBIは、「ライブドアに日本のテレビ局を好き勝手にさせてなるものか」という側にいたのである。
20年後、「堀江さんに任せればよかった」
ところが時代とは残酷である。その後のフジテレビは、かつて守ってもらった企業とは思えないほど迷走した。2025年には一連の不祥事で経営体制そのものが批判され、北尾氏は2005年当時の判断について「あのときの判断は珍しく間違っていた。堀江さんに任せていれば、こんなことにはならなかっただろう」と振り返った。
20年前には「堀江を止める側」だった人物が、20年後には「堀江に任せておけばよかった」と言う。企業史というより、ほとんど寓話である。
そして2026年、話はさらにひねりが効いてきた。SBIが今度はライブドアそのものを買うことになったのだ。
守ったフジテレビではなく、止めたライブドアを買う
もっとも、今回SBIが買収するライブドアは、堀江氏が率いた旧ライブドアという法人そのものではない。旧ライブドアの事業はその後LINE傘下に入り、2022年に「ライブドアニュース」「ライブドアブログ」「Kstyle」などが新会社に移され、ミンカブが71億円で取得した。今回SBIが買収するのは、その新生ライブドアである。
したがって「北尾氏が堀江ライブドアを買収した」と書けば少々乱暴だ。しかし、ライブドアという看板も、ニュースやブログという中核サービスも残っている。しかも堀江氏自身は2023年に新生ライブドアのエグゼクティブ・アドバイザーに就任している。
ミンカブが71億円で買った会社を、SBIが75億円で買う。金額だけ見れば、日本経済を揺るがすような巨大買収ではない。だが20年前の経緯を考えると、なかなか笑える75億円である。
2005年、北尾氏はライブドアからフジテレビを守った。2025年には「堀江氏に任せればよかった」と反省した。そして2026年には、そのライブドアを自らのグループに迎え入れる。
結局、20年前に守ったフジテレビではなく、20年前に追い返したライブドアのほうを買うことになったわけだ。
「敵」が20年後に商品になる
SBIは近年、金融だけでは飽き足らず、芸能、音楽、出版、映像などメディア分野への進出を加速させている。ライブドアの約1億人という利用者基盤は、金融商品や広告、EC、コンテンツ販売につなげる格好の入口になる。
20年前、ライブドアは「既存メディアを壊す危険なネット企業」と見られた。それを止めた北尾氏が、20年後にはライブドアのブランドと顧客基盤に価値を認め、75億円を払う。あの大騒ぎはいったい何だったのだろうか。







コメント
ネズミに例えたら失礼かもしれませんが、「大山鳴動して鼠一匹」というのがこのニュースから受けた印象でした。
昨年のフジ・メディア・ホールディングスをめぐる騒動で、再びかつてのライブドア事件が注目を集めましたが、その少し前から、メディアをめぐる動きはいろいろと出ておりました。
2024年上期には、Netflixの会員数が1千万世帯を突破したことがニュースになりました。2020年の500万人からわずか4年で倍増という急成長ぶりを見せております。Netflixの株式時価総額は、2025年に騒がれたフジ・メディア・ホールディングスの時価総額のなんと100倍となり、2026年にはWBC全試合を独占生配信するなど、ついに地上波テレビを凌駕するような動きも見せております。
2024年から2025年かけて、ソニーグループによるKADOKAWA買収の動きが注目されました。この試みは、最終的に完全買収には至らず、ソニーがKADOKAWAの筆頭株主になる形で落ち着いております。この時に意識されたのが、KADOKAWAに眠る「宝の山」、つまり、膨大なコンテンツだったのですね。これをソニーグループの流通網に乗せれば、大きなビジネスが描ける、というわけです。
2025年のフジ・メディア・ホールディングスをめぐる一連の騒動でも、同社の支配権を握ろうという動きが生じておりました。これは、お台場などに同社が保有する優良な不動産をめぐるファンドの思惑があったのですが、もう一つに、同社の保有するコンテンツも大いに魅力的だったのですね。
実は、フジ・メディア・ホールディングス株を買い集めていたダルトン社はSBIの北尾氏をトップとする役員案を2025年4月の株主総会で提案しております。フジを買収して不動産をファンド化して資金を回収する一方で、ネットを利用したメディア事業にフジの持つ膨大なコンテンツを提供する形で、大きなビジネスを立ち上げる。一粒で二度おいしい話も不可能ではないのですね。
その他、フジ・メディア・ホールディングスの主要株主には、東宝やNTTなど、コンテンツとそのネット経由での流通を狙うと思われる企業が顔をそろえていたりするのですね。ネットとテレビの融合は、まだ、決して終わった話ではありません。北尾氏も「SBIネオメディアホールディングス」なる、メディアと金融の融合を狙った会社を設立しておられました。コンテンツを作るにはお金がかかりますから、この着想も悪くはありません。
そういえば、堀江氏が日本放送株を買い集めてフジテレビを支配下に置こうと動いたのは2025年のことでした。この試みは潰えてしまったのですが、NetflixやFuluがネット経由の番組配信を積極的に進めたのは2007年以降だったのですね。
2005年は、実は絶好の機会であった、今にして思えばそういうことでした。日本はもったいないことをしたものです。この30年間、我が国のGDPが全然成長していない一因は、こんなところにも垣間見られるというものです。
もちろんまだ、我が国の地底では、マグマがうごめいている。ここは、そう信じたいところではあります。