
先日公開されたディスカッションペーパー※1)で女子枠問題は世代間対立であると述べた。その後に別の対立軸を見出したのでここに記す。それはアカデミアと一般人の意見対立である。
ディスカッションペーパーで述べた通り、女子枠を支持する最大の要因は、今の社会が男性優遇だという認識である。そして、この認識は高齢世代に多く、若年層では弱い。
図1はディスカッションペーパーの図3を再現したものであり、横軸は年齢で、縦軸は今の社会が男性優遇だと思う度合いを表す。グラフは右上がりであり、男性優遇社会という認識は男女いずれでも50代~60代で高く、20代~30代の若年層でその認識が弱まっている。
すなわち、50代~60代の人は今の社会が男性優遇であると考え、それを是正する女子枠を支持するのに対し、20代~30代の人は今の社会が男性優遇だとは思っておらず、それゆえ女子枠に批判的になる。これは世代対立であるというのがディスカッションペーパーの主張であった。全サンプルを対象者にするとこの認識のとおりである。

図1
しかし、対象者を大学教員(とその経験者)に限ると状況は変わる。
現在大学で常勤あるいは非常勤の教員であるか、あるいは過去にその経験のある人(以下ではあわせて大学教員と呼ぶ)は、今回の調査で男性では89人、女性では92人存在する。この大学教員とそれ以外の一般人に分けてグラフを描きなおしたのが、図2である。点線が大学教員で実線は一般人である。

図2
まず、点線はおおむね実践より上方に位置しており、大学教員の方が一般人よりも今の社会は男性優遇だと思っている。そして、点線は左下がりにはなってとらず、若年層になるとその認識が弱まることはない。特に青の実践と点線では、真逆の方向に動いていることを確認されたい。
男性では一般人と大学教員では傾向が真逆で、一般人では若年層ほど今の社会は男性優遇とは思っていないが、大学教員の場合は若年層ほど今の社会が男性優遇だと思っている。アカデミアと一般人で年齢についての傾向が逆転している。これは極めて印象的である。
大学教員のサンプルサイズが男女とも100人弱しかいないため、頑健とは言いにくいものの、統計的に有意であることは示せる。他の変数の影響を取り除いて重回帰したのが表1である。標準化回帰なので係数の大きさを比較することができる。

表1 男性優遇社会認識の標準化回帰
これを見ると(1)大学教員は有意であり、また係数の値は極めて大きい。女性では標準偏差で0.946、男性では標準偏差で2.526だけ男性優遇社会であるという認識が強まっている。標準偏差でこれだけの変化は大きい。
他の変数の係数と比べても大きさの違いは圧倒的で、たとえば年齢と比較すると、10歳の変化で女性では標準偏差で0.106、男性では0.087の変化であり、20代と60代を比較して4倍しても0.3~0.4程度で、大学教員であることの効果0.946、2.526には遠く及ばない。他の係数はすべて0.1以下である。
また、男性の場合、年齢の効果が逆転することも確認できる。年齢と大学教員の交差項が-0.408で有意である。年齢があがると一般人は男性優遇社会の認識が10歳あたり0.087強まるが、大学教員の場合は逆に0.087-0.408=-0.321低下する。図2で見た男性のグラフでの実線と点線の真逆の動きが確認される。
なお、他の変数もざっと見ておくと、女性の場合、(6)(7)で自分の子供の性別によって影響が変わる現象がここでも観察できる。
女性の場合、男の子がいる場合は、今の社会が男性優遇だという認識が弱まり、女の子がいる場合はその認識が強まっている。解釈としては、男の子ができると男性視点で世の中を見るようになり、必ずしも社会は男性優遇でないと思い始め、一方、女の子ができると女性の不利さを改めて自覚するようになり、男性優遇社会との認識が強まる、というのがひとつの解釈であろう。
最後に、(10)の正義度が有意に正である。男性優遇社会という認識は正義度の高い人が支持しており、この認識が正義として主張されていることを示唆する。
冒頭の問題意識に戻って本稿をまとめる。男性優遇社会であるという認識は、世の中一般では若年世代ほど弱まりつつあり、女子枠問題は、いまの社会は男性優遇と考える50代~60代と、そうは考えない20代~30代の世代間対立と見なせる。この点はディスカッションペーパーで述べたとおりである。
しかし、一般社会ではなく、大学教員に限るとそうではない。大学教員では若年層でも男性優遇社会という認識は強く、世代間対立は無いからである※2)。男性についてむしろ逆に若年層の方が男性優遇社会という認識が強くなっている。ここにあるのは、大学すなわちアカデミアと一般との意見対立である。
アカデミア対一般の意見対立が生じた原因については、いろいろ論議のあるところであろう。アカデミア側が、一般人が気づかない男性優遇を見出しているのかもしれないし、逆に、アカデミアが世の中の変化にとりのこされているのかもしれない。特に男性の場合、年齢効果が一般人とアカデミアで真逆であることは衝撃的でいろいろ考えさせる。原因については論議を呼ぶところで別途分析が必要であろう。
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※1)田中辰雄,2026,「女子枠論争の対立軸」DISCUSSION PAPER_No.28(26-002)
※2)ディスカッションペーパーでは、大学教員へのインタビュー調査について、50代~60代が多かったのが偏りを生んだかのように述べたが、これは誤りであった。大学教員に関しては世代効果は無いので、若手の研究者にインタビューしても結果は同じだっただろう。ここに訂正する
編集部より:この記事は田中辰雄氏のnote 2026年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は田中辰雄氏のnoteをご覧ください。







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