危機感を隠さない江戸川区、借金に頼る中野区:持続可能な区政を分かつもの

中野区は今年度より新たな中野区基本計画(2026年度▶2030年度)が実施されています。基本計画の予算的な裏付けとして、中野区区有施設整備計画(2026年度▶2030年度)がありますが、これがとんでもない問題作です。

施設整備計画では、財政負担の平準化を名目に「建築後60年を目途(目安)に建物耐久度調査等を実施し、長寿命化が可能であると判断された場合には、大規模改修を行った上、建築後80年で建替することを原則とする」としており、事実上の区有施設の耐用年数延長が図られています。

1. 施設整備計画がはらむ「後年度の負担増」という構造的課題

施設の耐用年数を20年間後ろ倒し(スライド)したことにより、今年度から20年間は一時的な見かけ上の財政効果が生じています。しかし21年~40年後にはそのツケが回り、後年度の施設整備費が前半より約338億円も大きいという課題を抱えています。

前半20年間で必要な施設整備費2,135億円相当の金額を後半20年間の人口減少に伴う減収を見込むと1,934億円となります。しかし後半20年間で必要な施設整備費は2,473億円であるため、539億円が不足することになります。

この差額分を20年間で埋めていくためには、年間換算でおよそ27億円規模の基金積立および起債抑制が不可欠です。しかしながら、20年後のための財政計画は存在しておりません。負の遺産を将来世代に押し付けるひどい計画であるわけです。そのためにも少なくとも向こう40年間の財政運営の考え方を根本から変えていかなければなりません。

2. 昨年度の基金・借金の動向と中野サンプラザをめぐる経緯

中野区の施設計画を考えるうえで必要不可欠な貯金・借金の昨年度の状況について言及します。

中野区の基金残高(貯金)は2024(令和6)年度の754億円から、2025(令和7)年度には652億円へと、102億円減少しました。主な要因は、2024年に竣工した新庁舎整備に係る負債を57億円繰り上げ償還、中野サンプラザを所有していた「まちづくり中野21」への追加融資43億円です。

頓挫してしまった中野サンプラザの再整備事業がもし成立していたのであれば、施行予定者から263億円分の権利床と400億円の転出補償金が得られる予定でした。転出補償金の使い道の中には、新区役所整備借金約116億円の返済やサンプラザ借金約43億円がありました。

新サンプラザ計画の頓挫し、2024年度には新区役所整備の借金の一部を返済していたため、2025年度には57億円の返済という形になりました。私の提案で区が財源からサンプラザの借金43億円を支払い、中野サンプラザの土地・建物の区への寄附を実現させました。これにより、将来的に事業スキームが権利変換となった場合、旧施設等の売却益にかかる約100億円規模の法人税(MN解散時法人税等)が免除される形となり、100億円相当の財政効果が生まれました。

一方で、単年度の財務状況は厳しい状況となりました。しかし令和8年度の公債費の財政フレームをみると新たに借金を背負い、年度が進む度に公債費は増加、公債費負担比率は区の目標上限である10%目前の9%超へと跳ね上がる試算となっています。これまで区は「計画の範囲内」との答弁を繰り返してきましたが、過去の傾向から実際の数値は計画を上回って推移しています。

3. 他区の動向に学ぶ財政運営のあり方

23区の基金残高と区債残高の関係を見ると、区ごとの財政方針に明確な違いが表れます。

基金残高をみると江戸川区2,970億円、港区2,606億円、江東区2,217億円などと続きます。

基金残高で少ないところから見ると、千代田区・港区(0円)、江戸川区(2.2億円)など、区債残高がほぼゼロの区が存在します。100億円以下の区は渋谷区(25億円)、目黒区(62億円)となっています。江戸川区は財政力が高い区ではありませんが、23区随一の貯金額であります。そこで、それぞれの財政方針を調べました。

千代田区港区:「将来世代に負担を先送りしない」「原則、区債に頼らない」方針を掲げています。

江戸川区の借金はわずか2億円、基金は23区トップの約3,000億円を誇ります。江戸川区は基本計画の上位計画に『2100年の江戸川区(共生社会ビジョン)』という長期ビジョンの実現に向けたアクションプランを策定しており、あえて「なりゆきまかせだと不安な未来」というコラムを載せ、財政縮小による防災力の低下や環境維持の困難さといった危機感を前面に押し出しています。普通こういった将来ビジョンには明るい未来のみを描くものです。

江戸川区ハザードマップでも「ここにいてはダメです」と強いメッセージを発信しているとおり、現実的な課題から逃げない行政マインドが根底にあると推察します。

この長期ビジョンの方針を裏付けているものとして、『江戸川区公共施設将来需要調査』というものがあります。

「成り行きの未来」シミュレーションでは、2100年に区債残高が8,276億円に膨らむ試算を示した上で、長寿命化対策、再編・整備事業、公共施設総量削除、インフラコスト削減、あらゆる削減策を講じる最善のシナリオを提示しています。それでも2063年には起債が必要になること、また2028年に約694億円の新庁舎建設を控え、借金に頼らず基金を充当するために、強い危機感をもって積み立てを行っています。

一方、中野区は基金・区債残高ともにワーストグループに位置し、文京区なども同様の傾向が見られます。

中野区と文京区に共通しているのは、「世代間の公平性」というキーワードを全面的に打ち出している点です。

中野区はこの「世代間の公平性」を隠れ蓑にし、起債上限の75%ギリギリまで借金を行っています。

しかし、他区を見れば明確な思想の違いが見られます。例えば新宿区では、「世代間の公平性」というキーワードはありますが、同時に「後年度負担を考慮する」という方針も取り入れています。

多くの区では、人口減少化において、借金を簡単にしようという発想はなくなっているわけであります。

また、時代はまさに「金利がある世界」へと突入しました。金利が存在する以上、将来借金をして利息を払うくらいなら、現在の資金で支払う、あるいは「ほしい施設や事業があれば、まずお金を貯めてからつくる」という発想に転換すべきです。

この「貯めてから動く」という考え方を持つこと自体が、日頃の不要不急な経常経費を抑える大きな力となります。他区ではこうした判断のもと、起債を控える運用を行っています。

4. 施設規模の厳格な吟味と今後の方向性

改めて、区有施設整備計画の構造的な問題について改めて指摘します。同計画には「更新年数経過後に現在と同じ延べ床面積で更新すると仮定」して算出されていますが、現実には建て替えによって延べ床面積は増加する傾向にあります。これまで「同じ延べ床面積」あるいは「縮小」して更新した施設は存在しないそうです。

例えば、中野区の「保健所」の移転・整備においては、当初、令和5年12月に「教育センター跡地に係る保健所の移転検討」が報告された際、野方保育園の土地は使わない前提であり、議員からの質疑に対しても「敷地面積は足りる」との答弁でした。しかし、令和7年8月総務委員会「複合交流拠点の整備方針(案)等について」の報告で野方保育園跡地も活用して拡大整備する方針へと変更されました。

下表「23区の区民1人あたり保健所費の推移」によると、最大は新宿区の8,491円、最小は文京区の533円で、中野区は下から2位の838円でした。

この金額は国に報告する数字で各自治体は与えられた定義の中で算出するわけですが自治体により大きく数字は異なります。保健所の建て替え工事で大きくなることもあります。しかしながら、ベースとしては人件費の割合が大きいようです。中野区は保健所機能の一部を区内に4つある「すこやか福祉センター」という施設へ分散しているためとも考えられます。

また先日、保健所内の一室が喫煙所として使われていた事実が発覚しました。普段使われない部屋が存在しているようです。本当に延べ床面積を大きくする必要があるのか慎重な検証が必要です。

冒頭にも申し上げたとおり、区有施設整備計画で耐用年数をスライドさせた結果生じる20年後以降の財政不足を補うためには、私たちは今後毎年27億円ずつ積立および繰り上げ返済を行っていく必要があります。

さもなければ、将来の区民に遺されるのは「老朽化した古い建物」と「巨額の借金」だけになってしまいます。

物価高騰への対応や真に不可欠な行政需要を除き、新規・拡充事業の乱発を改めて歳出抑制へ舵を切り、厳格な査定のもとで「借金に頼らない持続可能な財政構造」へ脱却していくべきと考えます。

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