5年ビザが約5万円:タイのDTVは「節税移住」の新王道になるか

富裕層の定番だった「買えるビザ」

日本人はビザなしで観光旅行に行くことができる国が多いので、ビザの必要性を忘れがちですが、「住む」には、長期間の滞在が可能なビザが必要になります。

日本人に人気の移住先の一つ、タイには、お金を払えばビザを取れるビザもあります。「タイランド・プリビレッジ」(旧タイランド・エリート)です。タイランド・プリビレッジには、いくつかの種類がありますが、最も割安なものだと、5年間有効のビザを65万バーツ(約325万円)で購入することができます。

タイは日本人が非常に多く住んでいる国で、とくに首都バンコクには5万人を超える日本人が住んでいます。そして、駐在以外で移住してきている富裕層には、このタイランド・プリビレッジを購入して住んでいる方が多くいらっしゃいます。このタイランド・プリビレッジは、富裕層をタイに呼び込みたいという意図が明確なビザだと言えます。

DTVでタイ移住のハードルが一気に下がった

そんな中、2024年7月、タイでDTV(Destination Thailand Visa)が登場しました。

このDTVは、DTVでタイに居住しながら外国企業向けに仕事をすることができると明言しているビザです。この背景には、「デジタルノマドビザ」(インターネットがつながっていればどこでも仕事ができる人が住むためのビザ)が各国で登場しているという事情もあります。

こうしたデジタルノマドビザには、明確な意図があります。まず、①デジタルノマドと言われる人たちの多くが若い技術者ですが、こうした人たちに住んでもらい、自国で消費・投資をしてほしいということです。また、②デジタルノマドが住むことで、自国の産業に好影響が生じることも期待しているでしょう。さらに、③普通の労働者とは違って、自国の労働者の仕事を奪うことはないという理由も大きいでしょう。

ちなみに、タイ国内でムエタイやタイ料理を学ぶ人もDTVを取得できるというのが、タイらしくユニークです。

節税のカギは「所得の源泉地」

では、タイ在住のフリーランスとして得た報酬には、税金がかかるでしょうか?

現行のタイの税法(タイ税法典41条)によると、タイの国内で得られた所得(タイ国内源泉所得)についてはタイの所得税が課されますが、タイの国外で得た所得(タイ国外源泉所得)のうち、タイに持ち込まれていないものには、所得税は課されません。

海外企業からの報酬はタイで課税されるのか

では、DTVを使ってタイに居住している人が、タイ国外企業から委託されて仕事を行い、タイ国外企業から得た報酬は、タイ国内源泉所得・タイ国外源泉所得のどちらに当たるのでしょうか?

受託業務を行っている人はタイ居住者で、業務委託者はタイ国外の企業ですから、判断しづらいところです。

この点、タイの法令には明確な記載がないようです。そして、会計事務所・コンサルティング会社などの英語ウェブサイトには、微妙な問題としつつ、タイ国外源泉所得に近いと考えられるとするものと、タイ国内源泉所得に近いとするものが混在しており、明確ではありません。ただ、「所得の源泉地は、業務・活動・財産の所在地によって決まり、支払いが送金される場所ではない」という趣旨の記述をする会計事務所があり、これが正解に近いのではないかと考えます。

この記述に従いますと、「DTVを使ってタイに居住している人が、タイ国外企業から委託されて仕事を行い、タイ国外企業から得た報酬は、タイ国内源泉所得に当たる」ことになります。

国外法人を使えば税負担は抑えられるのか

この見解に従いつつ、税負担を抑える方法としては、タイ居住者が、自身が株主・取締役である法人をタイ国外に設立し、その法人で業務を受託する方法が有効です。この場合、タイ国外法人は、その国の税制に沿って納税することになります。

では、タイ居住の株主・取締役は、タイ国外法人に入ったお金をどうやって自分が得るかというと、①取締役報酬として受け取る方法と、②配当として受け取る方法が考えられます。

このうち、「①取締役報酬として受け取る方法」であれば、タイ居住者がリモートでタイ国外企業のために仕事をして報酬を得ているので、タイ国内源泉所得と見る余地があることは、前述のとおりです。

一方、「②配当として受け取る方法」であれば、タイで納税義務が発生しないことになります。

たとえば、低税率(法人所得200万香港ドル=約4,000万円まで税率8.25%)で使い勝手の良い香港に法人を設立し、その香港法人で報酬を受領する、という方法が考えられるでしょう。

こうしたストラクチャーを作ることにより、税額を抑えることができます。(この章では、複雑な箇所をかなり端折って説明しました。)

では、いくら以上の収入がある場合に、こうしたストラクチャーを作るメリットがあるでしょうか?これは一概に言いにくいですが、約1,000万円以上の収入があるのであれば、考えてよいでしょう。

安く、早く取れるDTVの魅力

残る問題は、取得に向けたハードルの高さ(取得までの期間、費用)です。

たとえば、マレーシアのデジタルノマドビザの場合、公式ウェブサイトには申請から許可まで1か月と書かれていますが、実際には4か月以上かかることが少なくありません。そのため、一刻も早く海外移住して節税したいと思っても、簡単に移住できません。

しかし、DTVは申請から許可まで半月以内という超高速で取得できるのです。

次に費用ですが、このDTVは5年有効ビザ取得の政府費用が52,000円という激安価格です。筆者の経営する会社のような申請サポート業者に依頼しても、合計20万円程度で取れてしまうのです。

こうしたハードルの低さも、海外移住の新しい王道ビザとされるポイントでしょう。

審査厳格化でもDTVはまだ使える

2026年8月31日から、DTV申請時に下記2点の書類提出が求められるようになりました。

  1. ビザ申請を行う国・地域における永住資格を証明する書類
  2. 申請者の国籍または永住資格を有する国・地域が発行した犯罪経歴証明書(Certificate of criminal record clearance)
Destination Thailand Visa (DTV) 必要書類変更のお知らせ - สถานกงสุลใหญ่ ณ นครโอซากา
Destination Thailand Visa (DTV) 必要書類変更のお知らせ

これは、従来DTVの発行が極めて簡単すぎて、タイ政府が来てほしい人材以外まで入ってくるようになってしまった反動だと思います。

とはいえ、日本人であれば、①日本国内の大使館・領事館で申請、②犯罪経歴証明書を用意すれば済む話です。

DTV取得のハードルが上がったと言う方もいますが、ハードルが上がったと言うのは、言い過ぎでしょう。

依然として、海外移住で節税したい暗号資産投資家や、インターネットがつながっていれば仕事のできるフリーランス・ソロプレナーの方には、最適なビザと言えそうです。

※2026年9月22日現在の情報に基づき執筆

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