「責任者を呼べ!」の客はカスハラか?その理由とは

「納得できない。責任者を呼べ!」

はい、来ました。接客業の人なら一度は聞いたことがある、あの呪文です。唱えた瞬間、店内の空気が凍る。スタッフの顔から血の気が引く。周りのお客様の視線が、ざっ、と一斉に集まる(あの「ざっ」って音、たぶん実在する)。

で、現場の人間はここで固まるわけです。

これ、正当なクレーム? それともカスハラ?

『マンガでやさしくわかるカスハラ対策』吉村園子 (著), 西野肇 (著)/日本能率協会マネジメントセンター

研修で必ず聞かれる質問です。必ず、です。「どこまで対応すればいいんですか」「どこから断っていいんですか」。管理職の人ほど真顔で聞いてくる。部下にどう教えればいいのか分からない、と。

先に答えを言ってしまうと、相手が怒っているかどうかは、関係ない。

関係ないんです、本当に。

厚生労働省の企業マニュアルには、カスハラの定義がこう書いてあります。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

……長い。一回読んで頭に入った人、正直に手を挙げてほしい。

要するに、見るのは2つだけ。「何を」求めているか。「どう」求めているか。以上。

商品が壊れていた。説明がなかった。ミスがあった。そりゃ怒ります。私だって怒る。その怒りは企業にとってタダで手に入る改善のヒントであって、声がデカいという理由だけで「はいカスハラ認定!」とやってしまったら、自分で自分の耳を塞いでいるのと同じです。

ところが、です。

理由があっても、やり方がアウトならアウト。怒鳴る。人格を否定する。何時間も帰さない。土下座しろと言う。「SNSにさらすぞ」と脅す。担当者ひとりを延々と責め続ける。

特に土下座。これだけは本当に許せない。令和ですよ?

時代劇じゃないんだから。……失礼、取り乱しました。

逆パターンもあります。口調は穏やか、にこにこしている、でも要求がおかしい。企業に落ち度がないのに補償を求める。商品と関係ないことを要求する。これも応じる必要はありません。丁寧に言えば通る、なんてルールはどこにもない。

つまり軸は2本。要求がまともでも、手段がアウトなら従業員を守る側に切り替える。手段が丁寧でも、要求に根拠がなければ断っていい。

エス・ピー・ネットワークの2025年の調査では、個人客からカスハラを受けたという回答が約7割。7割ですよ。「うちには関係ない」と言える職場のほうが、もはや珍しい。

ただ、ひとつだけ気になっていることがあって。

対策が進むのはいい。いいんだけど、その勢いで、まっとうなクレームまで門前払いする店が出てこないか。「それ、カスハラですよね」の一言で、本当に困っている客を黙らせる店が。

そうなったら、今度はどっちが加害者なんでしょうね。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、作家)

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