世の中には、偶然にしては出来すぎている出来事がある。9月30日、ドバイからテルアビブへ向かっていたフライドバイFZ1073便のコックピットで、重大なトラブルが発生した。副操縦士が機長を襲い、旅客機を墜落させようとしたという。

BBC
この襲撃は抑え込まれ、約180人の乗客は無事だった。機体はサウジアラビアのタブークに緊急着陸した。ここまでは重大な航空事件だが、この事件には奇妙な偶然が多い。
ネタニヤフ首相は前日に「攻撃」を警告していた
イスラエルでは総選挙が迫っている。そして事件の前日、ネタニヤフ首相は「選挙を前に敵がイスラエルを攻撃しようとしている兆候がある」と国民に警告していた。
その翌日に、イスラエルへ向かう旅客機で「墜落未遂」が起きた。SNSで「これはイスラエル政府の偽旗作戦ではないか」という声が出るのも当然だ。
ネタニヤフ首相にとって、安全保障は最大の政治資産である。経済でも外交でも政権への批判が出ると「イスラエルを守れるのは誰か」という話で政権を維持してきた。そして選挙直前、その安全保障が偶然ニュースの中心に戻ってきた。
都合のいい偶然が多すぎる
旅客機は高度1万メートルで航行中、2分足らずで約5200メートルまで急降下した。異常を察した乗員や乗客らが操縦室に駆け込み、操縦士を襲った人物を取り押さえ、機体を安定させて緊急着陸させた。
ネタニヤフ首相はXへの投稿で、操縦士が「刺されて重傷を負ったにもかかわらず、反撃し、コックピットのドアを開き、乗客やクルーが襲撃犯を制圧できるようにしたことで、空中での大惨事を防いだ」と書き、彼は「真の英雄」だと称えた。
そして乗客がコックピットに突入し、その中に偶然イスラエル特殊部隊のメンバーがいて犯人を取り押さえ、航空機を操縦できる乗客もいて、旅客機を奇跡的に急降下から回復させ、無事に着陸したという。あまりにも都合のいい偶然が多すぎないか。
事件は「偽旗」ではなく「政治利用」
ただ「イスラエルが事件を全部仕組んだ」と考えるのは無理がある。FZ1073便で何らかの重大事件が起きたことは事実である。旅客機の航跡では急激な降下が確認され、緊急事態を示す7700に加え、不法妨害を意味する7500も送信された。つまり「何も起きていないのにイスラエル政府がテロ事件をでっち上げた」という偽旗作戦ではない。
しかし興味深いのは、イスラエル政府の説明だけが妙に迅速で具体的なことだ。事件直後から、副操縦士が機長を刺した、機体を墜落させようとした、イスラム過激思想の影響を受けていた、といった情報が次々と出てきた。
ネタニヤフ首相がこの事件を政治利用していることは明らかだ。彼は空港にかけつけ、犯人を取り押さえたイスラエル人の乗客を「英雄だ」と称えた。

ブラックボックスは陰謀論より雄弁である
この事件を判断するには、見るべきものは意外に単純だ。ボイスレコーダーには何が記録されているのか。7500を入力したのは誰なのか。副操縦士は何を話していたのか。なぜ機長を襲ったのか。外部との通信はあったのか。サウジアラビアとUAEの捜査が進めば、このあたりは明らかになる。
今の段階で「イスラエルの偽旗作戦だ」と断定するのは陰謀論だが、イスラエル政府が早々に示した「イスラム過激派によるテロ」という物語を事実として受け入れる理由もない。必要なのは、ブラックボックスと捜査結果を見ることだ。







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