年収が半分になっても「隣より上」を選ぶ、貴方と私の話

年収5万ドルと10万ドル。どっちがいい?

決まってるだろ、と思ったあなた。ちょっと待ってほしい。

ハーバード大学の研究で、参加者に2つの選択肢が示された。1つ目、自分が年収5万ドルで、周りは2万5000ドル。2つ目、自分が10万ドルで、周りは20万ドル。物価もドルの価値も同じ条件。つまり2つ目のほうが、単純に倍の暮らしができる。

で、結果。半分の人が1つ目を選んだ。

『Your Money 101日後に人生が豊かになりすぎるシンプルなお金の法則』カール・リチャーズ (著), 橘玲 (訳)/アスコム

……いやいや。半分ですよ半分。自分の財布が半分になってもいいから、隣より上にいたい。これが人間。ハーバードの人たちが、というより、たぶん私も。というか、あなたも。

カール・リチャーズという、ニューヨーク・タイムズで金融コラムを書いていた人がこの話を紹介していて、読んだとき私は正直、笑ってしまった。笑ったあとで、ちょっと嫌な気分になった。心当たりがありすぎる。

話は飛ぶが、この前Xで、同世代の著者仲間が新刊の重版を報告していた。「おめでとう」とリプを打った。本心である。本心なのだが、打ち終わったあとに30秒くらい、なんとも言えない時間が流れた。あの30秒がつまり、ハーバードの研究が言っていることだ。

リチャーズが子どもの頃の話を書いている。友だちが自転車を持っていたから自分も欲しかった。でもプライベートジェットが欲しいと思ったことは一度もない。比べる相手が、近所の仲間だけだったからだ。

ここが今と昔の決定的な違いで、いま私たちの比較対象は「ネットにつながっている全人類」である。年収も、家も、休暇の写真も、子どもの学校も、全部流れてくる。追いつけるわけがない。上には必ず上がいて、しかもそれが毎日視界に入る。嫉妬が昔からやっかいな感情だったのは確かだが、いまのそれはもう別の生き物だ。

で、その嫉妬は何を買わせるか。必要だからではなく「持ってることを知ってほしいから」でかい家、いい車。リチャーズいわく「比較は高くつく」。上手いこと言うなあ、と思う(他人事のように)。

じゃあどうするか。リチャーズの答えは拍子抜けするほど単純で、比較する相手を自分で選べ、である。それと、問いを変えろ。「何が足りないか」じゃなく「もう十分あるものは何か」。

正直、最初は「そんな精神論で」と思った。いまも半分はそう思っている。ただ、同じ条件のふたりがいて、片方はゆたかだと感じ、片方は閉じ込められていると感じる、という話は、身に覚えがある。持ち物の量じゃない。どこを見てるかだ。

とりあえず私は、あの30秒のことを忘れないでおこうと思う。次に誰かの重版報告を見たときに、自分の中の何が動くか、観察してみる。それで何かが変わるかは、知らない。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、作家)

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