問題社員を9年間指導してようやく解雇:日本企業はどこまで面倒を見ればいいのか

「高学歴の若手社員が『あるべき論』に固執して仕事ができず、解雇された」

【参照リンク】高学歴の若手社員、仕事の前にあるべき論 解雇されると「会社が悪い」 日本経済新聞

高学歴の若手社員、仕事の前にあるべき論 解雇されると「会社が悪い」 - 日本経済新聞
大手メーカーの開発部門に難関国立大院卒の若手女性社員が配属された。上司が作業を指示すると「なぜ当社はこのようなビジネスを行っているのか」とあるべき論に固執し、仕事が一向に進まない。9年間指導したが改善がみられないとして会社が解雇に踏み切ると...

この事件をそんなふうに紹介すると、「高学歴の人間は理屈ばかりで使えない」という安っぽい学歴煽りに見えてしまう。しかし、AGC事件(東京地判令和7年8月21日)の本当のポイントはそこではない。

注目すべきなのは、新田龍氏が述べるように、会社が問題社員を解雇するまでに約9年間も指導を続けたという事実である。

同僚が怖がり、上司も指導をためらう

この社員は、単に仕事が遅かったわけではない。指導を受けても独自の「あるべき論」に固執し、業務がなかなか前に進まない。注意されても改善せず、仕事がうまくいかない原因を会社や周囲の指導力不足に求める傾向もあった。

さらに、会社貸与のスマートフォンで同僚を無断撮影したり、同僚への悪口を書き連ねて第三者に送ったりしたとされる。上司との面談中に感情的になり、ペットボトルで机をたたいて号泣したり、注意されると大声で抗議したりすることもあった。

その結果、同僚は本人を怖がり、上司まで指導をためらう状態になった。普通の職場感覚なら、ここまで来れば「辞めてもらうしかない」と考えるだろう。しかし、日本では、そう簡単にはいかない。

Prostock-Studio/iStock

それでも会社は9年間指導した

会社はすぐに解雇しなかった。仕事内容や業務水準を調整し、配置転換も行い、特別な支援体制まで設けて約9年間指導を続けた。それでも改善が見られなかったため、最終的に普通解雇に踏み切った。

裁判所もこの経緯を踏まえ、会社は雇用継続のための努力を尽くした一方、本人には改善の見込みが極めて乏しいとして、解雇を有効と判断した。

つまりこの事件は、「高学歴社員が理屈っぽかったのでクビになった」という話ではない。

問題社員に対して9年間も配転や業務調整、指導を続け、それでも改善しなかったため、ようやく裁判所が解雇を認めた事件なのである。

管理職は裁判に備えて記録まで必要

似たような問題を抱える経営者や管理職にとって、この判決はかなり重い。

まず求める成果と期限を明確にし、成果物のどこが足りないのかを具体的に伝える。必要な指導を行い、その後改善したか確認する。難しければ、業務の難度や担当を変える。それでも駄目なら、その経過を記録する。

周囲が怖がるような言動があれば、その場で中止を求め、「いつ、何が起き、本人に何を伝え、その後どうなったか」まで残しておく。注意指導を繰り返しても改善しなければ、本人の釈明を聞いたうえで、就業規則に沿って段階的な処分を検討する。

そこまで積み上げて初めて、「これ以上の雇用継続は難しい」と主張できるわけだ。

解雇の金銭解決制度が必要だ

もちろん、経営者が気に入らない社員を自由にクビにできる制度にすべきではない。だが、問題社員を9年間も抱え込み、管理職や同僚が消耗し続けなければならない制度も健全とは言えない。

そのコストは会社だけでなく、周囲の社員にも転嫁される。だから私は、一定額の解決金を支払えば雇用関係を終了できる「解雇の金銭解決制度」を導入すべきだと考える。労働者には一定の金銭補償を保障し、企業には合理的なコストで雇用関係を終了できる選択肢を与える。

AGC事件から学ぶべきなのは、「高学歴でも仕事ができない人がいる」という当たり前の話ではない。日本では、ここまでしないと問題社員を解雇できないことがある。約9年間という時間こそ、この事件が示した日本の雇用制度の重さなのである。

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