中国の「長い黄昏」は始まったのか:人口減少と習近平体制の行方

中国の人口減少が、経済だけでなく政治のあり方まで揺さぶり始めている。米外交専門誌『Foreign Affairs』が10月5日に公開した11・12月号の論考「China’s Long Twilight(中国の長い黄昏)」は、この問題を正面から論じたものだ。筆者は、米外交問題評議会(CFR)上級研究員でフォーダム大学ロースクール教授のカール・ミンツナー氏である。

同氏の主張の核心は、少子高齢化そのものではない。人口構造の変化と、習近平体制の政治的な硬直化が重なったとき、中国はどのような国になるのか。公開されたばかりのこの論考を手がかりに、日本の向き合い方を考えたい。

「世界の工場」を支えた人口ボーナスの逆回転

改革開放以降の急成長は、豊富で安価な労働力に支えられていた。ミンツナー氏によれば、15〜64歳の生産年齢人口の比率は1978年の57%から、2010年には75%近くまで上昇した。道路や工場、住宅を建設する若い働き手が大量にいたからこそ、中国は「世界の工場」となり、30年にわたって年率10%近い成長を続け、経済規模を20倍にすることができた。

その前提が逆回転している。中国国家統計局によれば、総人口は2021年末の約14億1260万人を頂点に4年連続で減少し、2025年の減少幅は339万人に達した。同年の出生数は792万人と、前年から17%減っている。ミンツナー氏は、東アジア型の超低出生率が続けば、2040年代には毎年人口の約1%、およそ1000万人が失われると見る。

高齢化も速い。65歳以上の比率は2025年末で15.9%である。同氏によれば、これが2040年代には約30%へ倍増し、今世紀後半には40%を大きく超える。米国は現在の約19%が2060年でも23%強にとどまる見通しで、差は歴然としている。2040年代の3割という数字は、現在の日本とほぼ同じ水準である。しかも中国は、一人当たりGDPが日本の半分にも届かない段階でこの局面に入る。中国で「未富先老(豊かになる前に老いる)」と呼ばれる問題である。

問われるのは人口減少より政策転換の力

ただし、人口が減るだけで国家が衰退するわけではない。日本は中国より早く人口減少と高齢化に直面したが、社会保障制度を維持しながら、企業も社会も少しずつ適応してきた。ミンツナー氏も、人口危機は宿命ではないと述べている。

中国にとってより深刻なのは、人口構造が変わっているのに、政策の転換が進まないことである。同氏は、人口減少がもたらす財政面の帰結に、党指導部が正面から向き合えていないと指摘する。法定退職年齢の引き上げがようやく始まったのは2025年で、それも15年かけて段階的に進める計画である。

本来なら、社会保障を厚くして家計の可処分所得を増やし、内需主導の経済へ移行すべき局面である。ところが実際の政策は、国家主導の製造業強化と輸出拡大に重心を置いたままだ。ミンツナー氏も、内需の拡大と低所得層への社会保障の強化が明らかに必要なのに、政策当局は習近平氏が好む輸出主導の産業政策を続けていると批判する。人口増加と世界市場の拡大を前提にした成功モデルを、人口減少の時代にも延長しようとしているように見える。

習近平体制の「強さ」が弱点になる

習近平体制は、権力を中央に集中させることで政治的な安定を保ってきた。しかし人口減少の時代には、この強さが弱点に変わりうる。

人口が増えている間は、政策に多少の失敗があっても成長が吸収してくれる。若者が増え、都市化が進み、住宅需要も輸出も伸びていれば、社会全体のパイが大きくなるからだ。人口が減り始めると、そうはいかない。成長率は下がり、住宅需要は縮み、地方政府の財政は苦しくなり、社会保障の負担は増えていく。

そこで必要になるのは、過去の政策を修正する柔軟性である。ところが権力が一人に集中し、異論が出にくい体制では、誤りを認めて修正すること自体が難しい。ミンツナー氏によれば、一人支配への回帰が進む中で、かつて評価されたテクノクラート統治は力を失い、党は新しい課題に創意で応じる代わりに、抑圧と中央の指示への機械的な追従に頼っている。人口減少と並べて「政治の麻痺」が論じられるのはこのためだ。

同氏は、習氏の下で中国が閉じた袋小路に入り込み、それが人口減少をさらに悪化させるとまで述べている。「強い国家」が、変化に弱い国家になるのである。

崩壊ではなく「長い黄昏」

もっとも、中国が人口減少で突然崩壊するとは考えにくい。巨大な国内市場、世界有数の製造能力、核戦力を含む軍事力、AIや半導体の技術基盤がある。人口が減っても、中国は巨大な国家であり続ける。

起きるのは急激な崩壊ではなく、長い時間をかけた相対的な衰退だろう。人口増加を背景に世界経済を牽引してきた中国から、国内問題への対応に追われる中国へ、少しずつ姿を変えていく。

ミンツナー氏は、中国が「人口減少の世紀」に入ったと表現する。20世紀の人口増加が毛沢東の革命と鄧小平の改革開放を形づくったのと同じ大きさで、これからの人口減少が中国の経済と政治を作り変えるという見立てである。「長い黄昏」という表題は、その時間の長さをよく表している。

日本は「中国弱体化」と受け取ってはならない

日本がこの変化を「中国が弱くなる」と単純に受け取るのは危険である。黄昏は長く、その間も中国は軍事・経済・技術の大国であり続けるからだ。

むしろ警戒すべきは、成長が鈍る中で、指導部が国民の不満をそらすために対外姿勢を強める可能性である。米国には、国力の頂点を過ぎたと自覚した大国こそ危険な行動に出やすい、という議論がある。経済は弱くなっても、外交・安全保障では強硬になる。台湾海峡や東シナ海を抱える日本にとって、これは十分に想定しておくべきシナリオだ。

一方で、高齢化は中国の軍事にも制約をかける。年金や医療の負担が膨らめば、国防費との競合は避けられない。一人っ子世代が中心の軍で、大きな人的損失を社会がどこまで受け入れるのかという問題もある。日本に必要なのは、抑止力を着実に整えながら、中国の行動原理がどう変わるのかを冷静に見極めることである。

人口減少時代の国家モデルを誰が作るのか

中国の問題は他人事ではない。日本自身が人口減少国家だからである。ただ日本には、中国より早くこの問題に取り組んできた蓄積がある。AIとロボットによる省人化、高齢者の就労、社会保障改革、行政のデジタル化、高度外国人材の受け入れなど、先行して答えを出すべき課題は多い。

20世紀の国家モデルは、人口が増えることを前提にしていた。21世紀は違う。日本、中国、韓国、そして欧州の多くの国が、人口減少と高齢化という同じ問題に向き合う。問われるのは、人口が減っても豊かでいられる国家を誰が最初に作るのか、である。

中国の「長い黄昏」は、自由主義国家と権威主義国家のどちらが人口減少に柔軟に適応できるのかという問いでもある。誤りを修正できる政治の仕組みを持つことは、民主主義の強みである。日本はその最前線にいる。

【参考】
Carl Minzner, “China’s Long Twilight,” Foreign Affairs, November/December 2026。
人口統計は中国国家統計局の公表値による。

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