
高齢化社会を迎えつつあるタイでは、60歳以上が人口の2割を超え、その3人に1人が働き続けている。そして、66.7%が貯蓄ゼロということです。
では、働けなくなったタイの貧しい高齢者はどうなるのか。バンコク・ポストが高齢者介護における虐待問題を特集していたので、関連報道もあわせて調べてみました。そこに見えたのは、日本の「姥捨て山」の伝承を思い出させる光景でした。
手錠、鉄格子、檻のようなベッド
今月5日、カンチャナブリ県の老人ホームに当局の立ち入り調査が入りました。ある女性が施設から脱走し、息子夫婦に本人の意思に反して入所させられ、2年以上収容されたと訴えたのがきっかけです。女性は、手錠をかけられ、睡眠薬を飲まされたとも主張しています。
そこで見つかったのは、刑務所のような鉄格子、外塀の有刺鉄線、金属製の檻がついたベッドでした。

しかも、この施設には高齢者介護の免許はあるものの、医療施設としての免許はなく、入所者92人のうち81人が認知症患者でした。「老人ホーム」の看板を掲げながら、実態は認知症患者の収容施設であったことになります。
この事態を受け、タイ公衆衛生省をはじめとする関係当局は、国内にあるすべての登録済み高齢者ケア施設(約1,203か所)に対し、一斉立ち入り検査を行うことを決定しました。無許可の施設や基準を満たしていない悪質な業者に対する取り締まりと規制の強化が急務となっています。
「安いから」選ばれる施設
この種の問題は今回が初めてではありません。以前、バンコクのラートクラバンとノーンチョークでも、無許可の施設が摘発されていました。商業ビルを改装した施設で、入居者は狭い部屋に押し込まれ、足かせをはめられた人もいましたが、家族は他の施設より料金が安かったからここを選んだと、悪びれずに話していました。
そこで私が思い出したのが、以前、郊外をドライブしていた際にノーンチョークの田舎道で偶然見つけた高級老人ホームのことです。そこは口コミ評価が4.9もある欧米系資本のホームでした。
ところが、その同じノーンチョーク地区で、お金のない家族が選んだ「安い施設」では、高齢者が足かせをはめられていたわけです。
同じ地区のほんの数キロの距離に、天国と地獄が並んでいる。これが、中進国の罠にはまったままのタイの高齢者介護の現実だと思います。
家族に頼れなくなった国
タイでも昔は、子供、特に末っ子の娘が年老いた両親の面倒を見るのが当たり前でしたが、その慣習は消えつつあります。
ある調査では、高齢者介護の約4割は家族が担っており、有料の専門施設を使う人はごく一部とされていますが、認知症などになり、いよいよ家族が支えきれなくなったとき、受け皿が公的にも民間にも十分にないのです。
だから、「安さ」だけで選ぶしかない家族と、その安さを成り立たせるために人手や設備や衛生を切り詰める施設が、無許可のまま増えていくようです。

もちろん、日本の家族にとっても介護は決して楽ではありません。しかし、金融経済教育推進機構が公表した日本の金融資産保有世帯に関する調査結果によると、さすが日本の高齢者はお金持ちといわれるだけあって、60代世帯で平均2,816万円もの金融資産があり、かつ月額20万円前後の年金もあります。さらに、日本には介護保険という恵まれた制度もあります。
一方、タイでは高齢者の約3分の2に貯蓄がなく、1日83バーツ(390円)未満で暮らす人が約2割もいます。しかも、2033年には「超高齢社会」になると予測されています。
高度経済成長の波に乗っていち早く先進国入りできた日本と違い、中国と同じくタイも中進国の罠から抜け出せないまま高齢化が進み、「お金がない」「家族が頼れない」「公的な受け皿が足りない」が同時に起きてしまい、社会が対応できなくなっているわけです。
我々ロングステイヤーにとっても他人事ではない

実は、私がバンコクで毎月開いているブログ読者懇親会でも、将来70代後半になったら、我々もみんな日本に帰るか、タイで骨を埋めるかの決断を迫られる時が来る、という話題になったのでした。
そこで私は、特に我々のような外国人にとっては、寝たきりになったり認知症になったりしたら退去させられる施設ではなく、最期の看取りまでしてくれる高級老人ホームに入らないと、惨めな最期を迎えることになると意見を述べたのでした。
ところで、「タイは老人を敬う仏教国だから、タイの老人ホームは虐待がなく安心」と考えている移住希望者もいるかもしれませんが、私が15年間バンコクで生活してわかったのは、この国でも老後は結局お金次第だ、というごく当たり前のことなのです。







コメント