
今、あなたの奥歯はどうなっている?
上と下、くっついていないか。……いや、答えなくていい。確かめた時点で、たぶんもう離したはずだから。
話は変わるが、先週、駅前の牛丼屋でカウンターに座った。隣の男がスマホを見ながら、何かを噛んでいた。口には何も入っていないのに、こめかみが動いている。画面はたぶんメールだ(覗いてはいない、本当に)。ああ、この人も噛んでるな、と思った。他人事じゃない。俺もだ。
「おヘソに戻る 〜一級建築士が見つけた重心の科学〜」(松下いづみ 著)みらいパブリッシング
「お口食いしばり族さん」。松下いづみさんの本に、そういう呼び名が出てくる。
気づくと上下の歯が当たっている。集中すると奥歯がぐっと噛み合う。朝起きると、あごがだるい、歯が浮く、こめかみが重い。読みながら、全部当たっていて笑った。笑いごとではないのだが。
主役は咬筋という筋肉だ。ほおの外側にある、噛むための主役。こいつは食事のときだけ働く、と思うだろう。違う。集中しているとき、緊張しているとき、人前でがんばるとき。勝手に働く。こっちの許可なんか取らない。
このタイプは、気を張りやすく、がんばりを止めにくい人に多いという。言葉にしない緊張が、あごに出る。
ここだけは声を大にして言いたい。言葉にしない緊張、だ。言えばいいのに言わない。飲み込む。飲み込んだぶんを、奥歯が引き受けている。俺の場合、締切前の深夜がひどい(自覚はある。直す気があるかは別だ)。
しかも、寝ている間に歯ぎしりをしていることもある。寝ているから本人は知らない。朝のだるさだけが残る。理不尽な話だ。
本によると、噛みしめは「見た目の疲れ」と「首・肩の緊張」を同時につくる。表情が硬く見える。口角が下がりやすくなる。あごの緊張は首の付け根やこめかみに広がって、首・肩までゆるみにくくなる。肩を揉んでもらってもすぐ戻るのは、たぶんこのせいだ(ここは俺の推測)。
いちばん厄介なのは、寝起きがスッキリしないのに、がんばれてしまうこと。がんばれるから止まらない。止まらないから、また噛む。
対処は、拍子抜けするほど地味だ。舌を上あごにそっと当てる。それだけで上下の歯が離れやすくなる。あとは、歯みがきのあとに一度だけ軽く噛んで、あごの角あたりのふくらむ場所をやさしく揉む。やさしく、である。力いっぱい押したくなるのは、たぶん食いしばり族の悪いくせだ。
お口がゆるむと、顔だけでなく首・肩まで変わってくる、とある。本当にそこまで変わるのか。正直、まだわからない。で、最初の質問に戻る。今、あなたの奥歯はどうなっている?
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
■
日本初のClaude実用書です。発売即重版しました。
『3時間で身につくClaude活用術』(WAVE出版)









コメント