フランス大統領候補メランションが提案する「徳政令」は可能か

フランスの財政危機は深刻化し、来年の大統領選挙の有力候補(今のところ第2位)ジャン・リュック・メランションは、政府債務を帳消しにする徳政令を提案している。

欧州中央銀行(ECB)は、フランス国債を膨大な量保有しています。私はユーロ圏のすべての国々に、ECBが保有する債務を帳消しにすることを提案します。私たちはみなユーロシステムのメンバーですから、これは私たち自身が自分たちに負っている債務なのです。

ブランシャールはこれに激怒しているが、彼も認めるように徳政令はテクニカルには可能である。ECBが「保有国債は今後いっさい売らない」と宣言し、EU各国の政府債務を凍結すればいいのだ。

徳政令は「ヘリコプターマネー」

同じような提案は、過去に日本政府に対してもおこなわれた。これは統合政府で考えると、政府(財務省+日銀)が国民に現金を渡すヘリコプターマネーと同じである。ターナーもいうように「日銀はすでにヘリマネをやっており、必要なのは正直になることだけだ」。

シムズはもう少しマイルドなインフレ税を提案しているが、どういう会計処理をしても政府と日銀を合計した統合政府の純債務は変わらない。ブランシャールもいうように、最善の場合は何も起こらない。

しかし将来世代の負担は減る。財政赤字が増えると、将来の税負担が増えるリカードの中立命題で将来世代の消費が減るが、徳政令は将来世代の債務を減らして消費を増やすポジティブな効果をもつ。

高市政権の「マイルドな徳政令」

問題は、徳政令が政治家のインセンティブに及ぼす影響である。財政赤字を増やしても日銀が帳消しにしてくれるなら、政治家は無限に政府債務を膨張させ、国民もそれを予想してインフレが起こる。

今の安定したインフレ予想は国債金利<名目成長率という条件(ドーマー条件)に依存しているが、徳政令でこの不等式が逆転すると国債が暴落し、金利が上がって(元利合計の)政府債務が発散するおそれがある。フランスでは、メランションの提案を恐れて国債の売却が拡大している。

いま高市政権が(それとは意識しないで)やっているのも、マイルドな徳政令(インフレ税)である。日本はECBのような合意が必要ないので、フランスより容易だ。シムズも指摘したように日本のように政府への信頼の強い国ではインフレ税は可能だと思うが、きわめてリスクの大きなギャンブルである。いま金利が上がって円が下がっている原因も、この徳政令リスクだろう。

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