必要なのは「解雇規制の緩和」ではなく「解雇ルールの法制化」

またいつもの解雇規制をめぐる議論がXで繰り返されている。日本の賃金が上がらないのは雇用保障が強すぎるからだという意見への批判だが、この問題の答はわかっていて、経済学的にいうとこういうことだ。

私もこれまで何度も議論したが、高市首相を初めとする政治家にはわからない。いまだに「解雇しやすくなると経営者に搾取される」という類の議論が政治家にも役所にも多い。

「解雇規制」という言葉はやめよう

その原因は「解雇規制」という言葉にあると思う。これはOECDの使う言葉で、解雇の具体的な要件や退職金の金額などの規制だが、日本の実定法にはそういう意味での解雇規制は存在しない。それに近いのは、労働契約法16条の次の規定だけである。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

これは最高裁判決を条文にしたものだが、「客観的に合理的な理由」とは何か具体的には何も書いてないので、ある解雇が合理的かどうかの判断は裁判所にゆだねられる。その判例が1979年の東京高裁判決で示された整理解雇の4要件である。

  1. 人員整理の必要性
  2. 解雇回避努力義務の履行
  3. 被解雇者選定の合理性
  4. 解雇手続きの妥当性

これは要するに配置転換できる大企業は解雇禁止ということで、現実に大企業では解雇はごく例外的なケースしかない。

賃金が低いのは「雇用保障プレミアム」を取られているから

このため定年までの賃金が固定費になるので、企業はそれを抑制する。労働組合もそれを知っているので、中国などとの賃金競争が激化した1990年代から賃上げ自粛が始まり、今も実質賃金はG7で最低である。

小川製作所

これは企業が正社員の雇用保障プレミアムを取っているからだ。これは経済学では常識だが、直感に反するので(高市首相を初めとする)政治家は認めない。その一つの原因は「解雇規制を緩和する」という言葉が労働者保護に反すると思われるからだろう。

そうではなく、問題はヨーロッパのような具体的な解雇規制が存在しないことなのだ。これについては経済学者が20年以上、解雇ルールを提案しているが、厚労省も政治家も認めない。OECDも最近は日本の特殊性を理解して「日本の解雇規制は曖昧だ」というようになった。

日本に必要なのは「解雇規制の緩和」ではなく、具体的な解雇ルールの法制化である。特に「いくら退職金を上積みすれば解雇できるか」という条件だ。それは今よりゆるくなることもあるが(今は解雇自由の)中小企業にとってはきびしくなることもある。

まずこのスタート地点に立たないと、実質賃金を上げることはできない。「成長投資」に何兆円も予算をばらまくより、雇用改革こそ日本の生産性を上げるセンターピンである。

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