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日本に住むイスラエル人の友人が、投票のために一時帰国する。イスラエルでは、外交官など公務で国外にいる人を除き、国外からの投票が認められていない。一票を投じるには、本国に戻るしかないのである。在外のイスラエル人の間では、投票のための特別便を手配する動きも報じられている。
10月27日、イスラエルで国会(クネセト、定数120)の総選挙が行われる。2023年10月7日のハマスによる攻撃の後、初めての国政選挙だ。なお、イスラエルの大統領は国民の直接選挙ではなく国会で選ばれる。今回の選挙で事実上問われるのは、誰が首相として連立政権を率いるかである。
私は11月末にイスラエルを訪問する。いま、イスラエルのイノベーションシステムについての本を書いており、その現地調査のためだ。イスラエルは「スタートアップ国家」とも呼ばれ、技術革新、とりわけサイバーセキュリティやAIの分野で、日本にとっても重要なパートナーである。
この選挙でどのような政権が生まれるかは、日本にとっても無縁ではない。そこで訪問の前に、海外の主要メディアや研究機関が今回の選挙をどう報じているかを整理しておきたい。
イスラエルという国
まず、イスラエルという国を簡単に紹介しておきたい。
イスラエル中央統計局によると、2026年9月のユダヤ暦新年を前にした時点の人口は約1030万人で、1年間に約1.2%増えた。ユダヤ人とアラブ系以外の住民が約780万人(78.3%)、アラブ系住民が約220万人(21.7%)を占める。世界のユダヤ人約1590万人のうち、約46%がイスラエルに住んでいる。建国以来、約351万人が移民として入国した。
国家の成り立ちは、19世紀末に欧州で興ったシオニズム運動にさかのぼる。英国の委任統治下にあったパレスチナについて、1947年に国連総会が分割決議を採択し、翌1948年5月14日にイスラエルが独立を宣言した。直後に周辺のアラブ諸国との戦争が始まり、その後も1967年の第三次中東戦争、1973年の第四次中東戦争と戦火が続いた。1967年の戦争で、ヨルダン川西岸、ガザ地区、東エルサレム、ゴラン高原、シナイ半島を占領した。
一方で、1979年にエジプトと平和条約を結んでシナイ半島を返還し、1994年にはヨルダンとも平和条約を結んだ。1993年にはパレスチナ解放機構(PLO)とオスロ合意を交わしたが、和平交渉は実を結んでいない。2020年には、アブラハム合意によってアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコなどとの国交正常化が進んだ。
政治体制は議院内閣制で、成文憲法を持たず、一連の「基本法」が憲法の役割を担っている。イスラエルはエルサレムを首都としているが、国際的には首都と認めない国が多く、日本を含む多くの国は大使館をテルアビブに置いている。日本とイスラエルは1952年に外交関係を結んだ。
選挙の仕組みと日程
選挙は全国一区の拘束名簿式比例代表で行われ、議席を得るには得票率3.25%の阻止条項を超える必要がある。政権を握るには、連立で過半数の61議席を確保しなければならない。
国会は2026年7月17日に解散した。任期4年を全うした国会は1988年以来とされる。在外公館での外交官らの投票は10月20日、本国での投票は27日、結果の確定は11月4日の予定だ。
主な顔ぶれ
ネタニヤフ首相の側には、リクードのほか、ベングビール氏の「ユダヤの力」、スモトリッチ財務相の宗教シオニスト党、超正統派政党のシャスと統一トーラー・ユダヤ教が並ぶ。
これに挑む野党側の筆頭は、元参謀総長のガディ・アイゼンコット氏が2025年9月に立ち上げた「ヤシャル(まっすぐ)」である。ベネット元首相がラピド元首相と組んだ「ベヤハド(共に)」、ゴラン氏の民主党、リーベルマン氏の「イスラエル我が家」などが続く。
アラブ系政党は、ハダシュ、タアル、バラドの3党が共同リストを組み、ラアムは単独で臨む。右派では、元将官オフェル・ヴィンター氏の新党「アムハ・イスラエル」が阻止条項を超えるかどうかも注目されている。
世論調査:どの調査も61議席に届かない
直近の主な調査は次のとおりだ。
公共放送KAN(10月11日公表):ヤシャル22議席、リクード20、ベヤハド12。アイゼンコット陣営50、ネタニヤフ陣営53、アラブ系13。首相にふさわしい人物はアイゼンコット氏43%、ネタニヤフ氏38%。回答者の30%がまだ投票先を決めていない。
マアリブ紙(10月7〜8日調査):ヤシャル21、リクード20、ベヤハド13。両陣営が52議席で並ぶ。
i24NEWS(10月7日調査、回答518人):リクード26、ヤシャル20、ベヤハド11。ネタニヤフ陣営60、野党陣営47。
調査によって第1党すら入れ替わる。一方で、どの陣営も単独では過半数に届いていない点は共通している。米フォックスニュースは、膠着した場合には新政権が発足するまでネタニヤフ氏が暫定首相を続けるという専門家の見方を伝えている。
争点
10月7日の責任追及:アイゼンコット、ゴラン、リーベルマン、ベネットの各氏が、国家調査委員会の設置を公約に掲げている。
超正統派の徴兵:戦争の間に徴兵への支持は2024年1月の67%から2025年1月には84.5%へ上がった。2024年6月には最高裁が徴兵免除の継続を違法と判断している。
憲法の制定:2025年12月の調査では71%が憲法の制定に賛成した。ベネット氏、ヤシャル、リーベルマン氏が公約に掲げる。
生活費:2026年4月の報告で、イスラエルの生活費は豊かな欧州諸国より約2割高いとされた。
治安:アラブ系住民の地域で犯罪が増え、各党の論点になっている。
生成AIの選挙動画:選挙中央委員会の委員長が、有権者を誤解させるおそれがあるとしてAI生成動画の削除を命じた例も出ている。
海外メディアはどう見ているか
AP通信(米PBSが掲載)は、選挙戦でパレスチナ問題がほとんど語られていないと報じた。ネタニヤフ氏の挑戦者たちも、パレスチナ国家の樹立には概ね反対しているという。
オーストラリアの公共放送ABCは、ヤシャルが国際社会との対話を掲げる一方、国際的な批判を最も招いている問題では現状維持が続く可能性を指摘した。アイゼンコット氏は、自らが首相の間はパレスチナ国家を認めないと明言している。
米ワシントンのアラブ・センターは、アイゼンコット氏のジレンマを分析した。アラブ系政党の閣外協力を選挙前に明言すれば、ネタニヤフ陣営に格好の攻撃材料を与え、中道の有権者が離れかねない。しかし、アラブ系政党抜きでは過半数の計算が成り立ちにくい。
アルジャジーラの研究センターによれば、イスラエル国籍を持つパレスチナ人は約165万人で、人口の17%を占める。その投票行動は、ネタニヤフ氏だけでなく野党側の組閣にも影響しうると分析している。
米シンクタンクRANDのシラ・エフロン氏は、6月にニューヨーク・タイムズに寄せた論考(RANDが転載)で、秋の選挙を変化への最も明確な機会と位置づけた。新たな連立政権が、入植者による暴力の抑制、ヨルダン川西岸の事実上の併合の停止、ガザ再建計画の推進、パレスチナ側機関との関係修復、民主的統治の回復を示せば、国際的孤立の流れを止められるという。エフロン氏は10月9日にも同紙に、イスラエルを孤立から脱却させる道を論じる論考を寄せている。
米ユーラシア・レビューの分析は、今回の選挙を、一人の指導者への信任投票というより、細分化した議会制度が改革を求める民意を統治可能な連立に変えられるかどうかの構造的な試金石と位置づけている。
おわりに
各国の報道を並べると、ネタニヤフ氏か否かという構図の陰で、パレスチナ問題や国際的孤立にどう向き合うかという論点が、選挙戦ではほとんど語られていないことが見えてくる。
結果の確定は11月4日。私が訪問する11月末は、その約3週間後にあたる。本の現地調査では、新しい政治の流れが、イスラエルのイノベーションを支える仕組みにどう影響するのかも確かめたい。友人が投じる一票の行方を見届け、現地で人々の声を聞いたうえで、改めて報告したい。
【主な参照先】
イスラエル中央統計局、KAN、マアリブ、i24NEWS、エルサレム・ポスト、ハアレツ、AP通信/PBS、ABC(豪)、フォックスニュース、アラブ・センター(米)、アルジャジーラ研究センター、RAND、ユーラシア・レビュー、クイレット







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