2029年から高齢者の金融所得を捕捉して負担増:それでも医療費を削減したくない厚労省

厚生労働省は、75歳以上の高齢者が株式の配当や譲渡益などで得た金融所得を、医療保険料や窓口負担の判定に反映させる制度を2029年8月から始める方針を示しました。金融機関から所得情報を収集し、確定申告していない金融所得も把握します。政府は「負担能力に応じた公平な負担」を掲げています。

【参照リンク】75歳以上の医療費負担、29年8月から金融所得反映 厚労省方針 日本経済新聞

金融所得が多い高齢者にも相応の負担を求めること自体は合理的です。しかし、この改革には根本的な問題があります。厚労省は医療費そのものを減らすより、医療費を賄うための新たな負担を探すことに熱心なのです。

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高齢者の資産を捕捉する前にやるべきことがある

現在、75歳以上の医療費の窓口負担は原則1割で、所得に応じて2割、3割となります。一方、現役世代は原則3割です。この年齢による格差は、医療サービスの利用を必要以上に増やす原因にもなっています。

本来なら、年齢ではなく負担能力に応じた制度に改め、75歳以上も原則3割負担とすべきです。低所得者には高額療養費制度などで配慮すればよいでしょう。

ところが厚労省は、原則1割という仕組みを残したまま、金融所得の把握を精緻化しようとしています。これでは制度の抜本改革ではなく、負担増の対象者を増やすだけです。

医療費を減らさず財源だけ探す

日本の医療制度の最大の問題は、医療費の増加を当然の前提としていることです。

高齢化によって医療需要が増えるのは避けられません。しかし、すべての医療支出が必要不可欠というわけではありません。重複投薬、効果の乏しい検査、漫然と続けられる長期処方、過剰な病床など、削減できる部分は少なくありません。

出来高払いを中心とする診療報酬制度では、医療行為が増えるほど医療機関の収入が増えやすくなります。こうした供給側のインセンティブを改革せずに、患者や保険加入者の負担だけを増やしても、医療費の膨張は止まりません。

しかも医療費は、患者の自己負担だけでなく、現役世代の保険料と公費によって支えられています。高齢者の負担割合を多少変えたところで、医療サービスの総費用が減らなければ、問題の先送りにすぎません。

医療業界の既得権益には手をつけない

なぜ医療費の削減が進まないのでしょうか。大きな理由は、医療サービスの供給体制に踏み込む改革には強い抵抗があるからです。

一方、金融所得の捕捉は「公平な負担」という説明がしやすい政策です。既存の医療提供体制を大きく変えずに財源を確保できるため、厚労省にとって都合のよい改革といえます。

もちろん金融所得の捕捉には意味があります。しかし、それを医療制度改革の中心に据えるのは本末転倒です。

必要なのは負担増より医療費の総額抑制

日本の医療制度を持続可能にするには、75歳以上の原則3割負担への移行、低所得者への重点的な支援、診療報酬の見直し、病床再編、費用対効果に基づく保険給付の重点化を同時に進める必要があります。

金融所得を把握して高齢者から保険料を徴収するだけでは、増え続ける医療費を追認することになります。

医療費を削減する改革を避け、負担する国民を探し続ける。これが厚労省の改革の限界です。 医療制度改革の目的は、医療業界の収入を維持することではなく、必要な医療をより少ない国民負担で提供することのはずです。

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