
勤務間インターバル制度は、終業から次の始業までに一定時間以上の休息を確保する仕組みです。夜遅くまで働いた人が休息を取れば、翌朝の始業時刻に間に合わない日が出てきます。その遅れた時間の扱いについて、国は標準を示すべきだと私は考えます。
11月は過労死等防止啓発月間です。その前の10月14日、厚生労働省は労働政策審議会労働条件分科会(第212回)に、ある論点を示しました。「勤務間インターバル制度のより実効性ある導入促進のために、『法的位置付け』を含め、どのような措置を講ずべきか」というものです。義務にするかどうかに加えて、翌朝の始業をどう処理するかも導入の行方を左右する、というのが私の考えです。
努力義務のまま、導入は1割に届かない
労働時間等設定改善法は2019年4月から、事業主に「終業から始業までの時間の設定」などに努めるよう求めています。勤務間インターバルという名で導入を促しているのは、同法に基づく指針です。
令和7年就労条件総合調査(2025年1月1日現在、常用労働者30人以上の民営企業)で、制度を導入している企業は6.9%でした。企業規模別では、30〜99人が6.1%、100〜299人が7.5%、1,000人以上が20.1%です。過労死等防止対策大綱は、導入企業の割合を令和10年までに15%以上とする目標を掲げています。
導入の予定も検討もない企業に理由を尋ねると(複数回答)、最も多いのは「超過勤務の機会が少なく」必要性を感じないという57.3%でした。残業の少ない会社が要らないと考えるのは、自然なことだと思います。一方、導入を予定または検討している企業は13.8%で、導入済みの企業の約2倍あります。導入の手前にいる会社は、導入した会社より多いのです。
翌朝の始業の扱いは会社ごとに分かれている
従業員80人ほどの会社が、制度の導入を検討したとします。この会社は、私がこれまで相談を受けた何社かの事情をもとに描いた架空の例です。休息の時間数はすぐに決まりました。止まったのは、深夜まで顧客対応をした社員が、休息を取ると翌朝の始業に間に合わない日をどうするかです。
遅れた分を働いたものとみなして賃金を差し引かないのか、始業と終業をそのまま後ろへずらすのか。前者なら働かない時間の分も給与を払うことになり、経理から異論が出ました。後者なら帰りが遅くなり、現場が渋りました。規程案は、棚に置かれたままになりました。
厚労省が2020年3月に出した導入・運用マニュアルは、制度を設計するときの検討項目を7つ挙げています。その3つ目が「翌日の所定勤務開始時刻を超えてしまう場合の取扱いの設定」です。対応としては、働いたものとみなす方法と、翌日の勤務開始時刻を繰り下げる方法の2つを挙げていますが、どちらを基本にするかまでは示していません。分科会の論点資料も、この項目を参考として載せました。
すでに導入した企業でも、やり方は分かれています。制度を導入している(していた)と回答した企業を対象に、厚労省は令和6年度に実態調査を行いました。結果は、始業と終業を休息の分だけ後ろ倒しにする企業が39.4%でした。始業時刻から実際に働き始めるまでを働いたものとみなす企業は19.2%、一定の時刻以降の残業を禁じる企業は10.8%です。
翌朝の扱いは賃金にも帰宅の時刻にも及ぶ
私には、休息の時間数よりも、翌朝の始業の処理のほうが重い問題に見えます。翌朝の始業の処理は、賃金、割増、帰宅の時刻、翌日の段取りに一度に関わるからです。後ろ倒しを選んだ企業の82.5%は、法定労働時間内であるとして割増賃金を払っていません。追加の費用が出にくいことも、この方法が多く選ばれる理由の1つだろうと思います。
この最も多い方法については、分科会の資料で事務局が整理したこれまでの意見の中に、公益側の意見があります。後ろ倒しは「労働者のワーク・ライフ・バランスにマイナス」であり、「義務化の検討とあわせて、他の望ましい方法について周知することが必要」というものです。始業が遅れる場合の処理は、これまでの議論の整理にも意見として載っています。
どの方法を選び、選んだ後に賃金と終業時刻をどう決めるか。人事の専任を置きにくい規模の会社が、これを1社で考え抜くのは重い作業です。検討で足踏みする会社がつまずく場所の1つは、ここだと私は考えています。
標準は義務化の結論を待たずに示せる
事務局が整理した意見では、使用者側は時間数を一律に決めるような規制に反対し、すでに導入している企業のさまざまな方法を認めるよう求めています。労働者側は、法律による義務化を求めています。この標準は、どちらの立場とも両立しうると考えます。どの型を選ぶかを会社に強いるものとは違い、制度を置く会社が最初に迷う点を前もって埋めるものだからです。
国に示してほしいのは、型を選んだ後の考え方です。働いたものとみなす型なら、みなした時間の賃金をどう扱うか。後ろ倒しにする型なら、終業時刻もずらすのか、割増をどう考えるか。みなす型で賃金を差し引かなければ、働かない時間の分も給与を払いますが、翌日の終業時刻は動きません。後ろ倒しにする型は給与の負担が増えにくい一方、社員の帰りが遅くなります。どちらの負担を取るかは各社の労使が選べばよく、国に求めたいのは、選んだ後に1社ずつ考え直さずに済む材料です。
義務にするかどうかの結論が出るまでには、まだ時間がかかるでしょう。国は「法的位置付け」の議論と並べて、休息が翌朝の始業にかかったときの扱いについて、この標準を示すべきです。標準は、その結論とは別に用意できます。
【出典】
・厚生労働省「令和7年就労条件総合調査の概況」(2025年)
・厚生労働省 労働政策審議会 労働条件分科会(第212回、2026年10月14日)資料No.2-1「労働時間法制の具体的課題に関する検討の論点について」、資料No.2-2「労働時間法制の具体的課題について」
・厚生労働省「勤務間インターバル制度 導入・運用マニュアル(全業種版)」(2020年3月発行)
・厚生労働省「令和8年版 過労死等防止対策白書」(2026年)
・労働時間等の設定の改善に関する特別措置法、過労死等防止対策推進法(e-Gov法令検索)







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