耳の痛いアドバイスが耳に入らないのはなぜか

(前回:部下を「無能」と決めた上司の前に、できる人は現れない)

この本の著者のもとにも、前作『ひとを変える魔法』について「初見ではこんなことが書いてあるとは思わなかった。読むたびに新鮮な発見があるので読み返している」という感想が定期的に届くそうだ。

著者はこれを海外旅行にたとえる。初めての国は行けただけで満足だが、2回目以降は深く知ろうとしたり、目的を持って訪れたりする。経験や知識で「知らない」が修正されると、目に入る情報が変わるのだという。

『わたしを変える魔法 フラクタル心理学でもっと幸せな未来をつくる』(白石美帆 著)同文舘出版

書評を書く側から言わせてもらうと、2度目に気づくのはたいてい、1度目に読み飛ばした耳の痛い箇所である(自分に都合の悪いところほど目が滑るのは、私だけではないはずだ)。

そういえば、この本の後半はまさにその耳の痛い言葉の話だった。著者は、親や上司、人生の先輩のアドバイスは耳の痛いものほど本物だとする。ところが、自分より下と決めた相手の言うことは耳に入らない。フラクタル心理学で「チャイルド」と呼ばれる幼い自分の思考が、物事の一部だけを見て「親より自分が偉い」と勘違いしているからだ。感情が避けたがる言葉こそ取り入れるべき成長剤で、きちんと栄養にして花を咲かせようというのが著者の主張である。

私がいちばん好きなのは、指摘する側について書いた部分だ。厳しい言葉は相手を知っているからこそ出てくるもので、本当は言う側のほうが胸が痛い。嫌われるかもしれない、拒否されるかもしれない、わかってもらえないかもしれないという不利を越えてまで、相手の成長を選んだ勇気と愛がそこに込められていると著者は見ている。

言う側に回ったことのある人なら、ここで少し救われるのではないか。あなたにも、言わなければよかったと夜中に思い返した経験があるでしょう?

著者は、その背景まで受け止められる大人の心を育てれば、今見ている景色より高いところへ連れて行ってもらえると約束する。私はそこまで楽観的になれないが、苦い指摘をくれた人の本を2度読むくらいのことはしてもいいと思っている。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、作家)

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