
2026年10月7日、米国証券取引委員会(SEC)は、世界最大級の資産運用会社ブラックロック、ステート・ストリートなどが関与した気候変動関連の投資家連合「Climate Action 100+」(CA100+)について、23ページに及ぶ調査報告書を公表しました。
SECは今回、違法行為の認定や法的措置を見送りました。ブラックロックなどが組織的な議決権行使に合意した証拠は得られなかったためです。ところが、SECは23ページにもわたる膨大な調査報告書を公表し、CA100+の参加企業などに対して「重大な懸念(serious concerns)」を表明しました。
ESG投資家連合がエクソンモービルの取締役を交代させた
CA100+は2017年に発足したESG投資家連合で、世界の主要な温室効果ガス排出企業に対し、排出削減や気候関連情報の開示を要求してきました。今回のSECによる調査対象は2021年5月のエクソンモービル株主総会です。CA100+は同社の気候変動対策に不満を持ち、2019年から18か月もかけて経営方針や取締役構成の変更をめざす戦略を綿密に検討していたようです。
その後、新興アクティビスト「Engine No.1」が取締役候補者4名を擁立し、最終的に3名がエクソンモービルの取締役として選任されました。つまり、単なるCO₂排出量の情報開示要求にとどまらず、企業の取締役を交代させるところまで踏み込んだわけです。
SECが問題視したのは、こうした活動が組織的な議決権行使に該当する可能性です。
複数の圧力キャンペーンがブラックロックを動かす
今回の報告書で興味深いのは、ブラックロックがCA100+に加盟するまでの経緯です。当初、ブラックロックは他の投資家と協調することで証券法上の問題が生じることを懸念し、加盟に消極的だったようです。そこで、CA100+を支援する非営利団体Ceresなどがブラックロックに働きかけます。
2019年、Ceresは大手資産運用会社48社の気候変動関連の議決権行使を評価し、ブラックロックを43位、ステート・ストリートを31位と発表しました。この結果、両社は多くのメディアから批判を浴びました。
また、ある英国のアクティビストは、ブラックロックが企業に対して排出量開示の拡充を求める株主提案を支持しなかったことを挙げ、同社が「グリーンウォッシング(環境配慮を装う行為)」を行っていると非難しました。
さらに、Ceresの担当者が外部支援者に送ったメールには、次の記述まであります。
一部の投資家パートナーは、ブラックロックとの資産運用契約にClimate Action 100+を組み込んでいる。これにより、我々は、ブラックロックが世界規模でその潜在能力を最大限に発揮できるよう働きかける上で、かつてないほど強力な影響力を得ることになった。
よく聞く「サステナビリティ体制の構築」「CO2排出量情報開示要求」などとはほど遠い、かなり強烈な圧力とも言えます。気候変動対策への賛同を求めるだけでなく、ランキング公表、メディアを使った批判、大口顧客からの働きかけまで利用していた実態が、SECの調査によって明らかになったのです。
なんと報告書内に日本のGPIFも登場
さらに驚きなのは、このSEC報告書に日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が登場したことです。報告書7ページには、次のように記載されています。
ブラックロックの顧客であり、かつCA100+のメンバーでもある日本のGPIFは、気候変動に関する懸念と関連づけながらブラックロックから約250億ドルを引き揚げた。
ただし、GPIFがCA100+への加盟を直接要求したことや、加盟拒否への制裁として運用資産を引き揚げたことまでSECが認定したわけではありません。
それでも、日本国民の年金を運用するGPIFが、米国の資産運用会社に対して気候変動関連の圧力を行使したという文脈で登場していることは注目に値します。日本国内ではほとんど知られていない話ではないでしょうか。
一連の圧力キャンペーンやGPIFによる資産引き揚げを経て、2020年1月ついにブラックロックはCA100+に加盟しました。
米国で広がる「ESG成敗」
筆者は先日、米国の州司法長官や連邦議会によるESG関連団体への追及を一覧表にまとめました。
米国で広がる「ESG成敗」:日本のメディアが報じない「気候カルテル」追及

この一覧表は転載自由です。筆者やアゴラ編集部への断りも不要です。どんどん使ってもらって構いません。メディアに限らず、大学の先生や学生の卒業論文、企業担当者のプレゼン資料など、どなたでもご自由にお使いください。そして、リンク先にある司法長官らの追及内容を、日本企業の経営層やサステナビリティ部門担当者へ知らせてください。
今回のSECによる調査報告書も、この一覧表に追加します。
米国におけるESG・脱炭素成敗の一覧
| 時期 | 実施主体 | 主な対象組織・イニシアチブ | 概要 | リンク |
| 2023年1月 | テキサスなど25州司法長官 | 米労働省(DOL)のESG投資規則 | ・従業員退職所得保障法(ERISA)違反/行政手続法違反 | テキサス州司法長官2023年1月26日付リリース |
| 2023年9月 | ネブラスカなど22州司法長官 | NZFSPAの署名機関 | ・独占禁止法/消費者保護法違反 | ネブラスカ州司法長官2023年9月13日付リリース |
| 2024年1月 | テキサス州司法長官 | バークレイズ | ・ネットゼロ方針/化石燃料企業ボイコットに関する質問に回答せず
→州の地方債引受市場から排除 |
テキサス州司法長官2024年1月26日付リリース |
| 2024年6月 | 米下院司法委員会 | CA100+、GFANZ、Ceres、ブラックロック等 | ・気候カルテルによる共謀/談合 | 米国下院司法委員会2024年6月11日付リリース |
| 2024年11月 | テキサスなど11州司法長官 | ブラックロック、ステート・ストリート、バンガード | ・市場操作
・共謀 |
テキサス州司法長官2024年11月27日付リリース |
| 2025年1月 | テキサスなど11州司法長官 | ブラックロック、ゴールドマンサックス、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、モルガン・スタンレー | ・ESG・DEI推進が法的/契約上/受託者責任上の義務に違反 | テキサス州司法長官2025年1月23日付リリース |
| 2025年7月 | フロリダ州司法長官 | CDP、SBTi | ・独占禁止法/消費者保護法違反 | フロリダ州司法長官2025年7月28日付リリース |
| 2025年8月 | アイオワなど23州司法長官 | SBTi | ・独占禁止法/消費者保護法違反 | アイオワ州司法長官2025年8月8日付リリース |
| 2026年1月 | フロリダなど6州司法長官 | Ceres | ・独占禁止法/消費者保護法違反
・「気候カルテルの首謀者」と名指し |
フロリダ州司法長官2026年1月21日付リリース |
| 2026年4月 | ネブラスカなど23州司法長官 | フィッチ、ムーディーズ、S&Pグローバル | ・利益相反
・独占禁止法/消費者保護法違反 |
ネブラスカ州司法長官2026年4月22日付リリース |
| 2026年4月 | フロリダ州司法長官 | ELI、Climate Judiciary Project | ・裁判官向け気候変動活動教育がFDUTPA違反 | フロリダ州司法長官2026年4月16日付リリース |
| 2026年4月 | フロリダ州司法長官 | ユニリーバ、コカ・コーラ、ネスレ等+環境団体 | ・環境方針を巡る協調/取引制限/価格上昇に関する独禁法違反 | フロリダ州司法長官2026年4月21日付リリース |
| 2026年8月 | ネブラスカなど16州司法長官 | デロイト、EY、PwC、KPMG | ・独立性義務違反
・利益相反 |
ネブラスカ州司法長官2026年8月24日付リリース |
| 2026年10月 | 米国証券取引委員会(SEC) | CA100+、Ceres、ブラックロック、ステート・ストリート等 | ・投資家による組織的な議決権行使に重大な懸念を表明 ・法的措置は見送り |
SEC調査報告書(2026年10月7日) |
これまでの追及は、主に独禁法、消費者保護法、受託者責任、利益相反などを問題としていましたが、新たに「組織的な議決権行使」が加わりました。
SECがCA100+を「気候カルテル」と認定したわけではありません。しかし、脱炭素という大義名分のもとに投資家が集団で企業経営に介入しても許されるのか。米国では、その活動手法自体がさまざまな法律の観点から検証されています。
一方、我が国では今なおESG投資や脱炭素を推進することが当然のように語られ、企業に対するESG関連の情報開示や投資家との対話も(最盛期からはピークアウトしたようですが)まだまだ要求されています。
しかし、投資家が集団で企業に要求を突きつけ、応じなければ評価を下げる、果ては取締役の交代までめざす——。こんな活動が本当に投資家や企業の利益につながっているのか、そして法的にどこまで許されるのか。日本の金融機関や年金基金も、そろそろ真剣に考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。
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