電通の1年生社員が昨年末、自殺した事件が労災と認定された。その原因をめぐっていろいろな論議が起こっている。彼女の遺したツイッターに苛酷な労働実態が記録されていたからだ。
彼女のいたデジタル・アカウント部はインターネット広告を担当しており、この時期に電通は111社に633件の不正請求(合計2億3000万円)を行なっていたことが今年9月に発表された。トヨタが7月に指摘したことが発端だが、それまでにもクライアントから苦情が来ていたと考えられる。彼女もその実態を知っていただろう。
部長「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」
わたし「充血もだめなの?」
— まつり (@matsuririri) October 30, 2015
自殺との因果関係は不明だが、労基署の認定した残業時間は105時間で、極端に多いわけではない。これだけで自殺していたら、毎月200時間以上残業している霞ヶ関では自殺者が何万人も出るだろう。問題は彼女のツイッターに残されている労働環境だ。
休日返上でつくった資料をボロくそに言われた。もう体も心もズタズタだ。
もう4時だ。体が震えるよ… しぬ。もう無理そう。つかれた。
資料づくりに朝4時まで残業するという昭和的な仕事のやり方が、日本のホワイトカラーの労働生産性が低い原因だ。先週のアゴラ経済塾でも議論したが、日本の職場は上司や同僚との長期的関係で情報を共有する「タコ部屋」なので、ネットワークでできる仕事でも大部屋でやる。
そもそもインターネット時代に「広告代理店」という仕事が必要なのだろうか。今は彼らがネット・リテラシーの低い企業に代わって広告を出しているが、ネット広告の規模はグーグルのほうがはるかに大きい。電通の社員は、グーグルのコンピュータがやっている仕事を人海戦術でやっているのだ。
その結果、グーグル(Alphabet)のROE(株主資本利益率)が14.8%なのに対して、電通は4.8%。時価総額はアルファベットの55兆円に対して、電通は1.5兆円だ。それでも電通は日本では高収益の独占企業であり、多くの企業はもっとひどい。日本の会社は、世界から取り残されてしまったのだ。
気の毒だが、電通社員が明け方まで資料づくりをしても、グーグルには絶対に勝てない。仕事のやり方が根本的に間違っているからだ。本来は電通のような低収益企業が市場から退場してグーグルのような新しい企業が出てくるはずだが、資本・労働市場がそれを許さない。これが日本の生産性が低い原因である。