ソウル教育庁を再び訪れました。前回の訪問時にはこういうことを伺ったのですが改めて状況を聞きました。
いま重視しているのは3つ。1)校長の研修。2)教授法のスマート化。3)コンテンツの開発。校長をCEOと呼んで権限を与え、彼らに「スマート教育」を引っ張らせる。そして先生方の教授法を確立し普及させるため体験センターを開設する。同時に予算を確保してコンテンツ開発を進める。
つまり、ハードよりコンテンツ、コンテンツより人、という考え方。日本はこの逆じゃないですか?大事なポイントですよね。
基本アプローチが戦略的に映ります。韓国の教育情報化は4ステップをふんできました。
- 97年~2000年 PC・ネットの全校配備
- 2001~2005年 教師の教育、校務情報化、教材共有化(クラウド)
- 2005~2011年 サイバー家庭学習、コンテンツ共同開発
- 2012~2015年 デジタル教科書開発、オンライン授業・評価、教員研修
こうした積み上げの中で培われた人とコンテンツ重視の姿勢なのですね。ハードウェアがバラバラだから、アプリやコンテンツの標準化が重要という認識も改めて強調していました。
教育庁はkkulmart.comというサイバー家庭学習のサービスとコンテンツの開発に力を入れているそうです。4300人の先生と86万人の小中学生がオンラインで利用しているとのこと。大変な規模です。全ての学校がホームページを持っているが、スマホ/タブレット向けに全てアプリ化する計画もあるとか。
仁川のカジャ高校では、「子どもを変える前に先生を変える」ことが重要であり、デジタル教育の研修に力を入れているという話を聞きました。コンテンツ開発も現場自ら行う。生徒みんながスマホを持っていることを前提に教材を開発しているとのこと。教育情報化のアプローチは現場とも共有できているんですね。
PCベースからタブレット/スマホベースへと進む韓国。「スマート教育」という言葉が定着しています。コンテンツ開発の現場、教科書会社のミライエ社は、自らのデジタル教科書のことを「スマート教科書」と呼んでいました。デジタル教科書はデジタル素材を使った教科書を指す国の公式名称だが、出版社としてはよりよいものを作る意識を示すため、呼び換えているんだそうです。
ぼくらの団体は「デジタル教科書教材協議会」ですが、もう「スマート教科書教材協議会」に改名せんといかんのかの?
ショックなことを聞きました。かつて教科書制作には日本の教科書を参考にしていたが、今は欧米を参考にしていて、日本のは見ていないというんです。うめきます。
同じ声を教育現場でも聞きました。カジャ高校の先生は、70年代は日本の教材や問題集を大学入試に使っていたと言います。
学校向け映像コンテンツの開発も進んでいます。PC向けの映像ネットサービス「教育IPTV」のことも通信会社KTに伺いました。
2010年からIPユニキャスト形式でサービス提供していて、学校でも教師の18%が利用しているとのこと。来年はタブレット向けも始めるそうです。小中高向けに全科目の16万コンテンツを用意していて、教科書に準拠したものだけでも6万の動画やアニメがあるそうです。学校に対しては教育科学部から年40億ウォンの補助も出ているとか。
教育IPTVはSK、LG系の通信会社も提供しています。こういうサービス、日本には見あたらないなぁ。このサービスは通信事業というより、コンテンツ事業、サービス事業です。高いレイヤのビジネスに本腰を入れているわけです。通信、メーカ大手が教育分野に注力し投資を拡大しており、競争が激化しているとのことです。
日本は教育にビジネスを持ち込むことに躊躇しているというより、教育が国際的ビッグビジネスに成長することへの確信という点で韓国に劣後していると思います。
さらにKT、SKテレコム、SAMSUNGら通信・メーカ大手は「スマホを使ったほうが子どもは勉強する、賢くなる」とPRし、社会を説得してきたとのこと。そんなこと、日本企業はやってないですよね?
しかも、通信3社が教育IPTVを開始したのは、政府・教育科学部がサービス開発を要請したのを受けてのことだといいます。ううむ、日本の文科省がNTTやKDDIやソフトバンクにプレッシャーかけたなんて話は聞かないぞ。
今回最も驚いたのは、COEXで開催されていたe-Learning Korea展で聞いた話。韓国政府はODAでケニアや中央アジアに教育情報化を展開してるんですと。タブレット普及や研修など。やはり世界を見ている。産業として将来の輸出を展望するとともに、文化移植も見据えているんでしょう。会場で「日本も途上国に井戸を掘ってますよね。」という声を聞きました。はい、戦略的に。とは返せませんでした。
今回も刺激になりましたが、強い刺激の連続で、そろそろ萎えそうです。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年12月4日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。