アゴラ研究所が11月に行ったシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言・第一部 原発はいつ動くのか」で、解説をした水野義之京都女子大学教授のプレゼンテーション資料を公開する。(PDF)解説は福島の現状を適切に概観するものとして反響を呼んだ。
水野氏の解説は、ビデオで公開され、発言の一部はGEPRの記事「原発はいつ動くのか ― シンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」報告・その1」にまとめられている。水野氏は福島の原発事故では、市民への情報提供、住民による放射能防護活動「エートスプロジェクト」の支援を行っている。
資料では「16万人の避難者の現状」「健康被害の可能性」「ICRPに照らした日本の政策、基準、コスト」と3つの問題について情報を整理した。
また上記の説明記事で水野氏が行った解説の内容を以下抜粋する。
(引用開始)
現在は福島原発事故で周辺住民16万人が避難を続けている。水野氏は避難者を含む「災害関連死」の問題を指摘した。事故による放射能での死亡者は確認されていない。しかし、避難の最中や仮設住宅の居住でのストレス、事故による病院の機能停止などで、今年9月末で2303人もの方が関連して亡くなってしまった。「悲劇を繰り返さないための、避難者のニーズに合わせた対応が早急に必要」(水野氏)という。
健康被害の可能性では、「福島県住民のがんリスクで、明らかな増加傾向は見えないとWHO(世界保健機構)が評価しており、健康被害の可能性は少ないというのが専門家の大勢」と、認識を述べた。
また放射線の防護では国際的な研究者からなる民間団体のICRP(国際放射線防護委員会)のが各国に対応策を勧告している。同団体は平常時に年1mSv(ミリシーベルト)、事故では年20mSvの防護の基準値を設け、それを実情に合わせて調整していくという対応を勧める。それより上回っても、基準値を目標にして段階的に除染などで被曝を次第に下げる方法だ。そしてこれは健康被害の出ない慎重な数値設定という。
しかし「基準値20mSvを超えてはいけない。超えたら健康被害が起こる」という誤解が日本で広がり、人々が不安を抱いて混乱が生じた。今でもその誤解が残る。
そして、水野氏は状況を次のようにまとめた。
こうした三すくみ状況を変えるために、政府の主導で人々の啓蒙活動を行い、不信の連鎖を取り除く必要があるという。
さらに原発の運用者が批判を恐れ「絶対安全」と言い続けたことも、問題をおかしくした。「科学の視点からみると『絶対安全』はない。これが適切な事故対策が行われなかった一因になった。行政、電力会社、学会が自縄自縛になり、そこから抜け出られなくなった。リスクと便益を、確率を用いながら説明し、政策に織り込むべきだった」(水野氏)。
(引用終わり)
このような事実を受け止め、福島の復興に私たちは協力しなければならない。