昨夜のニコ生は、書類送検されたひろゆきが主役だったが、後半で竹田恒泰氏が「日銀がお札を刷ればデフレは脱却できる」といったのに対して、ひろゆきが「ゼロ金利では企業が金を借りないから意味がない」と反論したのがおもしろかった。これはひろゆきが正しいが、安倍=麻生政権がねらっているのはそういう純然たる量的緩和ではない。
安倍首相はリフレを激しく主張しているが、麻生財務相の記者会見を聞くと、日銀法にもインフレ目標にも言及していない。外債購入についても「G20で国家が介入して、通貨を一方的に切り下げるとか上げるということは、できないルールになっている」と否定的だ。ゼロ金利でGDPを増やす方法は、ケインズ的な財政政策しかないのだ。
気になるのは、麻生氏が「資産デフレ」という言葉を使っている点だ。一般的には資産インフレもデフレも政策で是正すべき対象とは考えられていないが、選挙対策としては地価や株価を上げることが重要なのだろう。そのためには国債を発行して、日銀にマネタイズさせることが早道だ。来年の参院選までに「基本的に景気が良くなったと思ってもらうのが第一。優先順位の一番はそれだ」という彼の話が自民党の本音だろう。
日銀が社債や株式などを買うのは、単なる金融政策ではなく、白川日銀総裁のいう「準財政政策」であり、理論的には効果がある。これは銀行を通さないで企業に金を直接ばらまくヘリコプターマネーだからである。この区別は重要で、ほとんどの人は理解していないが、ゼロ金利では金融政策はきかないが、ヘリコプターマネー=準財政政策はきく。
しかしこうした非伝統的金融政策の効果は小さい。供給された資金が企業に吸収されてしまうからだ。それより政府が公共事業で直接マネーをばらまくほうが効果的だ――という結論に、新政権もそのうちなるだろう。2%のインフレ目標を達成することだけが目的なら、自民党が公約している「国土強靱化」で200兆円の国債を発行するのが手っ取り早い。これによって地価も株価も上がるだろう。
問題はこれ以上、財政赤字を増やして財政がもつのかということだ。それは誰にもわからないが、おそらくあと1年ぐらいはもつだろう。その間に公共事業を発注して土建業者に金をばらまき、それによって金利が上昇するのを防ぐために日銀にファイナンスさせる麻生氏の戦術は、自民党の選挙対策としてはよくできている。
気の毒なのは、財政出動に反対している浜田宏一氏などのリフレ派だ。麻生氏はリフレ派ではなく、藤井聡氏を内閣官房参与に起用した原始ケインジアンであり、金融政策なんか信じていないのだ。浜田氏は、その学問的な名声を自民党の集票戦術に利用されているだけである。
追記:麻生氏はNHKのインタビューでも、「日銀がいくら金融緩和をしても銀行からお金を借りる民間の需要がなければ、そのまま置かれてしまうため、財政出動によって雇用を生んだり、民間の設備投資意欲を喚起したりしないといけない」と明言している。彼のねらいは金融政策ではなく財政政策である。